「それでは皆さん―― ……良い夢を!」
……。
…………。
リオネル・サンドリヨンは「イバラシティ」の外で生まれ育ったと認識している。
能力を持たぬ両親を元の街に置いて、単身やってきた。
カラミティイーター
彼の力は、≪不幸喰らい≫。
実際に運が絡むか否かはさほど重要ではなく、ただ使い手であるリオネル・サンドリヨンがその事象に対してネガティブな感情を抱き、そのうえで『それを自分が代わりに引き受ける』――そう望めば、それが叶う。それ即ち、極めて限定的な運命操作。
その不幸を、消し去ることはできない。よって、リオネル・サンドリヨンが代わりに引き受ける必要がある。
それを引き受けることが叶ったとして、それとは別に彼が『運命を捻じ曲げた』という事実が生まれる。故に、その代償も別途支払う必要がある。それは、リオネル・サンドリヨン自身の『幸運』である。捻じ曲げる数が多ければ多いほど、彼は不幸を呼び寄せるようになる。
それは極めて限定的ではあるが、曲がりなりにも『運命操作』。人の身に余る力。それを持つが故に、それを所持するためにも代償が必要となる。リオネル・サンドリヨンは日常においても小さな不幸に見舞われやすいのは、それが理由である。
リオネル・サンドリヨンがその力を振るうためには、その引き受ける『不幸』を認識する必要がある。認識する手段は問わず、認識が正確でない場合は不完全な発動となるか不発に終わる。たとえ不完全であっても問題なく『発動』した場合、リオネル・サンドリヨンは『蜜のような味』を強く感じる。
異能使用に負担がかかるのか、あるいは本当に『不幸』を『喰らって』いるのか。リオネル・サンドリヨンは異能を発動させすぎると、食欲というものが消え失せる。不幸を呼び寄せている間は『蜜のような味』が口内に残り続ける。
リオネル・サンドリヨンは高校入学時点で、これらを概ね把握している。
己の力が人の身に余る代物であることも。
それ故に使いすぎれば己が身を亡ぼす可能性があることも。
リオネル・サンドリヨンがイバラシティにやってくる前の時点で、同様の能力を持つ存在は身近にいない。むしろ、彼の身の回りに異能の持ち主はいない。リオネル・サンドリヨンはそう認識する。
それ即ち。その力は誰かに教わったものではなく。把握できる程度に、その力を振るい、成功と失敗を繰り返したということだ。その人の身に余る力を。