クレーにはいくらか期待していたのだが、そろそろ見限る時が来たのかもしれない。

エンブリオと呼ばれる存在が何故この世界に存在しているのか、私はどうして生きているのか、ずっと知りたかった。気がついた時には、私はエンブリオとして存在していた。だが、エンブリオとして私は何をすればよいのかわからなかった。

エンブリオは契約という形を通じて、この世界の住人を助けることができる。しかしそんなことになんの意味があるのであろう？エンブリオ達は息を吸うのと同じように人を力を貸すことができる。そして、それがこの世界の自然な営みとなっている。しかしなぜそうなったのか？他にも違う形があったのではないだろうか？

人の生命力とネクターを得ることと、人に力を貸すことは、普通に考えれば全くつながりのないことだ。だが、この世界では、それら2つは同義なのだ。どうしてなのだろう？ 生命力とネクターを得たいだけならば、脆弱な人間などは必要な分だけ養殖し、ネクターも奪ってしまえばいいのではないか？もちろん、いまはエンブリオの力を得た人間たちがいるから、そんなことはたやすく行えることではないが、我々の祖先たちはなぜそうしなかったのだろうか？

ずっとそんなことを考えていても、私が納得できる答えは得られなかった。だから、エンブリオを研究しているというクレーに付いていくことで、何か光明が見えるのではという思いがあった。だが、クレーは私の求める答えにたどり着くことはないだろう。

彼女が研究と称しているのは、ただたんにエンブリオの魔力構造がどのように構成されているかどうかとか、より高位のエンブリオを生み出すためには何をするべきなのかとか、そういうことらしい。ようするに、人形の繋ぎ目がどんな材料で作られているんだろう？とか、人形を飾るリボンの布はどの色がいいだろうとか考えているだけなのだ。私が欲しいのは、どうして人形が存在しているのか、人形はこの世界で何をするべきなのかに対する答えであって、クレーの目指すそれよりももっと広い視点が必要なのだ。

「あら、なにしてるんですか？」
「ん。とくになにも、うたたねしてるだけにゃー」

私はそう答えたが、クレーの元を離れる算段をつけているところだった。

理由は分からないが、どうもフィーグルは、クレーをメルンテーゼの外側の世界出身だと考えているようだった。