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「潜入の末路」
突然の騒音に目が覚める。 寝起き、その最初の行動に身体を伸ばす事を選択した私は、ぴしりと身体を走る痛みに硬直した。 怪我の類ではない、長時間、身体を一定の場所に固定していた為に起こる、そういった痛みだ。
常から寝相の良い私は、こういった痛みを、稀に良くある事として受け止めてはいるが、今、感じたのは、これまでに経験した事が無いほどに鋭い痛みであった。
私は疑問に思いながらも身体を起こそうとし、そしてようやく身体を縛られている事に気づいた。 よくよく見れば自らの身体は大きな台の上に固定されており、口には何故か猿ぐつわまで噛まされている。 一体私の身に何があったのか?
寝ぼけ眼で更に周囲を確認し、これまた眠気に雲のかかった頭で状況を把握せんと努める。
私が目を覚ましたのは薄暗い個室であり、周囲は湿った空気で満ちていた。
ともすれば、この光景はその昔に安寧を得た墓地を思い起こさせるが、しかし、自らの記憶の中の墓地とは、確実な相違点が存在した。
私の眼前、天井付近で回転するドリルである。
見まごう事なきドリルが呻りをあげていた。 騒音の正体とはつまりあのドリルで、あのドリルが稼動していると言う事は、これから使用する、と言う事であろう。
そこで私は自問する。 あのドリルは、何に使用するのだろうか? 1.周囲の壁を削り、部屋を大きくする為に使用する。 2.実は整備不良が無いか確認してるだけ、すぐに大人しくなる。 3.私に使用する、現実は非情である。
3!3!3!頭の中に警告音が響き渡り、やっとの思いで正気を維持する。
私はすぐさま身をよじり、逃げ出そうとするが、身体を固定したロープは思いの他に固く、数時間程度では抜け出せそうにもない。
そうして私がもがいている間にも、眼前でドリルは回り続け、世界もまた廻り続ける、あぁ、これが流転なのですね。 師よ、ならば私は行きましょう、この世界を巡る旅へと……!
……あまりの事態に思考が逃避を始めるが、さりとて現実が変わるはずも無く。 少々の空しさを覚えた所で、妙に聞き覚えのある声を耳にする。
気だるさと払えぬ眠気をそのまま反映したかのような声は、紛れも無く取引メイの物であり、その声を聞いてようやく、私は取引メイの秘密に迫らんと、某所に潜入していた事を思い出したのだった。
「お気づきになられましたか、そろそろコンファインが必要そうでしたので、先んじてお手伝いさせて頂きます。」
有無を言わせぬ口調で取引メイは言い放ち、私は否定しようにも口の猿ぐつわに邪魔をされ、不明瞭な呻を発する事しかできずにいる。
焦る私を尻目に、取引メイはせっせと準備を開始する。
私は己の全能力を用いて、状況からの脱出を試みる。
ロープからの即脱出は不可能である、強力に固定されている。
自決も不可能である、我々英霊は、現在の肉体が死しても魂までが死ぬ訳ではない、脱出方法に自決を組み込んでも然程の問題は起きないが、そもそもの自決手段を持たないのであれば、上記の事柄は全くの無意味である。 なぜならば、先程にも答えた通り、私は猿ぐつわを噛まされており、その身体を固定されているからだ。
取引メイの説得は不可能である、理由は同上だ。
私が必死の打開策を考えている間にもドリルは呻りを上げ、取引メイは準備を完了し、この身は出所のよく解らない絶望感に苛まれてゆく。
私の頭上に、死、あるのみ。と言う言葉がチカチカと点灯し始めた時、取引メイがまるで歯科医のように優しく語り掛けてきた。
「では、コンファインを開始します。痛いと言ってくださいね。」
泣いても叫んでも止める気はないようである。 私は「消え去れ悪鬼」と口の中で呟き、自らの今後に涙した。
何故こうなったのか、今となっては、自らの行動を後悔するばかりである。 -end- -----------------------------------
俺、ことルドー・デイは、取引メイの居城に潜伏し、彼奴の秘密を解き明かし、その寝首を掻かんと、情報を収集しながら居城の探索を行っていた。
上記の内容は、その際にとある一ブロックで発見されたメモに記入されていた物だ。
つまる所、このメモは、先人からの「引き返せ、かゆ、うま」的なメッセージであるらしい。
しかし、そうなると疑問が残る、このメモ、果たして本当に先人の書いた物なのだろうか……?
真に先人が書いた物であれば、その先人は、取引メイのコンファイン後、正気を保ちながらこのメモ書き留め、その後に、もう一度、この取引メイの居城、その深層に潜入し、メモを隠した、と言う事になる。
……あり得るのだろうか、ここまで恐怖に怯えた者が、果たして?
逆に、このメモは脱出の際に書き留められ、置いていかれた物だとしよう、これ程の恐怖を綴った者が、脱出を中断してまで、後発の為のメモを残すだろうか。
そこまで考えた時、俺は一つの可能性に気づく。
……このメモの「私」なる人物は、「俺」の未来であり、つまり、このメモは、取引メイから、俺への、警告である、と言う可能性だ。
俺は既に、捕捉されている……!?「潜入の末路」
突然の騒音に目が覚める。 寝起き、その最初の行動に身体を伸ばす事を選択した私は、ぴしりと身体を走る痛みに硬直した。 怪我の類ではない、長時間、身体を一定の場所…
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