―― 忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな
「私のことは、忘れちゃっても構わない。でも、貴方が禁忌を犯して、神罰が下って……そして、死ぬことになっちゃったら、私は耐えられないから。
どうか、生きて。私の分まで。
どうか、生きて。私の分まで、幸せになって。」
―― 花梨!!
この姿になって、第一声がこれだった。
あぁどうして忘れていたんだろう。
どうして思い出せなかったんだろう。
あんなに大切で、大事で、なくさないようにって思っていたのに。
言われた言葉を思い出す。……アンジニティの、それからここに来るまでの記憶はイバラシティにいる間は消えてしまうらしい。いや、自分の場合は消えるのではなく、『決して思い出せない記憶』となっているようだ。
巫女の姿で頭痛を覚えたのは、かつて大切な人の姿と重なったから。
一緒に居たい、護りたい、そいつと幸せになりたい、そんな言葉を投げられて頭痛を覚えたのは、かつて大切な人に対してそうあると誓ったから。
イバラシティでの自分は、ただの腑抜けだ。大切だったものが抜けて、ただ人の形を成すだけのまがい物。
せめて、大切な人のことが思い出せていたなら、あんなにも生き難くはなかっただろう。虐げられ、嘲笑われるのはアンジニティでも、そこに追放される以前でも経験したことだ。ただそのときは、花梨が居たから辛いとは思わなかった。
花梨が幸せならそれでよかった。
花梨が笑ってくれればそれでよかった。
けれどあたしは、間違いを犯した。
追放されて、どうして生きるのか、あたしの幸せはなんだろうと、自問自答を繰り返した。
その答えは、もう出ている。
あたしは人間が嫌いだ。あたしを虐げ、侮蔑し、いい用に利用し、私利私欲のためにしか動かないあいつらが。好き勝手に傍若無人に振る舞い、ただ自分に益があればそれでいい。そんな汚い生き物が、あたしは嫌いだ。今でも喰い殺したくて喰い殺したくて仕方がない。あたしを殺し、花梨を悪者にし、花梨を殺したあいつらを。あたしは絶対に許さない。
……けれど、花梨は。
そんな、人間が好きだと言うから。
そんな、人間と楽しそうに話をしていたから。
―― だから、あたしは守るんだ。
花梨の望んだ幸せを。
もう繰り返さない。間違えない。
花梨が幸せになることが、あたしの幸せだから!!だから、あたしはイバラシティを守るんだ!!
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ちわわ 「あたしは負け犬ちわわ。アンジニティに生きる、真っ白な小さな子犬。」 |
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ちわわ 「―― 跪け、ちわわ様が通るぞ。」 |