走馬灯、というやつがある。
まあ、今までに何回か見たことはある。
なんだかんだで――死に目にあう、というようなコトになるのも一度や二度じゃない。
これまで生きて来た中で、やってきたこと、やれなかったこと、色々な事が頭を過るのだ。
ヒトによっては、死んだ親とか、親戚とかがやれこっちに来るなとか、河を渡れとか。
いろんな容はあるらしいと聞いている。
それに似たような感覚だな、と思った。
今あっている出来事ではないことを、反芻するように思い返していく。
これまでに出会った、沢山の人。
そこでの、おのれの。
あるいは、相手の行動。
交わしたやりとり、言葉――。
「‥‥‥」
尤もそれは今さっきあったことではない。
‥どちらかというとそれを思い返しているところだ。
眩暈がする。
どうして、と問いかけるべき相手もいない。
理不尽としか言いようがない。
「死にてえ‥」
取り敢えず、煙を入れよう。
なんつーか、衝撃的すぎて頭もまわらねえ‥
此方では――『ハザマ』に今はいるのか。
ほとんどアンジニティに居た頃からすると時間は過ぎていないらしい。
湿気ていたら面倒だなあと思ったが、荷物は意識が離れる寸前そのままだ。
煙草を取り出すのにも。
それに火を入れるのにも、難儀しない。
‥咥えこむところまでは『指の仕事』だが、そこから先は特に使い出はない。
今となっては、『いつもの姿』――指を持たない代わりに翼を備える竜の躰に戻る。
そういやあ、アンジニティに来たころは、まだどちらともつかない中途半端だったな。
壊れた壁に顎を置いて煙を吐き出す。
横目で、それが流れていくのを眺めていると、少しずつだが気持ちも落ち着いてくる気がする。
‥うん、気がする。
気がする。
「‥‥」
状況を整理したほうがいい気もする。
ただ、直視しがたいが、現実的にどう足掻いても回避できない話として。
俺は、イバラシティでは犬だった。
あ、ダメだコレやっぱしにたい