いっしょにやまにのぼったおねえさんたちともわかれ、猫はふたたびやまをのぼりはじめます。

とはいっても――あしどりはおぼつかなく、めはうつろ。
こころここにあらず、といったようすです。
ただただ、おうさまのもとへたどりつくことだけをおもいうかべ、そのほかのことはかんがえるのをやめてしまったかのようです。



めずらしいむしがとんでいても


きれいなはながさいていても


おいしそうなきのみがなっていても



まえならばよろこんだりびっくりしたりそれらはすべて、いまの猫のめにはうつっていないかのよう。
なにごともないようにとおりすぎていきます。



いまの猫があしをとめるもの。
それは―――




きゅうにくらいかげが猫のうえにおとされました。

みあげると――おそろしいやまのいきものたち。
猫のゆくてをはばむものたち。

しかしそれらは、まえのたたかいでみたものたちとおなじしゅぞく。
なかまといたさきほどのたたかいではおじけづいてしまったものの、たたかいかたがわかればあわてることはない――



猫はだまったままめをほそめると、かおいろひとつかえずにぶきをかまえました――

突然のことに驚きつつも、されるがままに翼を振られ。

ひとつ実演して、命中したようだ。
その様子を眺めていたメイだったが、口を出す。

ブルーノおにいさんは、ロクくんの様子をうかがい、包みをむけていないことに気付いたようです。

そう言うと、ブルーノおにいさんは、自分の持っている魚肉ソーセージを一度膝に置き、ロクくんの持っている魚肉ソーセージの包みを、手で持つ部分だけ残して、ペリペリとむいて、もう一度渡しました。

あとは運だったと、鞄の当たり所が悪く自滅した彼を思い出しながら。

遠い目。

こくりと頷いた。可愛らしく膨らむ正直尻尾に眦を下げるも、
少女にしては珍しく空気を読んだらしく、指摘せぬまま。

そんなもしも話。思いついたように離れ鞄を漁れば、
シンプルなハンカチを取り出し、薬を塗った箇所に緩く巻いて。

思わず。前の世界で、鳥を追いかけ回す猫をよく見かけていたからかもしれない。

うんうんと頷くロザリーの横で、わなわなと打ち震えるリィガ。
（あ、姐さんがまともなことを?!　馬鹿な、いつ入れ替わったんや？！）
べこんっという鈍い音と共に地面に打ち付けられる。

すりすりとほっぺたをロクにこすりつけてご満悦のご様子。
実際は、国民が幸せに暮らせ、楽しく笑っていられる国を言った内容の演説であったのだが
凄まじく曲解されて都合の良い所だけ伝わっているようである。
いつのまにやら復活したリィガが、ロクにだけ見えるように
「そんな内容ちゃいまっせ」と書いた立て札を掲げている。

くるりっと立て札を裏返るリィガ。
裏面には
「うるさい姐さんですんません、しつこければわてに言ってください。なんとかしますよって」
と書かれている。

だんまりのままぶきをかまえました。

ちいさくためいきをつくと、もくもくとあるきはじめました。