【-静かの雷声-メルンテーゼ・城内地下牢にて】



先の戦闘の始まる前。
それら異形の相手を目にした時から、龍貴の様子は明らかにおかしかった。

敵を打ち倒し、契約の花を渡し終えた今も尚――
いや一層、その目は何者をも映す事を拒むかの様に、焦点が定まっていない。


（…邪気に中てられたか）


致し方なかろう、とは思う。
“あれら”は、今まで相対してきたもの達とは一線を画していた。
強さ云々ではなく、その性質――人の世の理を外れた、その異質さが。
現状、己の脚で何とか立とうと必死な龍貴の心の糸は、ただでさえ張り詰めている。
異質・異形の放つ邪気が、未だ細いそれを断ち切る事など容易であっただろう。


「――たつ、」


掛けようとした声は、だが廊下の奥から伝わる気配と腐臭に遮られた。
程なくして姿を現したのは、修道服を纏った男と屍の群れ。
その男の口から王の命だと聞くまでもなく、敵であろうと知れた。
油断なく間を取りながら、横目で龍貴を見る。
相変わらずその呼吸は浅く、目も虚ろのまま――。

敵を前にして自失した者がどうなるかなど、厭という程知っている。
その末路を脳裏に描く前に、自然と口が開いていた。


「――龍貴！」


凛とした声が、澱んだ地下の空気を震わせた。
普段は物静かに語る忍の、それは初めて聞かせる声音。


「怖れても良い、敵わぬならば逃げても良い。
だが、目は閉じるな。
――今は唯、しかと目を開けて己の身を守れ」


今の龍貴に、どれだけ己の声が届くかは分からない。それでも。
龍貴の持つ印、“蝶道”を通して、声と共に喝気を送る。


（――こんな所で死なせるつもりは、毛頭無い）


薄笑いを浮かべた司教と蠢く屍に向け、忍はいつもの様に得物を構えた。





（→PTメッセ、攻城戦へ）

龍の根付の印から伝わる言の葉。
少年の目は見開いたまま、視点の先の司教と腐乱死体の群れを見ている。

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（ひよこが一羽、てくてくと歩いている）

（どうやら同行者を捜しているようだが・・・？）