どこぞの分割世界の調査機関の下っ端、ジーン・ボーマンは、
　あたしから受けとったマインドヘッドの内部資料に事細かに目を通す。
　さまざまな角度からあたしに質問を長いこと繰り返し、
　その工程を一通りどころか三通りも四通りも済ませたところで、
　ようやく乾いた謝意を表した。

　密談中のあたし達しかいない高級ホテルの一室。
　外では満月がらんらんと輝いている……はずなのだけど、
　窓は葬儀屋を思わせる黒いカーテンで閉め切られている。
　部屋のなかは、互いの息づかいでさえ耳に届きそうなほど静かだ。

　あたしは持ち込んだこぎれいで可愛いティーセットを使って
　薫り高く血よりも赤い「おのみもの」を淹れはじめる。
　警戒心の強いこの女に近づくのにずいぶん苦労したが、
　一度確固たる信頼を勝ち取ってしまえば、あとはこっちのものだった。

　ジーン・ボーマンは紅茶を一口含み、たったそれだけでカップを落とす。

　がくがくと震える手を喉にあて膝から崩れ落ち、
　焦点の定まらない眼をかろうじてあたしに向ける。

　ジーン・ボーマンは、文字通りあっという間に事切れていた。
　軽い確認を行い、あたしは彼女の遺体を棺へと丁寧に収める。
　コレを今いる分割世界から虚構の世界マインドヘッドまで送るのが、
　また難儀に難儀を上塗りするような仕事だ。



　……とは言っても、
　回収班が到着するまでの間はとくにすることもなかったので、
　彼女が持参していた資料のうち、
　あたしとの密談で使われなかったものにも暇つぶしに目を通す。

　さすがこの女、数年来にわたって
　マインドヘッドに入り込んで諜報活動を続けてきただけのことはある。
　泳がされていたとも知らずに……かわいそうな人。

　聞いたことのない名前だった。
　かりにも、生まれ落ちてからずっとずっとマインドヘッドのために
　この身をささげてきたはずのあたしが、知らない話？
　十数年前という年数も少し引っかかる。

　ソレを詳しく扱っていた資料の表紙に載っていた写真を見――

　森に差し込む柔らかい日差しの中、
　エンブリオの呼び声で、意識が遠のいていたことにようやく気がつく。

　フォッセグリムのルチルは、すでにカップとポットを熱湯で暖めてはじめていた。
　あたしが絶対に好まない、絢爛豪華な金色の華柄で彩られたウザい一式だ。


　

　ぶっきらぼうに、欠伸交じりに、あたしは期待されていない返答をした。


　

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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　[|[||　　To Be Continued....　　　 >
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モクラはクリと共に近づいてきた存在を見やった
表情にはあらわさないが警戒している様子は感じ取れた

人型でありながら、人には付いていないモノを付けた彼らを警戒しつつ質問をした

そして敵意が無い事とある者を探していることを把握すると警戒を解き、質問に答えた。

そう言って同行者であるクリスに見せられた絵の人間について尋ねた