嫌味なほど暗い闇夜の中を、歩く歩く。
嫌味なほど眩い月光の中を、歩く歩く。
一歩、また一歩と歩く歩く、その人影。

その人影が、ふと前を見やれば、そこには漆黒の人間の姿。

瞬間、黒い人間が…ローバルが人影へと跳びかかり、鋭い爪を振り下ろす。その姿はまるで獣。

しかし、その人影は、ローバルが到達する直前にゆらりと揺らめき、そのまま消えてしまった。
ローバルは急遽着地し、人間離れした反射神経と身体能力でとっさに体制を立て直すと、辺りを見渡す。

しかし、辺りには先程の人影は見当たらない。

逃したか。

そんなニュアンスを含んだような、獣じみた鳴き声を上げると、逃がした獲物を探すために踵を返す。



その時だった。



ゴキ

ふと、ローバルの右側から妙な音が聞こえた。
どうやら、ローバルの右手から聞こえてきたようだ。

ローバルは不審に思い、右腕を見る。

右腕はない。


右腕がない。

ローバルは驚愕する。感情があるかどうかは分からないが、確実に狼狽えている。
あの「獲物」が消え、それから何処にも現れていない。だというのに、攻撃を受けた。

ボギ

それを理解させる時間さえ与えること無く、次は左腕が捩じ切れた。

ローバルは苦悶の声を上げて倒れこみ、地面を転げまわる。
その耳に、先ほど聞いた声が響いてきた。

気だるげなその声には、殺意は一切感じられない。
本当に、「ただ道を聞くためだけに、暴れるローバルの腕をもぎ取っている」のである。

ローバルはその場から何とか離れようと、腕のない体を捩らせながら、芋虫のように無様に這いずる。

もはや声にすらならない。最後の逃走の綱であった両足さえ、大腿部から根こそぎ引きちぎられた。

ローバルはその時、足を見て理解した。正確には、足を引きちぎられる瞬間を見て。

「絵」だ。
自分の体に、白い人のような「絵」が描かれ、それが自分の足を引きちぎっている。

描かれた白い絵の手が、ゆっくりとローバルの首へ移動する。
ローバルは体をよじり、その絵を消そうと藻掻くが、体を這いまわるその手の感触は消えない。

そして、


メギ


ひときわ大きな嫌な音とともに、ローバルの体は糸が切れたように動きを止め、そのまま黒い霧と化して消えた。

その霧の下で、何かが蠢く。それは、先程ローバルの体を這いまわっていた「白い絵」。

その絵は、地面からペリペリと剥がれて立ち上がり、膨れて人間の姿になる。

はぁ、とその人物は大きくため息をつき、頭をバリバリと掻きむしる。

理不尽な責任転嫁で自分を納得させると、再びその人物の厚みが消えていく。

再び白い人影となって地面へ移動すると、その白い絵の形が変わり、鳥の姿になる。

その鳥の絵が再び三次元に戻ってくると、月光の中へと飛び込むようにして羽ばたいていった。




続く

可愛いと言われても、寝顔のことを言われれるとむくれるアムルです。

言葉はむずかしいものですから、と、付け加えて。

わたしはちがいますけれど、と、ため息ひとつついて。

すべて否定はしないのでした。

普通ではないとの返答に小さく笑う。
しかし否定の言葉がない辺りは……モノリスの言葉がそう間違いではない証か。
首を傾げつつの言葉に微苦笑を浮かべれば方を竦めた。

まあその菓子は俺が返してもらうのも何だし、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。
そう続けた後、投げられた問いに首を傾げる。