『どうして?』
『あたし、いただきますって言ってたのに』
『ごちそうさまって言ってたのに』
『ママの言う事をちゃんと聞いてたのに』
『どうして、あたしが悪い子なの?』
『どうして、あたしがどこかへ行かなきゃいけないの?』
”それはお前が、怪物として生まれ、怪物の心を持って生きてきたからだ”
”民を喰らう魔物、王国の生み出した歪みの裔。灰色の大蜘蛛よ。
この世界に、お前の居場所はない”
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ノイ 「……」 |
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ノイ 「そっか、そうだ。そうだった」 |
あたしにあるのは、八本の脚。
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ノイ 「あたし、化け物なんだった」 |
あたしにあるのは、化け物の心。
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ノイ 「あたし、やっぱりどこにも居場所なんてないんだ」 |
あたしは夢から醒めた。
化け物が、人の築いた世界で生きられるわけがない。この世界でもそうだった。
植え付けられた十八年間。人のかたちをもらったあたしの記憶。そこでも同じ。
あたしがあたしである限り、結局、どこにも居場所は無い。
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ノイ 「どこにも……」 |
そう、どこにも――
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ノイ 「…………」 |
――そう思えたら、どれだけ楽だっただろう。
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ノイ 「…………」 |
あたしに、化け物の心すら無かったら、楽だったろう。
人の心なんて欲しがらなければ、楽だったろう。
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ノイ 「…………」 |
だけど実際には、何もなかったはずのあたしに、たくさんのものが出来てしまった。
植え付けられた記憶のその先に、居場所が出来てしまった。
乃井香には人の心があったから?イバラシティの人達は優しかったから?
それとも
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ノイ 「…………シキ……」 |
どうして、あたしは人じゃなかったんだろう。
どうして、あたしは初めから乃井香じゃなかったんだろう。
そうだったら、きっと、もう少しくらいは友達でいられたのに。
それだけで良かったのに。他に何もいらなかったのに。
視線を降ろせば、そこにあるのは虫の体。八本の脚。
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ノイ 「……この化け物め。化け物、化け物、化け物」 |
こんな姿、見られたくないな。嫌われたくないな。困らせたくないな。
だけど、今度こそ無理。いつかは知られる。
どこの世界に、こんな化け物を好きになってくれる人がいるの?
人を啜っていた化け物と、誰が一緒にいてくれるの?
友達なんて、夢に見る資格だって無かったんだ。
だから、あたしは……だから、だから?
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ノイ 「……あたし、どうしたらいいの?」 |
……それでも、確かな事はある。
あんな世界はもう嫌だ。あたしはもう、一人は嫌だった。
無知とは罪か?
知らぬままに生き続け、分からないと叫んで罪を重ねる。
それこそが彼女の咎。
灰色の脚は虚しく土を掻く。愚かな大蜘蛛。世界のノイズ。