手記を読み終えた僕達はその偉大な冒険家を追想する。
彼は己の全てをかけて転生体というシステムに挑み、心半ばで尽きる事となった。
彼を突き動かしたその心は彼自身にしか分からない事だろう。
しかし、一つ確かな事は彼はシステムを紐解き、僕を助け出そうとしてくれたという事だ。


自分は一人ではない、先人達の生き様があり、人生があって今の僕があるのだ。
手記を読み終えた僕は改めてそう思った。


――そして僕はそれを無駄にしてはならない。

僕は目を閉じ、精神を集中させる。

僕がまずやるべき事は偉大な冒険家が遺した宝物を見つける事だ。
そのヒントは彼の手記にきちんと書かれていた。

僕は心の中に満天の星空を想い浮かべる。
星々はそれぞれが違った輝きを放ち、そして魅力的だ。

僕はその想いを、その星の輝きを目の前に具現化させ、手に持つ手記を包み込む。
やっている事は一揆の参加者がよくやる『付加』と同じようなものだ。

遠い昔のようでまだ100日も経っていない少し前の事を考え、僕はクスリと笑う。

初めは少なかった星の煌きは段々とその数を増やし、いつしか手の中はまばゆい光となっていた。
光が臨界に近くなったところで僕は言霊を紡ぐ。



具現――水晶球の星空



その言霊と共に、手の中の光を思い切り上に放つ――すると光は弾け、辺りは満天の星々に包まれる。

それを見たシアは思わず感嘆の声を上げる。
驚きながらこちらを見るシアに微笑みで返し、僕は再び精神を集中させる。
そう、これはまだ途中経過だ。

僕はこの星空をある人に贈るために術を鍛練してきた。
僕が次に追想するのはその人だ。




彼女は星空を見る事が大好きだった。

一つ一つがそれぞれ違う輝きを発し、見る度に違う世界を彼女に感じさせた。

彼女は願った。

もしその輝きを手元に閉じ込める事ができれば、と。


今この満天の星空を贈る――12人目、『慧眼』のシェリア＝スターライトへ――！




広がる星空を『慧眼』で見据え、ジョンさんが施した『隠蔽』を紐解く。
彼は手記の中でこう書いていた。


この手記を読んでいる者に伝える。私は自分の宝物を『星々の光』の中に『隠蔽』した。


それより宝物が入った宝箱は『星々の光』の中にあり、その『隠蔽』を紐解くのは『慧眼』の力、という事だと僕は推測した。
そして、その推測は無事正解だったようだ。


やがて僕の手の中には彼が星々の中に隠した本質――彼の遺した宝箱が納まっていた。

僕はそっと中を開ける。
中には綺麗に折りたたまれた紙と、小瓶に入った小さな石――まるで星の一つが落ちてきたような綺麗な石が入っていた。