……そうか……ごめん。
なら、いいんだ。それだけ、聞きたかった。
「悪いことだとわかってる」って……なんだか言葉が幼稚だけど。
そう、思っているのならよかった。

……何度もいうけど私は羊じゃないからね。
どうしたって「羊にしてみれば……」なんて決めつけては言えない。

……きみは、故郷を出るとき、羊は野に離したのかい？

君がコドモ……いや、私はそうだとは言ってないよ。
さっきの質問で「悪いと思ってはいない！」なんて言おうものなら違ったが、そうじゃなかった。
考えて、考えるだけじゃなくて行動してると思う。
それが間違っていてもいなくてもね。

……そうだな、私も君にもっと早く会いたかった。
できれば村がそうなる前ぐらいにさ。
いいよ、もう君をいじめたり懐柔しようとはしない。
君が思ったより大人だって、わかったから。

あァ……そうだなあ。正直言って喜んではないね。
便利なことも多いけど、それ以上につらいことも沢山あるなあ。
でも皆少なからずそうなんじゃないかなって思ってるところ。別に特別じゃない。
そう思わないとやってらないってのもあるけどさ。

逆に言えば……君はカダイエって希望があるだけマシなのかもね。

ん、選択肢はそもそも出てこなかったね。
ま、人が親を選んで生まれることができないのと同じじゃない？
"抗いようのない強い力"……「嵐の中のロウソク」……ふふ。
「傘をさして火をつけてくれる人」は強い力じゃないのかなあ？

……「運命」は悪い面ばかりじゃないってことさ。
もし君が羊を野に離したのならば、それこそが羊にとって「抗いようのない強い力」……なのかもしれない。
そうじゃないのかも、しれない。

おっと。村のことを前向きに考えろと言っているんじゃないよ？
ただ、私を君と一緒にしないでくれ。私はこれでいいからさ。

キュ…

ん。そっか。
そうよね、それなら、すべきことが終わったら、帰ってあげなきゃね。

何だろうって・・・黄金郷。大昔の伝説が実際に手の届く間近にある。でしょ？
それ以上のことなんて、私たちが分かるわけないわよ。

だ、だから褒められても何もうれしくないわよ・・・っ。

ふーん。
まぁね。自分が何も出来てないっていちど思っちゃうと、ずっとそうやって思っちゃうもんね。

んー。どうかしら。
いわゆる、ふつうの人間と、他の種族って、嫌いあったりしてることも多いわよ。

結局、少数派よ。
人間と、そうじゃない種族比べたら、人間の数のがずっとずっと多いもん。
自分と似てない動物は良いけど、自分と似ててちょっと違うような種族は、嫌われるんだわ。

さあ、あいつに直接聞いてみたら？
いやな顔したら、やめればいいし。
文化の違いとか、私もよく知らないけど。要は、相手がいやがることをしなきゃいいんでしょ？

おあいにく。耳だけ兎になんてなってないわ。

メルンテーゼだと言い方が違うのかね。《やみ》、私らの世界ではノワールと呼んでいた……世界と世界のはざまに横たわる、光のないまったき闇だ。
その奥には怪物がいて、迷い込んだ者を喰い殺す。
世界の終わりのひとつの形は、例えばその闇に呑まれることだと、ま、こいつはお伽話だろうがな、私はそう聞いて育ってきた。

フーッ。
仮にエンジェルのエンブリオのことだとしたら、カミユ、
あんたも《天使を見た》一人なんだろうがね。
こうしてどうやら達者に動いてる。
不思議なもんだ……
……しかし、奇病だな、そりゃあ。
しかも死後、軒並み不朽体になってるってのか？
大した聖性の寵愛だ……。

ん？　天使病はそいつが癒やせるのか？
いっちゃあ悪いが、……たかがエンジェルのエンブリオにそんな力が？

あたしのエンジェルはおそらく、
革命に参加している連中のなかじゃ一番の練度だが……
それにしたって、こいつは決して上等のエンブリオじゃあないぜ。
それなりの奇跡をこそ起こせるが、
もっと質のいい野生のエンブリオはいくらもいる。

……ま、そのへんの話の続きは事典亭でやるか。
うまい飯はいいぜ、話だって明るくなる。
……あんたはもう少し、眉間をほぐして笑った方がいい。
硬いままでやったことってのはだいたい失敗する。
柔らかいほうがいいんだ。

そう、だから、酒だよ。
欠けていくものを満たしはしないが……
人とつながるきっかけはできる。
一人じゃあ埋められないものは、
自分の外にあるものを手がかりにするしかない。
酒はその手がかりを作る、ありふれた手段のひとつだな。

でも、

もしかしたら。

そうした思いの入りこむ余地は、きみにはないと？

けれど、理由はあるのじゃないかな。
なにがしかの。
きみには天使がいて、きみはそれを、たしかに自分の天使だと思うのなら。

……。

私や――いや、私を含めるのは間違いだな。
たとえば、きみと連れ立って歩いている数人や、私の娘。
この辺りで出くわすひとびと。
それらの誰も、きみのいた村のひとびとのようにはなっていないけれど。

……なぜだろう？
敬虔に信じ、祈りをささげ、ネクターの花を山と積み上げて。
それだけのことをしてきたのに。

そのひとたちの咎でない理由によって、それが途絶えたとたん、……ずいぶんなことのように思えるけれどね。

なぜ、きみたちの本当に困っているそのときに、失われたものの多いそのときに。
神は――それとも、きみの言う聖処女さまは、きみたちを助けてはくれないのだろう……？

きみは、そうした神から自由になろうとは思わないのかい？
そうでなければ、まったき別の神のところへ行こうとは。

私は、そんな神のために働こうとは思わないな。
……きみの言うように、私にも神があるというなら。
その神は私から光という光を奪って抛り出した神なのだから。

さあ、どうだろうね。
私だって、私の名を知りはしないのだから。

そう――ないのかも知れない。

でも、あるというものがいる。
あると信じているものがいる。
それはどういうことなのか。
《美》なることとは。
……。

ああ、知っているよ、絵描きの彼だろう。
話したことがあるよ。
やっぱり、きみのことを美しいと言っていたよ。

それに、きみに向かって勝手なことをしたら、娘に――オルガに叱られてしまうからね。

行きましょう、カディエ。

……死者……、

さて、手早く済ませて下さい

キミ、いいね。僕の下で働かない？

キミ、いいね。僕の下で働かない？

キミ、いいね。僕の下で働かない？