○月　□×日

　――森を焼き払っちゃおう。

　そんなことを言い出したのは、船の復旧を終えたばかりのメリファンちゃんでした。

　成長しきった影の母胎。
　それが根城としている森を、その母胎をどうするかと話し合った末の提案でした。

　七割程度まで復旧した船の出力を使って、本来は航行に使う魔力を熱に変換し森のど真ん中へと転移させよう。

　そんなとんでもない提案でした。

　私たちの船『サンクトゥム号』は、その部品の殆どに転移、転送魔法を組み込んでいます。
　その魔法式を利用すれば、そういった大規模転送も不可能じゃありません。
　魔力の熱変換も、この船では普段から行われているし、提案としては悪くありませんでした。

　けれど、森を焼き払うという行為にはさすがに躊躇を覚えました。
　あの森に、もう生きた生物は存在せず、母胎を始め増殖し、実体を得た影や、影と互いに食い合うローバルが居るだけ。
　人里からも遠く、周囲への被害も最小限ですむはずです。

　ただ、それであの母胎が消滅するとは思えないし、本来無関係だったはずの世界で森一つを焼くという事に迷いを覚えて、結局この提案は保留という事になりました。

　まずはあの母胎を確実に排除しないと、どうにもしようがないんです。
　けれど、今の私たちだけじゃどうしようもない。

　幸いと言える事なのか、森にいる影はあまり森から出ないらしく、影による被害者はそれほど増えていない。
　影の増加も落ち着いたみたいで、見かける事も襲われ事も一定の頻度に落ち着いてきている。
　今のうちに確かな対策を考えないと。


　そういえば、いつの間にか揚羽ちゃんがちゃんと喋れるようになっていた。
　まだまだ他はダメみたいだけど、思ったよりも早く回復しそう。
　とはいえ、喋りにくそうなのは変わりなかったけど。
　体が思うように動かないのは、いい気分じゃないだろうなと思った。


　明日はとうとう、噂にきいたカエルプリンスっていうエンブリオと契約しに行く事になりました。
　妖精さんとはここで解約です。
　でも、ちっとも寂しくないのは、どうせ一緒に居る事になるだろうから。
　メリファンちゃんによって、アルラウネさんと契約できるようになった妖精さんは、むしろ早く解約しろと言わんばかり。
　どんどん大所帯になっていく私たちだけど、きっとこれからもっと増えるんだろうなぁ。



　○月　□×日

　――無事、カエルさんと契約しました。

　プリンスって言うくらいだから、どんなヒトだろうって思ってたけど、私の知ってる現実的な王子と違って、まさに物語に出てくる王子様って感じでした。

　カエルさんは歌が好きみたいで、演奏が好きなフォッセグリムさんとはすぐお友達になったみたいです。
　私も歌は好きなので、そのうち一緒に歌えたらいいなって思います。

　アルラウネさんと契約した妖精さんですが、さすがはメリファンちゃんと言えばいいのか、特に変わりなくふわふわと飛び回っています。
　むしろ、解約前以上に、アルラウネさんとは仲良しで、ブラウニーさんが目の毒だ、なんて言ってるくらいです。
　私としては、微笑ましくていいと思いますけど。

　そういえば、向こうの『私』はいつの間にかふらっと姿を消していました。
　私自身が目的だから、どうせそのうちまた現れるんだろうけど。
　きっとどこか遊び歩いてるんだと思うけど、人様に迷惑をかけていないか、我が事ながらちょっとどころでなく心配です。
　こっちも……いずれ、ちゃんと決着を付けないとね。

さすがに角から手を離して。

*包帯だらけの姿を眺める*

　

あまり考えたくない事柄ではある。
ただ、それは間違いなく1つの結論であり、事実なのだと頭のどこかでは認識しているのかもしれない。

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どうせまた距離を開けられるだろうと分かりきっているためか、その場から微動だにせず淡々と言う。
投擲したナイフを回収する気もないらしい。