ハムの一週間

「泣いている時のよう、か

（戻って来た眼鏡はもう不要なもの。受け取った手を軽く振れば確かに其処にあった物体は虚空に消えた）」

「汝らのような存在には歳を重ねる事で老化したり、衰えたりと云う事がないのか。
それは限られた時や肉体と云う枷に縛られて居る人の子には羨ましい事だ。」

「服か……本来ならばそれは我の妄想の世界から引き出した幻に過ぎぬ故、我から離れれば自然と消え失せるもの、だが
（現に先程の眼鏡は必要が無い、と己が判断した瞬間に存在しないものとなった。
　然し、とグラハムの顔を眺め見）
汝の力が在れば維持する事は可能であろう。
その服を汝が忘れぬ限り、汝の力により保たれる筈だ」

「気に入ったのなら、持って居ると良い。」

「（罵倒されるかどうかはともかく、とライズの言葉に首を傾げ）
楽しいものだがな。酒池肉林と云うのは。
汝も経験してみればわかるであろう、男ならば。」

「───（大人になれぬまま死ぬ、と云う言葉が記憶の片隅にある何かを掠めた。
思案げに目を細めながら「痛ましい事だ」と相手の言葉に頷きつつ）

限りある命にしがみ付くからこそ、人は醜くもあり尊いものであると我は思うが。
永久を手にしている者には解るまい……否、我もまた人である故に果ての無い者達の事はようわからぬのだがな。

生れ落ちてしまったものは仕方が無い、その場所で生きられるだけ生きてみるのが人と云うものだ。」

「……汝の知り合いの「王子様」がどのような理由で命を狙われているのかは知らぬが王位の簒奪を狙う者や、他に己の意のままになる「王子様」を王位に置いて権威を欲しいままにしたいと願う者は多い。

それらに打ち勝ち、強き王としての力を示す事が出来ねばその者に生きる道はない、のだ。」

「（おや、見損なわれたようだ、とライズの反応見てグラハムにやれやれ、と肩を竦めて見せつつ、小声で告げられる言葉に片眉を上げ）」

「───…。
ならば幻のように消えぬよう、汝が繋ぎとめるしかない。
「居なくならないで欲しい」とはっきり云ってやれ、消えようとしても汝の顔がこびりついて離れぬようにな。」