ニートにとって大事なもの、それは帰るべき家だ。


社長の日記24日目


　この日、社長は珍しくイラつきを隠せない様子だった。
　理由は、社長の住んでいるたんぽぽ荘にある。
　管理人であり、かつまた家自身であるポポロが倒れたのだ。


　たんぽぽ荘の水と電気は、ポポロからのエネルギーで賄われていたのだ。
　無限と思われたエネルギー。だが、そんなことはなかった。
　日々目減りし、ついにポポロが耐えられなくなったのだ。


　この世はゼロサムゲームだ。
　何かを失わなければ、何かを得ることが出来ない。
　ない袖は触れず、全てにおいて先立つモノが必要なのだ。


　しかし、たんぽぽ荘は例外だと思っていた。
　ポポロは自身のことを神だと言っていた。
　実際、目の前で理屈では考えられないことを何度も見せられてきたから、それは正しいのだろう。

　だからこそ、神であるからこそ、エネルギーは無限だと思っていた。
　くだらない、少し考えればそんなことはないとわかったのに。

　この世界なら何かを失わずに得ることができると思っていた。
　バカな話だ、例外はないとわかっていたはずなのに。

　いつの頃だろう、この世界が心地いいと感じ始めたのは。
　いつの頃からだろう、ずっとたんぽぽ荘に住めると思い混んでいたのは。

　そこまで考えて、社長は自身のイラツキの正体に気づいた。
　ポポロに失望したのだ。

　我ながら勝手な話だ。
　勝手に希望を抱き、勝手に失望をしているのだから。


　ポポロの不調は一時期的なものなのかもしれない。
　少し立てば元に戻るのかもしれない。

　しかし、今回の一件は、社長に無限なんてものはないことを示した。
　むしろ、たとえ神であっても、この世のルールからは逃れられないことを示したのだ。
　それは社長にとって、より強い絶望となった。

　神ですら無理なのだ。
　ただのおっさんに過ぎない社長には、より強い覚悟を持たなければ、この世界に簡単に押しつぶされるだろう。


　自分がそれなりの能力を持っている。
　エンブリオからの力を自由に引き出すことができる。
　この世界にきてからは順風満帆と言ってもいい。

　しかし、　こんな便利な力、引き出すには相当なエネルギーが必要なはず。
　自分がエンブリオの力を引き出すために、間違いなく苦しんでいる者が居るはずなのだ。

　だから自分は奪う。
　そちらの立場にならないために。


　久々に心の芯が冷たくなるのを感じる。
　久しく忘れていた感覚だ。

　今なら、どんなことでも躊躇いなくできる気がする。

　社長は一息漏らした。
　「奪う」と言ってもやることは変わらない。

　結局、今まで通り、自分が得になるように行動するだけだ。
　ただ、いつでも、どのような選択を取ることを、改めて覚悟した。