|
(ハロウィン過ぎてますが前回からの続き的なものです。適当に流して下さい)
ハロウィンと言ってもこれといって特別な事を話すわけではない。 よく思い起こしてみれば、この王様という男と過ごした時間はごく限られたものであったかもしれない。 女が男の元へ訪れるのは人々の寝静まる時間、男が寝所へ入ってからであった。 しかも、その殆どが夢で記憶を消すというものであったから、男からしてみればあまり面識がないくらいの印象であるかもしれない。
しかし、それでもお互いどこか、別の場所で会っていたような気でいた。 それは、現実の世界での女が見ている夢、または男の夢の中であったかもしれない。 女は、現実の世界で覚めることのない夢を見続けている。 女はその夢の中で、不自然な程に明るい、砂漠に沸くオアシスの湖のようなブルーの瞳を見た。
夢の中では女の叫びは届かずにいつも男は消えてしまうのだった。 もどかしい思いは苛立ちと不安に変わり、この夢の世界での女は虚ろな世界から抜け出せずにいた。 しかし、そんな不安を紛らわしてくれたのもこの男だった。 自らの記憶も定かではないというのに。
女には愛する家族がいた。 また女を愛してくれる男もいた。 だが、女と関わったすべての者は悲痛な死を遂げ、また、女は死ぬことも生きることもできない体となった。 元々自分の生態故、若い姿のまま老いることなく、半永久的に行き続けるため、普通の人間を愛することは禁断とされていた。 その上、自分が愛し、また愛してくれた者の死を目の当たりにした女は、自分の心のままに人を愛することができなくなっていたかもしれない。
この常闇の世界で出会った男は、最初は単純に慈悲の心であったかもしれない。 腹をすかせた小さな子供の相手をしたことは気まぐれであったかもしれない。
だが、冷たいベッドで覚めることのない夢を見ている女にとっては それは暖かく、砂漠の太陽のように眩しかった。 無意識に染み付いた、人を愛してはいけないと思う心とは裏腹にこの男に知らず知らずの間に惹かれていく事は不可抗力であったのかもしれない。
この男に出会ったのがこの世界でなかったなら。 彼の身分も、自分のこの生態も、関係なく、素直にこの男に想いを打ち明けられたならどんなに良いだろうと思う。
こうして色取り取りの淡い光に照らされた男の横顔を見ながらこんなにも胸が鼓動を打つこと、またその包容力に安心していられる事が、とても幸せなことだと思った。
しかしこの時間は永遠ではなく、そしてこうして会うことももう余りないのだろうという予感がしていた。
それは気付くのに遅すぎた恋ではあったが、これから、もし元の世界に戻り、再び永い眠りにつくのであれば、この男の事を想い続けていられるのかもしれない。
男は、元の世界でもたまには自分を思い出してくれるだろうか。 ふと、そんなことを思った。
とりとめもなく、砂漠の世界の伝承等を語る男を再びじっと眺めた。 こんなにも、幸せで、切なく、そして愛しい時間をくれた人。 自分に恋を与えてくれた事に感謝をしながら。
唐突に男の語りを遮り女はこう言った。
「王様、私、王様が好きよ。 そして、忘れないでほしいの。この闇の世界で私と会ったこと。 これから先、闇の夢しか見られないと思っていた私が、光を見つ けたことを。」
突然の告白に男は目を丸くして何かを言いかけた刹那、男の首筋には冷たい感触があった。
男は気付くと街中に立っていた。 すぐ傍にはハロウィン色に変わっている屋台が見える。 はて、何故このような場所で立っていたのかと首をかしげるとチクリと痛みが走った。
首元には虫刺されのような痕が再びついており、それは今までの中ではもっともハッキリしたもののようだった。 「はて…これは中々治らぬかもしれぬな…」
眉を顰めた瞬間、首元にあてた腕の袖から、微かな薔薇の香りが漂い、何かを思い出しかけたような気がしたが、屋台から自分を呼ぶ声に我に返り、足を向けた。
次の瞬間ふわりと霧が舞い、「ありがとう」という女の声が聞こえたような気がした。
(ハロウィン過ぎてますが前回からの続き的なものです。適当に流して下さい)
ハロウィンと言ってもこれといって特別な事を話すわけではない。 よく思い起こしてみれば、この王様とい…
(続きを読む) |
|