あの日から、イチジクはナナからもらっったマニキュアセットを眺めては
「この輝く紅！オレに似合う！」だの、
「このピンクを使いこなせるのは、やはり、美少女のオレを置いていないだろう。」だの、
「この薄紫はオレの妖艶さと可憐さを引き立たせるのに役立つ。」だの、
自らの語彙を総動員させるかのような表現力で、
ボクにマニキュアを塗ることを懇願するのだ。

「だから、今日はこれをぬりたまえ、すばらしいねこっぱちくん！」

懇願、……のはずだ。

けなげなボクは、丁寧に且つ（イチジクが暴れないように）素早く、愛情を込めて塗るのだ。
違うな。
すばらしい職人気質であるボクは、丁寧に且つ（イチジクが暴れないように）素早く、職人魂を込めて塗るのだ。
こうだな。

その日は1日中、イチジクはご機嫌だ。

ナナからのプレゼントと言えば、たらこ型の寝袋である。
これはたらこ型のフォルムが愛らしく、耐久性もあり、実用性に優れた寝袋だ。
野宿が多い旅でもよく眠ることができる。
ときどき、イチジクに蹴っ飛ばされて、すごく飛んでいってしまうけど（ボクごと）、無傷だ。（もちろんボクも。）

「うわっ、こんなところに海洋生物がいるなんて、キモッて思って蹴っ飛ばしたら、おまえか！びっくりした！」
「そういって蹴飛ばすの、今回が初めてじゃないよね？」
そういうとイチジクはいつも決まって、ケタケタ笑って、またマニキュアを塗れとせがむのだ。

「そんなことより早く起きて、マニキュアをぬりたまえ！ねこっぱちくん！」

これでも、せがんでいるのだ。

今日もイチジクはご機嫌になるんだ。
今日も愛らしいボクを蹴飛ばして、またケタケタ笑って、
今度はあの建物を目指そうなんて言うんだ。
わかってる。
だから、ボクは起こされるのを待ってる。
きっともうすぐ蹴っ飛ばされるんだから。