例えるのであれば。
生まれたばかりの子供に仮面をつけさせて、
そのまま仮面を外させずに一生を過ごさせるようなものだと、
彼はそう語る。

子供は自分の本当の素顔を知らないで育つ。
仮面を自分自身の顔だと認識して、
そう思い込んだまま、当たり前のように
誤った自己認識を持ち続ける。
本当の自分の素顔など永遠に知らないまま。

僕はその「仮面」にあたる。
らしい。

僕が僕自身を「異世界から迷い込んできた」と認識する。
その作用により、
僕を送り出したその世界は、自身の存在を隠蔽しようとしているのだという。

知らないことは隠せないし、知らないことは騙れない。
もし仮に僕が誰かに記憶を覗かれたとしても、
僕からあの世界の情報は何一つ出てこない。

そうして僕という仮面を被り、それを盾に、
彼は僕のバックグラウンドで事を進めていく。

僕は自分自身を迷い人だと思い込んだまま、
メルンテーゼ世界を歩いて行く度、
無意識下で彼が世界を記録する。

そしていつかはあの世界に帰る。

そこで僕という仮面は外され、「僕」は同時に終了する。
あとは必要な記憶と必要でない記憶に分離されて
必要な記憶だけは残して他の精神体に経験として共有させて
不必要な記憶は全て抹消していつでも書き込める白紙に戻しておく。

そういうものなのだと、彼はそう語った。
そういった使い勝手のいいツールとして、僕が存在しているのだと。

「だから俺は、どこか遠くへ逃げたい」と彼はそう語る。
「私にとっては、何もかもどうでもいい」と風早は語る。

僕にとっては、まだ実感さえない。

立っていた足場が突如として消えてしまったような感覚。
掴んでいた物が、さらりと砂になって崩れ落ちてしまったような感覚。
見えていた目の前が、突然暗闇に包まれたような感覚。
僕という寄る辺を失った僕の前に道は無く、僕の後ろにも、最早道などない。

さて、僕はどこに向かえばいいのだろうか。

迷いのまま、今日もただただ道を往く。

ばっ！と腕を振り上げる