……巨大な力のある火だな。
扱うにはちと骨が折れそうだ。
だが、もとはといえば掠取の火……
私たちには似合いかもな。

"己を強めるための"　"私としてのかたち"、か……
きみも単純なようで複雑な生き方をしているね。
どうか君の望む形になれるように祈ってるよ。

………

……そうか。"覚えているとおりの見方"……
いったいどんな見え方なのか、わからないけど……
記憶が覗ける、といったものじゃないことは理解したよ。

『正誤』……たとえば私がここにユディタ、と書いて……
それを見てもらった時の安心感、または違和感とか、はわかるということ？

………！

……どう、すればいいんだ？
過去を、思い出すための方法は……

ああ、私は少なくともそう思っている……器にどうしても左右されるってね。
赤毛の女はどうだかわからないけど、まぁそういう感じかな。
器は、脳みその物理的な構造から、周りを取り囲む環境までを、含む、ね。

……そうだな、悪いけどこれは私の周りでの出来事だ。
悪いけど君や君の存在は、私にとって初めての存在。考えを改める必要があるのかもね。
もしくは……　きみは器が必要な水ではなく、ジェルやゼリーみたいなものなのかもね。器に適用するけど、自分だけでも存在できる……ような……

フフッ、お茶はすきだよ、是非。
エンブリオ……？ああ、もしかしてあのカカシって君のエンブリオなの？
それ、たぶん私が作ったお茶だよ。アハ、すごい！

……なるほど……？
だから人を食べたり、する必要があるってことなのかな。
それじゃあ、逆に元の姿にはいつでも戻れるの？

……許されるのを、待つ……
それが……あなたの……望みの、在り方……

毒だと知ってなお、それを待たずにはいられない……
なら……もしも……もしも、いつか……

あなたのもとを、去らない光を、得たなら……
その毒は、あなたを……変えて、しまうかしら。

……もしかしたら、致命的、に。

わたしは……しあわせを望みながら……
多分ほんとうのところでは、自分が、それを許されるとは思っていない……

きっとしあわせは……それまでのわたしすべてを、壊してしまう。
今のままのわたしで、しあわせにはなれない……きっと。

……わたしにも、父がいたわ。
血の繋がった……

でも、まともに言葉を交わせたことは、ほとんど……
思い出せるのは、殴られたことと、蹴られたことと……

もっと……口に出したくないようなことも、いくらでも思い出せる。

いえ……象徴として思い返されるのは父だけれど……
わたしはずっと、そうして取り扱われていた……そうしていい存在として。

わたしにとってのしあわせも、きっと、あなたのいう毒に、似ている。
わたしはそうである自分しか知らないし、変わることも……怖い。

わたしは……そう、確かに、しあわせになりたい。
でもその先は……望めない。何を望めばいいのかも知らない……

或いは、誰かが望んでくれるのかもしれない……わたしたちの、代わりに。
わたしたちに足りないもの……知らない答えを……

そんなことは……夢のように果敢ない、幻のようなこと、だけれど。

"終わり"……
わたしにとって、終わりはまだまだ、来てほしくないものだけれど
そして、その暗闇には…必ず朝日のさすものだと信じているけれど

朝の来ないのを、待ち望んでしまうほどになるだなんて…
おじさまの上を流れた時間は、とってもおつらいものだったのかしら？
それとも、……生に、飽きてしまわれるほどに
長い時間を過ごしてこられたのかしら…？

こうして拝見するおじさまは、とても穏やかでいらっしゃるけれど…
それは、大人の余裕でらっしゃるの〜？

ねえ、おじさま……
おじさまは、この騒ぎに参加なさるまで、
いったいどんな暮らしをしていらしたの？
娘さんたちとお会いになる前は……
他にはどんな、大切なものや、大切な方がいらしたのかしら？

……ごめんなさい、わたし、質問ばかりね〜
おじさま、わたしの知ってる大人の方のどなたとも違うから
ついつい知りたくなっちゃうのかも……
でも、全部を知ろうとは、しないように気をつけるわ〜

……だって、わたしはまだ、おじさまに
いなくなってほしくはないのですもの

昨日、渡した火があったろう。《プロメテウスの火》。
プロメテウスは人に火をもたらしたという神話の男だ。
その神話が歴史的事実であるかはともかく、ある疑い得ない過去として、
人は生誕からその歴史のどこかで「火」を手に入れた。
火は夜の闇を遠ざけた……それまでは夜の中では狩られるよりほかになかった昼行性の動物が、その支配の枠を大きく押し広げたんだ。
私はね、
人はその時、「見ること」と添い遂げると決めたんだと思うよ。
光は、人の命の救い主だったし、
見えないものが見えるようになるというのは、そりゃあ大した体験だったろう。

今や人の感覚器は視覚のほかはずいぶんと退化している……
だからそれは見方を変えるなら、
光によって奪われたんだとも言えるのかも知れない。
人は火と光のまぶしさに、声や匂いや手触りとの距離感やざらつきを、均されて失ったんだ。

ヤール、あたしたちは平生、そう《美》ということについて考えない。
《美》ってのは大きな言葉だ。どうも大きくて、扱いづらく、……少し気恥ずかしいものがある。
そうだな、だからこそそれは光なんだろうが、
正面切って相手どるには、あまりに正体が知れず、摑めない。
美は光だとしても、
あまりにまぶしすぎて、ほとんど闇と変わらない光だ。
それは見つめようとしても見つめられない。……

私たちに宿命なんてものはありやしないが、しかし、私たちは私たちがいま私たちとしてここにあることの、《状況》のなかへ投げ込まれている。状況が私たちに要請し、状況に私たちは応答する……それがつまり、引き受けるということだ。私たちが呼び出されたものとして、出頭すること。
状況に応えずにいることも、状況に耳を塞ぐことも、見殺しにすることも見放すこともできる。ただ、そうすることがどうしても気に食わない時、趣味に合わない時、美学に沿わない時……声をあげて、応答するのさ。《それは私のものだ》《私はここにいる》と。

《なにもありはしない》ものは、触れる指先さえ持たないと思うがね。
なにもありはしない闇のなかに、少なくとも《光を目ざす――おお、目ざす、こいつも目の言葉だ、光の言葉――なにか》があり、《光に触れるなにか》がある。
あんたがあんたと光の、外の世界の、辿りつけないというなにごとかとのあいだに感じている断絶、切断面、しかしそこには少なくとも断絶や切断面としての触覚がある。その切れ目が世界の果てで、つまり他の世界との接点だ……
……光は、本当にそんなに特権的なものだろうかね。生来の目明きのあたしにはわからないよ。

……膝の上の、猫？

……は。じゃあ、仕方がないな。そいつは、仕方がない。
誰にもそういう棘や猫はある。できることは、猫や棘を引き受けるばかりだ。
ただ、あんたの周りの人間、たとえば私は、
あんたほどに冷めた目で、その猫や棘を見られはしないだろうがね。
あれこれ小うるさく言うかも知れんが、ま、
それもあんたを失っちゃあ困るがためだ。許しておくれ。

……あんたが、私たちの「そうなることはあまり考えたくない」と云うように、
それもそのまま、あたしたちからあんたへの心配事なのさ。……

求めれば道ができると仰っていましたが……過去の咲く庭。

また、私は……『シュウジク』を『ウノミ』にしてしまったのでしょうか？

せっかく平原に来れたのです、ひと目お会いしたかったのですが……

私です、マルムベリィ＝クラースです……！

あんたには縁のないものかな……仮面だ。
舞踏会か、それとももう少し後ろ暗い儀礼で使ったんだろう。
かぶる者はもうこの城にゃあいねえみたいだけどな。

はい、おとうさま。ちゃんと眠れるかな？

亡霊に亡者か……
似合いの姿だな。

やれやれ……随分と静かだったのに……
――けれど、ここにも花は咲いているね。

ただ好かないな、
……女は愚か者を飾り、護るための生き物ではない。
君が、わたしに額づき、その脚に触れることを願うのが筋だよ。

私に歯向かおうなんて、一千万年早くない？

私に歯向かおうなんて、一千万年早くない？

私に歯向かおうなんて、一千万年早くない？