■森林：護りの森にて

「もーいーくつねーるとー、クリスマスーってなー」
　鬱蒼とした森林をいく、この先には妙な建物があるという噂だ。
　赤い服と、そして、大きな角の…
「つまりは、サンタとトナカイやろう？」
　くるりと振り返る。
　辛気臭いツラのユーグと、どことも知れないところに吹かれていきそうなツグミ、そして、何ともいえない複雑な目付きのカレン。
「何とも…和と洋があいまって、知らないメロディながら、違うなって思いました。といいますか、この先に出るのは、サンタでなく、サタンです」
「子供達の夢を壊すんか、子供やと主張する気はさらさらないが、毎年プレゼントをもらっても困らんつもりではおるで！」
　きぱっと言い切る私を、眉を寄せた表情が傾げた角度で見返してくる。
「悪魔からの贈り物でも、嬉しいので？」
「天使やと言う話は聞いたことはないが、何で地獄よりの使者に仕立てたいんや、あれか、返り血に塗れた赤い衣装な説か。サンタの兄弟が確か、そんな風になってもおかしないいう話は聞くけども」
「サタンに弟…、…天使ですか？」
「新解釈をさらに推してくるやと！？　っちゅーか、サンタ！」
「ですから、正しくはサタンだと！」
「…。」
「…。」
「「ユーグ！！」」
　判定を求めて振り返るものの、木陰のせいばかりでない、暗い表情はこちらを見てはいない。

「…なぁ、わんこの嬢ちゃんや。あれは、どないしたもんやろう」
「自分のところの部下でしょう」
「つれへんなァ…」
　つん、と返された回答に情けなく眉を下げた。

　私の左手は遠く走ることに難はなくとも、求められねば差し出し難い。
　空の手を握り、開き、眺める。
　何者からの贈り物であれ、身になれば傍にあればそれは己であろうと確信を得られないことが、そんなに生き辛いものなのか。
　何が由来であるかが重要であるならば、この身の有象無象さの見難さ、醜さといったら。
　先日だなんて、活き活きとした死肉を口にしたばかりだ。
　それに比べれば、たかだかヒトの、一人や二人の狂おしい様など、いとも単純であろうはずなのに。
　どうせ大した長さを生きられるわけでもなし？
「死が分かつばかりとは限らない」
　あぁ、あぁ。その通りだ。
　死を背負って、ヒト一人が、一人分の重みでなくなる。
　見目からその難儀さは計れない、そんなだから、やはり求められねば差し出し難い。
　長く生きることを選べば選んだ分だけ、悟れることと同じだけ、迷うことも多くなった。
　それは決して私を不愉快にはしなかったから、だから、見守ってばかりいることは間違いではない。はずだ。うむ。

　寒さにかじかまないよう両手の平に息を吐いて、迷いを置いていく代わりに落ち着きを拾い直す。
　僅かな一時を置いて、程なく去っていく呼気の温もりは。
　いつか手にした、誰かの温度を思わせて。

舌なめずりをみて若干後ずさりをしながら、

紗智は軽くお辞儀をすると、練習試合に出かけていった。

後日、紗智はサクロの元を訪れるとこういった。