最近になってよく考えるのは、こんな世界に生きている割には、私のここまでの人生は、比較的悪いものじゃないって事だ、
　齢３０に届かない短い時間であったけれど、深く理解しあった友も出来たし、自分が護りたいと考える存在とも出会えた。恋人との幸せな時間も、今はきちんと思い出せる。
　不相応な幸せだ。自覚する範囲で護られて、自覚しない範囲でも護られて、そうやって生きてきた。
　この答えを出したことに不満はない、何度選択を迫られようと私はこうするだろうと思う。
　じゃあ死ぬのは怖くないのかときかれれば、怖いに決まっているとこれまた何度でも答えるのだろうけど。



　出立の日は晴れていた。フィロスは雨が多い世界だと、ユリウスに聞いたことがあった。みんなの心に雨が降っているぶん雨の日は鮮烈に記憶へと刻み付けられ、そういう印象を持つのだと。気障な台詞だ
　晴の日は仕事が多い、作物への水遣りも雨の日には出来なかった洗濯物を干すこともできる、そうやって上げていけば長いリストが出来上がる。それらを道場の皆でやるとしても半日は掛かることがざらだった。
　今日の仕事は私一人でできる。残った仕事も皆が何とかしてくれるはず。一人一人に手紙を残して来たのだから、やることがわからないって事もないだろうし。
　フィーナには三人分の手紙を預けてしまったけれど、ちゃんと届けてもらえるだろうか。
　冷たい風が吹いた、もう暖かい季節だというのに。
　奴らが待ち受ける城まではまだ距離があった。最後の確認とばかりに、状況の整理と遣り残したことがないかを確認しておく。
　ユリウスが率いる革命軍と支配者達の大きな衝突があったのは二ヶ月ほど前になる。病院などの施設４箇所に立てこもり、対処に出てきた魔術師を迎撃する形をとった。
　労働力となる人々を人質にとり、粘り強く戦った結果は革命軍がほぼ全滅するのと引き換えに、相手にも大きな損害を与えたときく。
　今でも立ち入り禁止にされた場所や、敏感な人ならば気づける死の気配が残留していて、復興の目処は立っていない。街中を歩いていても、事件前とは違った雰囲気が満ちている。
　ユリウスが斃れたのもこのときで間違いないだろう。
　ふと、踏み出す足に力が入っていることに気がついた、平常心平常心と口に出してみるも、やっぱりどこか熱いものが伏流している。仇討ちの意思がないわけではないけど、落ち着かなくてはならない。
　結局ユリウスに対しては別れの手紙を書かなかった、故人に向けて書くのもという気持ちと、彼から受け取った手紙を読むのに精一杯だったという理由があった。
　頻繁に届けられていた彼からの手紙は、そのどれもが封を切られることすらなく、また捨てられるわけでもなく、部屋の引き出しへしまわれていた。
　内容は活動報告と革命軍への加入を懇願するもので、相対した魔術師の特徴や、奴らの考え方に対する考察なども入っていた。
　彼の気持ちを考えれば、こんな手紙は読まないほうが良かったのかもしれないけれど、おかげで私がやるべきことを確認できていた。
　城まではもうしばらくかかる、石畳を靴が叩く音は少しだけ落ち着いてきていた。
　奴らから命令が下ったのは、衝突の一月後ぐらいだった。曰く『革命軍への直接的な援助を行った疑いあり、出頭せよ』ある程度の覚悟はしていたとはいえ、それを読んだときに衝撃を受けなかったといえば嘘になる。
　ユリウスは自らの声に狂わされ、私を戦闘に巻き込むことを恐れていた。それでも結局は千切れない糸が渡しに絡みついたということなのだろう。
　だけれどその手紙からは一つの朗報を読み取れた。私が上手く立ち回ることが出来れば、子供達は無事にすむかもしれない、そんな予感だった。
　
　
　

飴は何かに引っ張られるように、口の中へと消えていった。

大　氷　柱
……閑話休題

全力で走っていたが急に立ち止まろうとして、
勢いのまま前方にスライディング転倒した。

ガバッと起き上がり、つま先だけで歩き出す。
足音はしないが、滑稽な動きで、姿が見える状態だと
逆に目立ってしまうかもしれない。

見られてるのに気づいて首傾げ

剣を抜く、二度三度と素振りをして、目を瞑ると彼女の周囲に光が集まり、衣装を変化させていく

数度、電気が流れたような音がして、ふよふよと鞘に収まったままの剣が彼女の周囲を囲むように浮いた