(※引き続き番外編。
　 前回からの続きです。
　 エピローグの前の最後の話……となる予定。
　 時間が少々飛びます。)

「あー、皆で何処かに遊びに行こう！
　というのは良いんだけどさ。
　というか、
　了承してこうして待ち合わせ場所に来た訳だけどさ……。」
「……。」
睦美さんが物凄く動揺して、
何をどういえばいいか分からないと言葉を濁し、
咲良さんは驚きで固まってしまった。
まぁ、さもありなんではあるだろう。
「その、似合ってませんか……？
　何か変な所でも……
　こういう服は着慣れてなくて……」
「あ、いや、そうじゃないよ。
　よく似合ってるんじゃないかな。
　可愛らしくて……
　って、そうじゃなくて、
　魅月、説明お願いしても？
　というか、あんたはまたセーラー服か！
　うちの学校の制服じゃないみたいだけど……！」
「わ、私もちょっと説明が欲しいです。
　一体どんな状況なんですか！？
　これは！」
「状況も何も見ての通りじゃないかしら？
　といっても納得しなさそうね。
　まぁ、歩きながら説明するわ。
　ちなみに制服じゃなくて私服よ。
　デザインがセーラー服に似てるだけで。
　というか、
　セーラー服イコール制服っていう発想もどうかと思うわ。
　気に入ってるのよこのデザイン。
　下手な服より私には似合うと思わない？
　ちなみに黒基準の制服が一番好きね。
　私らしいもの。」
「まぁ、確かに魅月さんらしいですね……
　それをいうなら私もっていったんですけど、
　私はもっと色々お洒落してみた方がいいって……
　いえ、私も乗り気でしたから、
　文句言える立場ではないんですけど。」
そう、状況を説明しよう。
単純に私は皆で遊びにいこうと誘った。
普通に考えれば、
私と睦美さん咲良さんの三人で遊びに行く。
真白さんもいければいいのだが、
彼女は桜に縛られて動けない為、
やってくる事が出来ないのである。
そして、今この場にいるのは、
私と睦美さん咲良さんの三人はもちろんの事、
真白さんが加わっている。
本来ならばありえない相手がこの場にいるのである。
更に言えば、
彼女達は二人とも、
真白さんが道を聞かれて答えた所を目撃しているし、
物をもって、
普段と違う姿な辺り着替えてすらいる。
すなわち、
彼女は私達と何一つ変わる事なく、
一人の人としてここにいる。
だから驚いたのだろう。
まあ、実際の所、
幽霊である事に変わりはなく、
実体をもつには私がある程度近くにいないといけないが、
私の持ってる桜の枝を媒介に出張が可能という訳である。
都合のいい死体があれば、
それに乗り移ってとかもできそうではあるが、
こちらから手を出さず、
運よく都合のいい死体をというと、
確立的にはそんなに高くないし、
真白さんの良心が許すかといわれれば、
分からないところなので、
現実的ではない。
いずれは私が傍にいなくてもある程度どうにかしたいが……
まぁ、私と付き合っていくうちに、
ある程度霊格があがるだろうし、
自力でなんとかしてもらうとしよう。
「で、簡単な説明と、
　詳しく分かりにくい説明とどちらがいいかしら。」
「詳しく分かりやすい説明とかないのかよ！」
「まぁ、簡単な説明の方で……
　詳しく分かりにくい方も後で聞きたいけど、
　どう説明しても分かりにくくなるって意味でしょ？」
「流石は咲良さんね。
　どうせ、
　詳しく分かりやすい説明があっても、
　絶対する気がないという所まで分かっての発言よね。
　それ。」
「全く自慢できる事じゃないですよね。
　分かっててやってるんでしょうけど。」
「まぁ、これくらいでがたがた言うようじゃ、
　私の友人になってなってないでしょうに。
　こういう性格なのは百も承知でしょう？」
「そーだけどさ……」
全く、
私の性格は百も承知でしょうにといいつつも、
まぁ、こういう対応してくれるのも、
皆の優しさだと思う。
私は皆のそんな反応もまた好きであることも確かなのだから。
「ま、シンプルにいえばね。
　彼女の分身というか、
　一部である桜の枝さえもっていれば、
　其処へ移動することが出来るのよ。
　もちろん枝から離れて行動は出来ないし、
　私がいないとまだ実体化は出来ないけどね。
　つまり、
　私がいる近くなら彼女もこうやって一緒に楽しめるのよ。
　これで４人で色々遊べるわね。
　あ、ちなみにこの枝を使って連絡も出来るから、
　いわゆる携帯で呼んだらくるって奴かしら。」
「物凄く分かりやすかったけど、
　そう聞くと途端に印象悪くなってないか？」
「その例え話はちょっと……
　せめて……ええと。
　あ！
　時代劇で、
　出会え出会えーっていったら出てくる――」
「余計悪化してないか！
　それ！？」
それにしても、
睦美さんはいい突っ込みである。
きれがあるというか。
「睦美先輩っていい漫才師になれそうね。
　突っ込みのキレが違うわ。」
「あー。
　そうですね。
　確かに……！
　睦美さん！漫才師頑張って下さいね！」
「ちょっ、漫才師になるつもりはない！
　っていうか、
　真白……漫才師知ってたんだ。
　いつの間に……」
「大体最近の事は魅月さん通して知ってますよ。
　とはいっても、
　必要な情報量が多すぎてやっぱり知らない事とか、
　体験してないからどうしても分からない事ばかりで……
　だから、ゲーセンとかカラオケとか、
　今日は本当に楽しみなんです！
　それにしても、漫才師にはならないんですね。
　残念です……」
「残念っていわれても、
　あたいにだって夢はあるし、
　その道は出来る限り避けたいよ。
　それに突っ込みだけで漫才は成立しないから。
　まったく、もう。
　真白、大分魅月に毒されてやしないかい？」
「ひ、酷いです、
　流石にそれは言いすぎだと思いますよ……！
　素直にそう思っただけですから！
　それくらい切れのいい突っ込みだったんですもの。
　魅月さんに毒されてたら、
　もっと酷い発言来てると思います！」
「私の事をなんだと思ってるのかしらね。
　本人の目の前だというのに。」
「あはは……
　流石に魅月さんの普段をというか、
　素を知ってたら仕方ないと思うよ。」
「酷い話ねぇ。」
それにしても、夢ねぇ。
別にここでスルーしてもいいのだけど、
折角だからちょっと突いてみましょうか。
上手く隠し通すのか、
素直に言うのか……
ちょっと興味があるし、
いいからかいネタにはなりそうだし。
「ま、いいわ。
　それにしても、夢ねぇ。
　昔の夢ならまだしも、
　今の私の夢といえば、
　これからも今までどおり面白楽しく暮らす事で、
　既に叶ってるけど。
　真白さんはどうかしら？」
「え？
　わ、私ですか？
　ええと、そうですね。
　今の時間がずっと続いて欲しいって辺りでしょうか。
　こんなに楽しい時間を過ごせるなんて、
　本当に夢……でしたから。
　だから、私の今の夢は、
　この夢がこれからも続いていく事、です。」
「真白さんは本当に可愛らしいわね。
　という訳で、
　睦美先輩と咲良さんはどうかしら？
　今どんな夢抱いてる？
　あ、夢なんてないでも全然構わないわよ。
　そういう時は夢を見つけるのが夢にしておけばいいの。
　出来る出来ないはあるだろうけど、
　語れる夢があるっていうのはいいものよ。」
クスリと微笑みかけると、
睦美先輩からどうぞと、
咲良さんが譲っている。
遠慮しないで咲良さんから話せばいいのにとは思うが、
まぁ、彼女らしいし、
無理強いするものではないので、
別段気にする事もないだろう。
いつもの事だし。
「あー、じゃあ……
　あたいからでいいか。
　まぁ、あたいの場合は夢っていうより……
　目標っていったほうがいいかもしれないけど、
　それでもいいかい？」
「いいんじゃないかしら？
　目標を果たすのも立派な夢だと思うわよ。
　どんな目標なのかしらねぇ。」
「ん。そういってくれると助かるよ。
　まぁ、つまらない目標なんだけどさ。
　どんな形でもいいから力になりたい。かな。
　誰のとか聞くなよ。
　後は、そうだな。
　今、ふとそうだって確信したからついでにいおうか。
　親父の背に追いつきたい。
　今からだと遅いかもしれないし、
　追いつかないかもしれないけど、
　それでも……
　やっぱり親父もあたいの目標の一つだ。
　ま、どっちか片方なら今は前者を選ぶけどね。」
吹っ切れたようないい笑顔で答える睦美さん。
一度折れて挫折して、
こんな笑顔で復帰できた睦美さんなら、
その道がどんなに険しくて厳しいものでも、
きっと……
目的の場所へとたどり着けるだろう。
とはいえ、私がここでかけるべき言葉は――
「素敵な夢ね。
　安心なさい。
　何かあって目標を諦めることがあったら、
　可能な範囲で復帰できるよう背中を突き飛ばしてあげるわ。」
「突き飛ばすのか！？」
「突き飛ばすわよ。
　やさしいのは柄じゃないし……」
「私と真白さんに任せるんだね。
　分かります。」
「そういう事。」
「が、頑張ります。」
「……迷惑かけないように私が頑張るよ。
　さ、て。
　最後は咲良だね。
　実は一番楽しみだったりするんだけど。」
「あ、私もです！」
照れ隠しなのだろうか、
少し赤くなりながら、
咲良さんに夢を語るように促すのを見ると、
本当に嗜虐心というか、
私がからかう気持ちが非常に煽られるのだが、
本当に可愛らしいと思う。
ある種の才能というか、本当に恐ろしい。
生暖かい目で見ようと思ったが、
流石に自制する。
今はそれよりも咲良さんの夢を聞く事が大切なのだから。
という訳で、私は期待に満ちた目で咲良さんをみる。
「あの、物凄いやりづらい気が……
　っていうかはめた？
　はめました……？」
「はめたって言うより予定調和だと思うわよ。」
「うう……
　いえ、いいんですけどね。
　ほとんど自己責任ですし。
　本当にこの状況避けたかったら、
　色々やりようありましたし……！
　と、
　いっても私の夢なんてつまらないんじゃないかな。
　ずっと平凡な日常、
　いつかお嫁さんにいって子供を作って幸せな家庭を、
　そうでなくても普通に仕事をして幸せな余生を……
　なんてならない事かなぁ。」
ああ、成る程、
いい夢じゃないと思ったら、
予想外の答えが返ってきた。
けれど、納得は出来る。
「は！？
　え？
　ならない事ぉ？
　普通はなる事じゃ……！」
そう。
普通であれば睦美さんがいった通り、
本来なら幸せな家庭を作ったり、
余生を過ごす事が夢だろう。
だけど、
彼女にとってはそうやって普通に生きる事というのは、
普通にいきていればそれだけで達成できる事に過ぎない。
彼女にとってのそれは――
「うん、普通であれば、
　そうなる事こそが夢だというのは間違いないし、
　私の分相応ってそんな感じだよね。
　でも、夢っていうのは……
　決して諦めなんかじゃないと思うんだ。」
そう、諦める事。
違う自分でありたいと願い、
こうであったらいいなという夢は、
そうなるであろう未来であってはならない。
そんな想いがきっと咲良さんにはあるのだろう。
だからこそ否定する。
ただ幸せである未来を。
それはそれで幸せなのだろう。
それはそれでいい事なのだろう。
だけど、
夢としてそうある事を願うのは冒険が足りない。
現実的過ぎる。
どうせ夢を見るならば、
ありえない事を夢見ていたい。
きっと、
それが咲良さんという事か。
だからこそ、日常ではなく、
普通ではない私との出会い、
日常は彼女にとってはかけがえのないものだったのだろう。
友達となれたのは、
どれほどのものを彼女にもたらしたのかは分からないが――
「という事は、
　咲良さんの夢はそれとは真逆にあることなのね。」
「うん。
　でも、折角の夢だもの。
　手が届くところにあってほしいと思うんだ。
　だから……私は夢を他人に託した。
　私には出来ない事を、
　何か凄い事が出来る人と出会いたいって。
　でも、今は違うよ。
　もっと素敵な夢が出来たんだ。
　私はね。
　お友達、ううん。
　魅月ともっと一緒の道を歩んで行きたいっていうのが夢。
　そうしたら、
　平穏からは離れていくかもしれない。
　私の手にはおえなくて、
　どうしょうもない事がやってくるのかもしれない。
　けど、
　楽しくて、
　毎日が輝くのは間違いないから。
　ダメ、かな？」
思ったより多くのものをもたらしていたらしい。
その答えに睦美さんも真白さんも仕方ないかって顔をしている。
まぁ、選んだ道をとやかくいうつもりはない。
けれど……
「――まるで告白みたいね？」
私の冗談めかしたそんな台詞に、
咲良さんは何も答えず、
顔を真っ赤にしてうつむいた。
……その反応をみて、
どう反応すればいいのかは分からなかった。