「うわっ、こんなところに海洋生物がいるなんて、キモッて思って蹴っ飛ばしたら、おまえか！びっくりした！」
「そういって蹴飛ばすの、今回が初めてじゃないよね？」

最近ではこの会話も夜の番の交代をするときのご挨拶となっている。
大所帯のパーティなため毎晩寝ずの番をすることもなく比較的楽になったが、それでもチーム制で夜の寝ずの番をする。
最初のうちは二人で一緒に徹夜をしたのだが、二人で一緒に起きているよりも半分寝れた方がいいという九の提案でねこっぱちが先に寝て九と交代で起きることになっていた。

「そんなことより早く起きて、マニキュアをぬりたまえ！ねこっぱちくん！」

そう言いながら、九はマニキュアセットと一緒に腕をずいっと差し出す。
文句を言いたそうにしながらも、結局は職人気質でマニキュアを塗ってしまうねこっぱちである。
塗り替えてもらった爪を見て満足すると、たらこ型の寝袋を枕に九の睡眠タイムが始まる。

そんな周期を繰り返していたのだが。

今晩の寝ずの番は何かが違った。

「・・・・・・なんか、オレ、あほっぱちの目覚まし時計みたいになってねーか？」

たらこ型の寝袋にすっぽり包まってすやすやと眠るねこっぱちを見ながら九がぼやく。

「オレに蹴られる前に独りで起きろっつーの。どんくせーな。」

ねこっぱちが起きていたら「イチジクが勝手にかわいいボクの事を蹴とばして楽しんでたんじゃないか！」とぷりぷりすること必至である。
どこまで飛ぶか試してみようとか言う不純な動機で起こす時に蹴っ飛ばすことにしたのは九である。

「あー、起きれなかったら、なんか罰ゲームさせよ。何がいいかな・・・あ！」

安眠をむさぼるねこっぱちがもにょもにょと口を動かすのを見て、九が何かひらめいたように軽く手を打つ。

「変なもん食わそ！」

せっかくの美少女が台無しな邪な笑顔を浮かべる。

「よし、何か探してこよ！」

最近は割となりを潜めていたとはいえ、基本的に九は集団行動とは無縁な自分の気の向くまま思いつくまま勝手に行動するタイプである。
計画がダメにならないようにと、抜き足差し足で持ち場を離れる。
薄紅色のふわふわした髪が闇夜に紛れていく。



―――迷子になってはぐれるまであと30分。