これは、銀葉赤苧（ギンヨウアカシア）？

ああ、ミモザ、か。聴いたことがある。黄色の赤苧を飾って祝う、花祭の名じゃな。
これを儂に？

……ふ。女へ花を贈るとは、リオンもよう理解ってきたではないか。
嬉しいのう。ああ、良い匂いじゃ。甘酸っぱさが、胸いっぱいに広がって心を安らかにしてくれる。

ありがとう、リオン。

最初は誰もが、出来ないことだらけじゃろうて。
経験し、学習し、実践し、失敗し、思考し、やがて雪辱を果たし、己の力へと変えていく。
己の力を１年前とくらべてみよ。そなたはいまや、出来ることの方がよっぽど多かろう。

おや、人生の進路はともかく、恋の悩みはお手上げなのかや？
そなたは今、恋の真っ最中なのかと思うておったが。

ふふ。いかんなあ、直感的に否定しては。
良いではないか、朝は恋人のように甘く、昼はペットのように癒し、夜は愛人のように情熱的に。
どれもとても素敵な間柄であろ？　

む？　そうか、そっち方面は知らんのか。
……。例えば、好きな子には意地悪したくなるという気持ちは、解らぬかや？
痛みを伴う戦闘の中でこそ、自分が生きているという実感を得られるという戦士の気持ちは、どうかや？

確かに、血が濃くなると異常者が発生しやすいの。それを利用して異能者を作る技もあるが。
じゃが、一度好きになってしまった相手をそう容易く諦められるものかのう。
ちなみに、兄弟なら子供は出来んのではないか？　儂は兄妹とは云うておらんし。血も濃くならんぞ？

もっとも、同性同士で子供を作る手段もあるのじゃがな。そなたの先生は、その領域には達しておらなんだか。
養子を取るという手もあるし、それこそ「お互いが納得して」いるから問題なかろう。
複数人を愛するわけではなく、ただひとり。まあ、それが兄弟だったり同性だったりするだけで。

ん？　儂か。儂は別に愛人でも困らぬぞえ。
困らぬが、妻を捨てて儂に走った頃にはこちらから捨てる。
どちらかを愛する能力しか無いくせに、両方手に入れようとする器量無しなど、願い下げじゃ。

ふふ、小狼が一丁前に云うではないか。
じゃが、好きという気持ちがあれば無敵、その言葉には同意せざるを得ぬのう！
リオンは、ちゃんと好きという気持ちを知っておるのじゃな。相手のどのようなところが好きなのじゃ？

ああ、遠いな。目視で対岸が覗ける河や湖とは訳が違う。
しかも見渡す限り海ばかりで、方角を知る手段は太陽と星の位置ぐらい。
船ならば羅針盤や星図を調べる余裕もあろうが、泳いでいては調べられまい。

植物でも、病気や事故や怪我で死ぬかも知れぬのは一緒じゃな。
動いて病院へ行ける分だけ、動物の方が生き延びる確率は高いかも知れぬ。
それに。関係とは何もせねば疎遠になるものぞ？
相手が来てくれなくなっても、植物では会いに行くことも出来んのではないかの。

なんじゃ、お母さんでは不満なのかや。我が子の為にお腹、というか身体も痛めておるのに。

……名前？　ふむ。儂で良いのか？

ふむ。"ミスティル"というのはどうかの。本来は、ヤドリギを意味する言葉なのじゃが。
ヤドリギは神殺しの樹剣としても有名じゃが、一方では幸運の源とも、縁結びの飾りとも言われておるのじゃ。

儂が人間に惹かれる理由か。
ふふ。口で説明するのは難しいが、やはり一番の原因は、最初に好きになった相手が人間だからじゃろうな。
そして年を経てからは、短命ながら妖に伍する実力を身に付ける成長の輝き、醜悪さの中に秘めた誠実な意思。
そういう、矛盾をはらみながらも強く在ろうとする心に惹かれておるのかも知れんな。

まあ、精霊が厳密にそういう属性を持っておるのかどうかは知らんがの。
ただ、精霊とは自然や草木、動物にも宿るものというからの。宿るものに合わせて特徴も変えていくのじゃろ。
リオンの中の精霊が、リオンの成長に合わせて成長していくのと同じように、な。

はは、先に仕事の報酬を考えても仕方なかろうて。
まずは植物の精霊と契約内容について深く話し合ってみることじゃの。
そも、リオンの中で成長できるということは、きっと精霊はリオンのことを好いておるに違いない。
恋人のように愛せとは云わんが、相思相愛の仲になれれば、好きという無敵の力が生まれるのではないかな。

なぬ。神使……神様に仕える方のバイトをやってみたいじゃと？
紹介は出来んことはないが、大変じゃぞ。
給料は歩合制じゃし、24時間勤務の上休日出勤ありで超過手当は無し。もちろん残業代が出るはずもない。
仕事内容は神様の使いっ走りに食事の支度。時に悪霊退治、嫌な神の対応、氏子の管理、天変地異の手伝い。
昇給代わりに神格が上がったりもするが、Twitterにふざけた写真を投稿して潰れた神社もある。大丈夫かや？

変化の術は確かに狐や狸の方が適性あるとは思うが、人化に至っては狼の方が得意なのじゃがのう。
ま、そなたの耳はもふもふじゃから、見えておる方が可愛いのじゃがの。

えー。大丈夫大丈夫。儂、その道のエキスパートじゃから、加減のしどころもちゃんと弁えておる。
しかしそこまで云うならば仕方がない。実戦で鍛えるしかないのう。
よいか、愛する相手と舌先で戦う時は籠城戦の方が唇という伏兵を使えるので、軽く攻めたのち引き上げて潜むのじゃ。

ふふふ。リオン、何を顔を赤くしておる。
新たな生命の創造という、神秘的な事象の説明なのに、何をいかがわしい想像をしておるのやら。

そなたは"先生"に、随分と優しくしてもらっていたはずではないか。
研究所から逃げ出す、そして追われた？

――不思議じゃの。そなたはいずれ、誰かの愛玩動物となるはずじゃ。リスクを侵さずとも外に出られよう？
組織と敵対するメイアの保護下にありながら、研究所で与えられた言葉をどうして今も大切にしておる？

それじゃあ、はじめましょうか

この戦いの先に、あの組織に鉄槌を与えるモノになるというのなら、私は、勝たなくちゃいけない。
……私の事を頼ってくれるあの子たちの為にも

ふぁ……。ぬ、闘いか？
すまん、ちょっと寝不足でな。何故、とは訊かぬでおくが良いぞ。

……大丈夫。必ず勝って君のためのネクターを手に入れてあげる。