作戦概要を伝え、それぞれが配置につく。
合図は私が。
ヴィルムの魔力が尽き掛けている以上、これ以上戦いを長引かせる事はできない。
最初で最後のぶっつけ本番。
失敗すれば死。成功しても、勝利できるとは限らない。

でも、皆はただ頷いて、言われた通りの行動を取る。

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魔王にとっては光線を弾かれるところまでは予想通りだった。
元より、コレは牽制のために使ったに過ぎない。
本命は二撃目の大火力魔法と、拡散する光線。

威力は単発のそれに劣るが、広範囲へ広がるそれを、防ぐする術は彼等に無い。
これで勇者以外のすべての人間が倒れる、と魔王は計算していた。

魔王は勇者が真に神に選ばれたものであるのなら、一騎討ちこそが相応しいと考えていた。
神の祝福を受けていない者は、この神聖なる場に相応しく無いとも。

元より、魔王にとってあらゆる意味で敵となるのは勇者しかいなかった。
それ以外の者が何をしても傷一つつかないし、事実、何もできていないからそれは当然の認識と言えた。
だから魔王にとって、注目すべきはディラックの行動のみであり、それ以外は心底からどうでも良かった。
拡散光線で確実にトドメを刺せる、今となっては尚更に。


●●●が作戦を伝え終え、全員が魔王へと向き直る。
聞こうと思えば魔王は聞けたのかもしれないが、そんな真似はしなかった。
どうでも良かった。何を伝えようが。何を話していようが。

詠唱までは後五言。
それで終わりだ、と魔王はそう考えていた。
――奇しくも魔王とほぼ同じ事を、●●●は考えていた。
詠唱終了まで、恐らくは後五言。
結果がどうなるにしろ、それで終わりだ、と。

四言、呟いたところで●●●が地を蹴り、走り出す。
それと同時に他の3人も四方へ散った。ディラックは一直線に魔王へ。
それにやや遅れて●●●が右方、ディラックのやや後方を。グリフが左方、ディラックのやや前方をひた走る。その一方で、ヴィルムはその場を動かなかった。
杖を構えるも、詠唱一つしない。

後三言。魔王は表情一つ崩さず、ディラックから距離を取りながら詠唱を続ける。
彼の眼中にはグリフも、●●●も存在しない。
だから、彼は●●●が詠唱する呪文が一体何なのか、一切注意を払わなかった。

後二言。なったところで、彼の進行方向の地面が大きく隆起し、崩壊しながらも天に目掛けて嵐が巻き起こった。
氷の大魔法ブリザード。
今までの攻撃で歪んでいた地面目掛けて放った●●●の魔法が炸裂し、地面を崩壊しながらも嵐を巻き起こした。
しかし、そんなもの効きはしない。
嵐の衝撃も、大地の崩壊も魔王には影響が無い――そう思っていた。
その瞬間までは。


「……！」

進行先の地面は、抉られ、隆起し、とても歩ける状態ではない。
もちろん、魔王の身体性能をもってすれば地面を跳び越える事も、バリアで弾いて通る事も可能なはずだ。
しかし、それでも一度、歩みは止められ。

「――魔王ッ！！」

その間にディラックは魔王に後数歩で肉薄できる位置まで近づいていた。


後一言――。ダメだ、間に合わない。


仕方ない、と魔王は呟いた。
まだ完成はしていないが、魔法の使用を決断した。
不完全な魔法の行使は、威力が大きく減退する。だが、足止めとして放つなら、これで十分すぎた。
通常の魔法使いなら決して思いつかぬ埒外の考え。人外の思考。
破格の魔力であるからこそ出来る芸当であった。

小賢しい人の智慧を嘲笑うかの如く、魔王の掌から、炎の塊が迸り波となって広がる。
やむを得ずディラックは動きを止め、その場で大きく剣を振るった。

その間に魔王は瓦礫となった地面を跳び越え、距離を取った。
瓦礫で姿は見えないが、勇者がまだ生きているという確信がある。
魔王はこれから来るであろう勇者のために光線を構え――頭上の光をさえぎる影が足元に生まれ、見上げ、目を見開いた。


「終わりだ、魔王」



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「――まず、私達で三方に分かれる。グリフ、ディラック、私の順よ。間違えないでね。
　ヴィルムはここで待機してて、いつでもマジックレジスト撃てる準備しといて」

こくり、と頷きが帰ってくる。

「…後は簡単よ。私が逃げる魔王の足元をぶっ壊す。ディラックは、それを討つ。
　詠唱は間に合わないから、攻撃を防げない」

指を一本立てて

「――これが第一段階。もし、相手がそれを何らかの手段で回避してきたら。
　グリフとヴィルムはすぐに魔王の位置を探して、グリフが把握できるようにして」

「その後、さっきみたいにグリフはディラックを抱えて、飛べば良い」

指を二本立てて

「これが、第二段階。後は…ディラック。あんたに賭けるわ」


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頭上から迫るディラックへ、魔王は反射的に光線を放つ。
当然の如く、それは両断され、ディラックがそのままの勢いで落下してくる。

思わず後方に下がろうとして、足元ががらりと崩れる。
見れば、足元は小さな空洞が出来ている。
闇の魔法で、悟られず地面の中を抉り取っていたという事が理解できた時には、既にディラックは間近に迫っていた。

「――ッ！！」

これが最後の一撃と、ディラックは覚悟を決めて、己のすべてを込めて剣を振るう。
その剣は何処までも疾く、鋭く、美しかった。

ざん、と乾いた音が響く。

バリアもろとも、魔王の肉体が両断された音はひどく静かだった。
しかし、それも一瞬の事。
直後、閃光と爆音が巻き起こった。

「見事だ…」

「ディラック…！！」

魔王は生きていた。
片腕を斬り飛ばされながらも、未だ。残る片腕で光線を放ち、追撃を避けた。
見事な一撃。誰か一人が、僅かにでも躊躇すればこの攻撃が成功する事は無かっただろう。
…だが、ここまでだった。片腕でも魔王の勢いは衰えていない。
続けざまに放たれる、拡散光線を、この場の誰もが防ぐ術を持っていない。
全身全霊で剣を振るったディラックの身体は、もうわずかしか動かなかった。

それでもディラックは、聖剣を振り上げた。
その運命に屈さないと。
みっともなく死に抗い続けて見せると。
そう主張するかのように。

魔王はそれを、見事、と静かに呟き。
ディラックはその呟きを掻き消すかの様な雄叫びを上げ、剣を投擲した。

ラッキーヒットすら狙えない、哀れな一撃。
そんなもの、わずかに身体の軸をズラせばいとも簡単に避けられてしまう。

魔王は迫る攻撃に身体を捻り、かわそうとして

驚愕に目を見開いた。


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走る、走る、走る。
ヴィルムに身体強化魔法をかけてもらったというのに、たった数ｍがこんなにも遠い。私の足は驚くほどに鈍い。私の声すらも遅く感じる。

でも、それで良い。
魔王目掛けて投げられたディラックの剣も、それを避けようとする魔王の動きも、同じ様に鈍かったから。

地面を蹴る。
格好なんて気にしてられない。死に物狂いで飛び掛り、手を伸ばす。
――聖剣へと。


聖剣はディラックにしか扱えない。
彼以外が振るっても効果は出ない。

だが。振るってもらうのがディラックで、私は調整に留まればどうなるか。
試すのは今回が初めてだったので、万全を期して、剣にはあまり触れないように気をつける。
聖剣に触れる瞬間、どくん、と心臓が高鳴った。

身体の軸をズラし、かわそうとしている魔王。動きはあまり大きくない。
刃が肌を裂く痛みなど構うことなく、ぐっと刃を押す。
聖剣は私が触れても、その輝きを曇らせる事無く、切っ先を徐々にズラす。

聖剣は導かれるかのように魔王へと向かった。

「――！」

聖剣がバリアを突き破り、魔王の脾腹を掠める。
すんでのところで、魔王はその身をかわした。
聖剣は魔王の後方へと飛び、全ては台無しになる。
――その前に。壊れたバリアの中に、私の魔法が飛び込んだ。


「止めろ！　止めろ！　御前が魔王を倒してしまえば、物語が破綻してしまう！！」


魔王が口を開けて何か叫ぶが、聞こえやしない。聞く気も無かった。
地面に強かにぶつかりながらも、私は笑ってこう言った。

「あんたの部下と同じ末路よ。ざまあみろ！！」

逃げ場の無いバリアの中を、嵐が猛り狂った。
暴食の嵐は、内部にある魔王の肉体を引き裂き、食い千切り、呑み込み――。

嵐が消え去った後、そこには何も残っていなかった。
断末魔の叫びも、消える肉体すらない。
けれど倒した、という確信があった。

何故かはわからない。
けれど魔王は、きっともう、この世にいない。

「……勝っ…た…？」

ぽつりと零した私の言葉に応えるように、暖かい手が頭に置かれる。

「…ああ。俺達の、勝ちだ」

ディラックらしい、飾り気一つ無い。
シンプルな勝利宣言だった。

あなた様はそう楽しそうに、誇らしげに語るものだから、表情一つ一つがまるで

本人は思考を重ねるあなた様を眺めながら、少しぼぅっとした調子で調べている。集中しているならだんまりを決め込む。

さらに奥底へと進めば囁き声がより明確になる。今度は否定的な物ばかりに。

『出テ　イケ』


『　　　獄　の《リリス》　呪ウ』


『　食　イ　　　ラス』


『戯　　　死　　　』

声の主はこの世のものには聞こえず、調べて行けば、
悪魔に憑かれている――それも既に馴染んで引き離せないギアスが根底にある――ことが分かるだろうか。
心臓から伝わる本人の魔力の他に、もっと大きな外因的要素組み込まれた呪いが脈々と蠢いていた。

良いでしょうか、と目線を下に、霞むような声で問いかける

「色々アイディアはあったのですけど」と笑顔で答えるエル。
どうやら怒らせるほど笑顔が怖いタイプのようだ。

色々なアイディアを絶えずしゃべり続けるが、途中ではっと正気に戻り、
少し恥ずかしそうにコホンと咳払いすると

と、付け足した。

　どうも、と辞儀を一つして。

　つぶやき、身内のもふもふの姿を思い起こし。

　どうやらこのトカゲ。
　ギガヤが被りものであろうなどとは、微塵も思っていないようだ。

悲しい仕様であった…。

凄く単純であった！

ある意味あてずっぽうだけどあってるような気がしないでもない感じであった。

ある意味気になる部分が多い気がしないでもなかった！

　対する本人は随分と達観気味。
動作や口調こそ幼けれ、語選や顔立ちは確かにそうでもおかしくないかも程度には発達しています。

　今すぐに知らないとダメな訳じゃないですし。
あっさりと考えるのをやめてしまいました。そんなことより別の事を考えます。

　ぐっと拳を握り締めれば勇ましく、ちょっぴり締まった表情。
しかしそんなもの長持ちするはずもなく。

　ひっどい扱いされました。

身振りで10cmくらいの幅を示しつつ。

なんかヤな笑いを浮かべてた