……気が付くと、この世界にいた。
周囲を見渡せば、時計台と、見覚えのあるような荒廃した風景。
告げられる、侵略のルール。襲い掛かってきた、見たこともない生物。
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シキ 「……あの話。本当だったのか……」 |
あのアナウンスの声が聞こえてから、イバラシティでは何も起こらなかった。
正直、イタズラの類だと思っていたのだが……。
ひとまず落ち着ける状況になったところで、人を探す。
団体戦だとか言っていたか。他にも大勢の人がこの世界に呼ばれているようだが……
……叔父と、友人の姿は見えない。呼ばれていないのか、近くにはいないのか。
不安を覚えつつも、思い返す。叔父と、友人――トラは、声を聞いていなかった。異能も持っていない。
呼ばれていない。そう考えてもいいだろうか。そうであってほしいと思った。
……だが、では……異能を持っている、あの声を聞いていた友人は。彼女は呼ばれているのだろうか?
不安が強まる。危険な状況に陥ってはいないかが心配だ。
とにかくは、連絡を取る手段が無いかを探してみよう。皆が来ているのか、無事なのかを確かめたい。
そして……この先のこと、戦いのことだ。
先ほどはなんとかなったが、来て早々の戦闘。そしてこの先も、戦いが待ち受けているのだろう。
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シキ 「……あまり見られたくないとか、言ってる場合じゃないんだろうな……」 |
先も分からぬ異常事態。……身を守るためにも、異能を使わざるを得ない状況なのだろう……
考える。自分の異能は絵が無ければ発動できない。
幸いにも、今の自分の格好はグラフィティを描きに行く時の状態だ。
鞄の中にある画材の数々。数冊のスケッチブック、いくつものスプレー。申し分ない。今の自分の武器はこれか。
……できる限り、絵を残していこう。アートの数が自分の力になる。
目立つだろう。だが敵に対しては罠になる。仲間に対しては目印だ。
自分にできることをやっていこう。ひとつでも多くのグラフィティを残すため、行動を始めた。