■answer/future...

１人では見る事の出来なかった場所、そして光景。
そこへ連れてきてくれた少年との最初の出会いを思い出しながら、ただ無心になって剣を振う。
一振り、二振り。踊るようにも見える動きで、以前よりずっと重さを伴った剣筋をなぞるその挙動は、一定時間繰り返された。

連れの少年が起きるよりずっと早いだろう時間帯に、早朝の恒例の鍛錬を終えた後で、愛剣に宿るアークに声をかける。

「なぁ、アーク」

「……何だ、マスター」

長剣の柄に埋め込まれた宝玉が淡い光を放つと、そこからアークと呼ばれた燐光をまとう少年姿の妖精のようなものが姿を現した。

「あの“混沌”は、どうやって私を見つけ出したんだろう。それこそこの世界への滞在を決めた折に、散々話し合って、私は“目印”になるものを然程持ってないからそう易く見つけられないだろうと思ってたのに。精神攻撃の類も予想通りだったしね……懸念材料だったように、知己に直接手を出される前にこっちに来てくれて、何とか倒したから最悪の事態を防げたのは良かったけれど」

その問いかけにアークはふむ、と考え込んだ。

「そうだな……我が思うに、最初はこの騒動の裏に“混沌”が絡んでいるのではないかと疑ったが、そうではなかった様子。では何故此処に出現したのか。これだけの騒動に集まった人数。“混沌”らが好み糧にする負の感情も沢山あろう。それらに惹かれて来た個体がこの世界にたどり着いたとしたら……如何にマスターが“目印”になるものを然程持っていないとはいえ、見つける事が可能だったのではないだろうか」

「成る程なぁ……それじゃ防ぎようがない事故みたいなモンだし、この騒動も終わりそうって最前線から情報ちらほら流れてきてるのと、レフィ様の“遠見”でも間違いなさそうだから、またご同類が来るって事はまずなさそうだな」

「あったとして、マスターは封印を受けているだけで体調も万全であるし、前回と同じ過ちを繰り返す事もあるまい」

そのアークの言葉には渋い顔をするシェリィ。

「まぁ……それはそうなんだけど。この世界で思ってた以上に大事なモンが増えたからね。これから先も“混沌”を相手どるのに、今まであんまり仕掛けられなかった精神攻撃仕掛けてくる輩が増えるのなら、うんざりだ」

それを聞いてアークはこう返す。

「なれば今までこの世界に滞在し、そのような存在が増えた事を後悔しているとでも？」

「そんな訳あると思う？　ってゆーかそんなの聞く方がおかしいってレベルの話だぞ、アーク」

「分かっていて一応確認を、な」

「意地の悪いコトするなよ、全く」

「いや、これは大事な話故。今後もこの世界で出会った存在達との縁を繋ぐのか。この世界に限らず、新しく訪問した世界の誰かと縁を繋ぐのか。何れにせよ、正直それらが増えるほど“弱点”が増える……上がそれらを快く思うはずもない。最悪、マスターの“記憶”を……」

「……その“記憶”なんだけど、さ」

アークの言葉を遮って言葉を挟むシェリィ。

「長い間、探し物をしてきて、その答えが此処で見つかりそうだから、って、アークにも頼んでメルンテーゼに留まってきたんだが。……正解か分からないけど、それこそ関わってきた人達のお陰で、出せそうな答えは幾つかあるんだ」

「そういえば以前言ったな。何かが見つかる事が、終着点ではないという事を。それを見つけた上でのさらなる変化を、我は見届けたいと。マスターは我のその願いを叶えられそうなのか？」

「ご期待に沿える程の話になるかは分からないけど、ね。少なくとも探し物が見つかったら、そこで終わってもいい……なーんて事をちょっと思ってたのを見抜かれてたっぽいのは、そんなつもりはさらさらない、に変わったのは言っとく。関わるのが面白いヤツら揃いなのに、自分からそれを投げ出すつもりはないさ」

「……ほう。そういう言葉が出てくるだけでも、確かに変化はあるようだな」

実際、アークの目から見ていても、このメルンテーゼでの滞在期間で、マスターは以前以上に喜怒哀楽をはっきりとさせ、親しくなった者たちと関わりをもっていた。
それを上司ともいえる一族の“長”たるレフィナードが快く見守っていた辺りで、レフィの心中とアークの思いは重なるのかもしれない。

「あぁ。それに上の連中と、大半の同族の意識を変える。時間かかっても、必ず。だから私の“記憶”に手出しなんてさせるもんか。それに、私が“アイツ”……リーディの意志を継ぐ事になるって決めたのに、答え見つけたとしても色々投げてちゃ駄目だろ」

意識改革に関しては、それを支持するとレフィから言葉を引き出せた事に、ジェイドという名の少年に感謝しつつ。

「“記憶”と“変化”。多分これが鍵なんだ。私の探していたものの。“忘れるのと忘れないでいるのは　どちらが幸せなんだろう”ってリーディの質問に、昔は答えられなかったけど今なら言える。例えそれが辛い記憶だったとしても、自分の意思に反して忘れるのは私なら御免だ、って。だから私が一族の例外である事を、よかったと思うよ。そして皆の在り方は不遇……いっそ不幸だとも。この答えを、リーディに伝えたい」

「……ふむ。かの存在がそれを聞いてどう思うかは興味深い所であるが……マスターの今の表情を見ていれば答えはもう見えているように思うな」

何処か晴れ晴れとした顔で語るシェリィの様子を見ているだけで、付き合いの長いアークにはもう分かっていた。
己のマスターの“変化”を見守り、見届けると願った事……それはここが終着点ではなく、始まりになるのだとマスター自身が自覚した事で、叶うのだと。

「私は“一族で現存する最強の剣”であると同時に“忘れる事をしない者”である事。戦うだけが存在意義ではなく、これから残り寿命で関わる者の事を忘れないでいようと決められる事。そして関わる事をやめないでいようとすること。“忘れないで済む記憶を持ち続ける覚悟”が、探し求めていた事の答えなんじゃないかと思ってる。ミドルネームにもう１つの意味があるって言われたのも多分その意味は“記憶”……レフィ様の考えはそういう事なんじゃないかな」

そこまで一気に告げると、大きく息を吐いてシェリィは笑った。

「恐らくそういう覚悟を持った上で、“見守りたい子達”や“大事な人”とも“呑み仲間”とも“友人”とも呼べる、この世界で出来た存在達と関わる事をやめないってのが、探し求めていたものでもあるんじゃないかなぁ。今までそこまで深く関わってきた存在そのものが居なかった私に、もしかしたら両手じゃ抱えきれない位、全部抱えようって思ったら欲張りかもしれない程のモンをこの世界で貰ったよ。そして今後も色んな世界で誰かと関わる事をやめないのなら、まだまだ増えるかもしれないね」

そう告げてシェリィは真っ直ぐにアークを見つめる。

「それらは私の“弱点”になりかねない以上のモンをくれると思ってる……だから“混沌”連中になんて易く負けたりしない。ここまで付き合ってくれて有難うアーク。私はきっと、ずっと私の道を探し続けるよ。“探し求める者”……この生を終えるまで探し物は続くかもしれないし、また新しい答えが見えるかもしれないからね。これからも宜しく頼むよ」

「……ふむ。探求をやめぬ事を選ぶか。そこまで言うなら、今後も加護を与えるのもやぶさかではない。偉大なる我のような神聖霊の守護を受けられるのを、光栄に思うが良い」

小さな胸を張って尊大な態度を取る、何時ものアークの様子に小さく笑う。

「まずはあのレシュの取った強引な策での別れ方の後で、滞在時間があるなら必ず探し出すって決めたんだから、シスの行方を探さないとなぁ。島に帰ってるなり……無事にしてるといいんだが」

天を仰ぐ。
思えばシスという名の少年との出会いが、人と深く関わる事になった切欠だった。

もう１度、あの一回り自分より小さな手を、握りに行こう。
思いがけない形での別れを経て、必ずそうすると心定めた。
かの少年もまた“探し求めた”答えの１つなのだろうから――。




※Ｉｋｋｉ　Ｆａｎｔａｓｙ　Ｔｈａｎｋ　Ｙｏｕ！！※

◆左からＥ−ｎｏ：1166さん・698さん・594さん・1718さん・ＭｙサブＰＣ・805さん達・1638さんお借りしました！●最終回までに１度でも送受信させて頂いた方達、かつ絵資料のある方々になります。入りきらなかった方申し訳ない＞＜　皆さんに全力で感謝を！◆

（PL:間に合わなかったらすみません…！）


（ふと、気が付けば… いつか、どこかで聞いた足音がする。
振り返れば、久しく姿を見せなかった女剣士の姿。

思わずカルは、表情を緩め微笑んだ）

（安堵の表情、そして少しの懐かしさを覚え…）

（やはり、どこか懐かしむ様に… 目を細めて）

（取り出された酒瓶を見て、クスッと笑う。
失った時間を取り戻した様に… とても楽しそうな様子だ）

（ゆったりと腰を下ろし… 落ち着いて会話をする体勢を整えて）

（その正体を聞いても、少し驚いたのみで恐れたりする事はなく…
むしろ、より興味深そうな様子を見せている）

（ニヤリと笑って冗談めかす。
スッカリ当時に戻ったかの様に… 昨日の事のように、食い付いて）

（屈託ない表情で、微笑んで…）

（苦笑し、少し申し訳なさそうに…
ちょっと、答えを期待するような目も向けて来たり…）

（別れを惜しむ気持ちはある… だが、それを今は押して微笑を見せ）

（どこか冗談めかしたように、ソウ語り…）

（微笑み、その後も幾度も言葉を交わした。
いつかの続きを… 明日に繋がる今日だから）

もっと色々な事を教えて欲しい…と話す少女に対し、ちょっといじわるそうな顔をする狐。

にゅふふ☆と笑って応じる狐。
バングルを受け取り…

そう言って狐が差し出したのは、白詰草のあしらわれた、布製の栞。

にぱっ☆と笑顔で栞を渡す。

（そちらのメッセージの後に続きます。早いうちにメッセージ案を頂きありがとうございます）

（ほんの少し寂しそうに、ジェイドは応えた。それは、この戦いが終わるであろうと言うことを予期してのものでもあるだろうし、住む世界が違うという事を明確に意識した上で、何かしら他の感情が混じっているかもしれない。ジェイド自身、自覚し切れていない。自覚するには生きてきた年数がまだ、足りないのだ。）

（そう笑顔で応え、最後の戦いに向かうジェイドでありました。最後までメッセージのやりとりをして頂き本当にありがとうございます！）

（鞘から長剣を抜き放つと綺麗に構えを取って）

（こちらも緩やかに仕込み杖を長剣の形に変形させて構える）

（……私はただ、目の前の音に耳を澄ますだけよ）