俺様は猫である。
名は無い。
俺様を呼びたいなら、ネコでもクロでも好きに呼べばいい。

「ささみではダメですか？」「マタタビはいかがでしょう？」「かつおぶしでどうでしょう？」「ねこじゃらしで釣れるかな？」

ささみは好物ですマタタビは至福です鰹節大好きねこじゃらし楽しいよね猫はあなたについていきます。ちゃんとお世話してあげてね！
キャラ投票：デートしたい！部門
４票獲得御礼


…おわっ！？

つかまった！俺様を猫又と見抜いた緑っぽい髪の人間につかまった！
すげー全力ダッシュで襲い掛かりやがってつかまった！
成り行きで置き去りにしたえんぶりお共に逃げ道塞がれてつかまった！
じたばたじたばた　離せ―！！！

新しい下僕は呑気に話してる。役に立たねえな、子供！

蛇が口開けて近付きやがるから、俺様を掴んでる女の手を引っ掻いてすり抜け、三つ編み伝って頭の上へ避難する。

エンブリオが納得しても、猫はんなこと承知しかねる。

猫に言ったのか、A子嬢に言ったのか、･･･あるいは双方に言ったのかもしれんが。
ヘビは鎌首を伸び上がらせ、A子嬢の頭上で毛を逆立てている猫を呑まんと咢を大きく開けた。

どうなる猫！待て次号！

数日前から、ぼちぼち偽りの島に居た頃の記憶が浮かび戻るようになり。
時々俺に電話をかけてくる異世界の妙な女が…魅月嬢だってのも思いだせた。次に電話が来たら何をどう話したもんだか非常に気拙い。勘弁してくれっつーか、ここ半年余りの呆けてた自分を殴りたいね。
失言とかそう云うレベルじゃねえ発言しまくってたからなぁ…まさか魅月嬢、会話全部当主に駄々漏れさせてはいまいな？…伝えてそうだ…なんだよメル友って。
別の意味で帰りたくないぞ。

んー…いっそこのまま記憶が戻ってないふりを継続す…いや、それは余計に不味い。
彼女は口調こそ面白がっていたが、心配もしてくれてた感じだし。黙っているのは失礼だ。
それに、気まずいから黙ってたなんぞ知れたら絶対に笑顔のまま怒る。つか叱られそう。

と、
うわっ
対応考えてたら早速魅月嬢から電話の着信が。


当たり障り無く、いつもの帰らないのか云々の会話をしつつ。
記憶が戻ってる話をするタイミングを計っていると…
この前言ってた俺に子供が居るからとかなんとかの説明が始まった。どこぞの土蜘蛛がうっかり作った子供を、俺本人が居ない隙にこれ幸いと親名義に使われたかと思ってたが。どうも違うらしい。

電話の向こうの人は、にこやかにさらりと、しかしがっつり強調して以下の言葉を宣言した。
「あ、勘違いしてるようだからいっておくわね。
過程はどうあれ、貴方と血のつながっていわば……
貴方の実子だから。」

･･･視力は芳しくないが、それを補って余る程に聴力は優れていると自負している。
が、今、携帯から聞かされた内容は、突発で耳がいかれた聞き間違いであってほしいと願ったね。
「はい？」

「貴方の実子だから。」
いや繰り返さなくていいから聞こえてるから。聞こえちゃいるが、なんだそりゃだ。
俺がうっかりでもしっかりでも餓鬼が出来ぬよう手を打っていたのは…魅月嬢は知ってたはず。自分で教えた覚えは無いが余計な処で察しが良いからな、あの人。
その彼女が、俺の血を引く正真正銘の子供が二人もいるのだと断言する訳か。

思い当ろうがなかろうが、こういった指摘を女から受けたならその場では否定を口にしてはいけない。肯定もしない。たとえ指摘した人物が部外者でも女ならば。これ大事。
相槌になってるのかいないのか自分でも解らん適当な返事をしつつ、どう云う事なのか考えを巡らす。

誰が俺の子供とやらを作った、あるいは作らせたのか。

岩絃の中の[土蜘蛛の因子]を持つ子を産める可能性があるのは麻累だが、[俺の血を引く]子供は産めない。結局最後の機会の時も俺は協力しなかったから。
作るのに絶対に必要な材料、俺の生殖細胞を保存しているのは、一人しかいねえ。医者のあいつだ。

培養とかの特殊な技術とか更にそれに魔法だの化けもんの術だのまで駆使して作られた子供なら、もう俺の認識外。遺伝子は俺由来でも、[実子]とは表現しねえだろ。使い魔とか分身とか生人形・クローン・コピーってー類になりそうだ。島が沈む際に俺から分離崩壊したもう一人の俺みたいな。
そうじゃなくて、もう少し自然に有り得るのが…体外受精……。うわ、別の意味で俺の責任じゃねーよ！と言いたいが、それだと……俺の子供を作れる、よなぁ。あの医者…やたら俺の生態標本採りたがってたのはそれ狙ってたからか？

あー…と、魅月さんは詳しい事情は当事者当人に訊けと言ってるが…当事者でなくても事情知ってるのなら何点か確認をさせてもらうか。
「生まれたのは俺が消えた後だよな？」
産まれたのではなく、生れたって気がする。発音は同じだが。
医者の標本採取要請に応じたのは島が沈む半年前から。直後に仕込んだとしても形になって世に出るのは俺が行方をくらませた後になるはず。…ん、まあ、[変異した俺]を使ったなら想定外の成長を見せる可能性もあるが。想定外条件は除外して考えよう。そもそも子供の存在が想定外なんだ。きりがねぇ。

「で、その…こ…子供、の、周囲に当主いや、当主は違うな。
水歩ってー野郎がうろついてはいまいか？」
･･･改めて声に出して子供言うのは少々照れるな。
当主はもう、俺の血筋や子孫を残すとかって計画には手を出さないし･･･事前に知っていれば許可もしないだろう。俺が本気で怒ると知ったから。
土霊蜘蛛岩国主の系譜を残したいのなら俺でなく、再確保できた祖霊岩絃に頼めばいいのだし。
となると
俺の子供とやらの存在は、
医者、水歩の独断実験の結果か。

誰に似ているとはいわずに話を続ける

放っておくと忘れた頃にお腹が痛くなる程度と専らの噂。
毒性で勝負するタイプではない苔坊は自分の毒を過信していた。
くしゃみによって無惨に飛ばされる苔の胞子を眺めつつ、彼は、泣いた。

いつの間にか目覚めていた宿主も同情を隠せない有様。
背中の苔は色を失ってふてくされている……。

鉱蛙は乞う様な目で貴方達を眺めている。
塵でも芥でも、何か恵んでやれば喜ぶかも知れない。

目にも留まらぬ速さで攻撃を繰り出したクジャマルだったが爪のカウンターを受けて途中で力尽きる！

まだまだ闘士は潰えていないようだが、消耗しきって身動きが取れないようだ！

スパーンと、猫さんの猫爪一閃が鴨さんと妖精二匹の頭上で弧を描く。
鴨さんが持ってた葱の安否は知らない。
突如の事に妖精二匹は数秒ほど思考が停止したが、我に返ると身体をガタガタと震わせて涙目になった。

妖精二匹からはまるでまるで世界が終わるかのような表情で絶望の声を吐いた。
真っ青な顔をする二匹を見て、流石に不憫というか。
これ以上は可哀そうと思った毛玉兎は何とか猫さんを宥めようと前に出る。

毛に埋れた前足を差し出し、怒りを静めるよう説得を試みる。
……時に毛玉兎よ。その鎮め方は牛馬に有効であって猫には効果は無いぞ。

黒猫を抱えて頭をなでる。

そのままの体勢で何か思案している。

…かなり物騒なことを考えている気がする。

キリッ

俺様に続け、下僕共。

猫は咥えていたフライドチキンを脇へ置いた。

シタッ！