発端

「何を求めてここに来た。ここは既にほぼ人の世界に非ず……」
「決まっているでしょう。救いです」

少女の言葉と共に、放たれた雷光が人面蛇身のエンブリオの身体を撃つ。
その身を焦がされたヒュドラは、石畳に倒れた。

「なるほど、意思か……」

それだけの話だった。
この時点では。

省察

「求めるもの、ですか」

レーネフィアは独りごちた。
一揆勢の求めるものとは、解放である筈である。
ネクターを奪い、城の防備を固める魔王からネクターを解放する。
では、王の求めるものは何なのか？
民から多量のネクターを集めて、何をしようとしている？

「この広い世界から集めたネクター。いくらなんでも、王一人では使いきれぬ数でしょう」
王に仕える兵士や研究者にも配分はするだろうが、それでも有り余る量であるのは間違いないだろう。
「単純に、富を自らに集中させたい……という訳でもないでしょうし」
そういう考えなら、ここまでの兵士がついて来る事はないだろうし、防備を固める為にネクターを消費するのは本末転倒だ。

「要するに……ネクターを奪ったのは、城の要塞化の為、そして……自らの目的のため」
ここまで大規模なネクターを消費する目的。それは――やはり、エンブリオだろうか。
しかし、そこまで多くのエンブリオを消費する目的とは一体――。

かくして思考は堂々巡りに陥る。
意味深な発言を行う敵には困らないが、それは推測を深まらせるだけで核心には辿り着かない。
「キーワードは、『世界』『亜人』『エンブリオ』……」
「……言葉通りの『魔王』というなら、この世界を魔界に変えようとでもしているのかもしれませんわね」

まあ、今のところ出せる推測はそんなところだった。

結論

「結局、何を考えたところで結論はこうなります――」

「民が求めぬ変化である以上、王のひとりよがりな義である以上――」

「私は民の為に動く」

誇るに足るだけの正しさを持っている目の前の少女。
人前に凛として立てる彼女の事が、やはり羨ましかった。

話しこんでいるうち、いつのまにか目的地の近くまで来ていた。
せっかくだし、明るい事でも考えておこう。

そういうと、モノクルを外して

彼女が話してもいいと言ったので
ミシェルは一拍を置く。そして、頭を掻きながら
ばつの悪そうに話し始める。

言葉を終えて、軽く溜め息。
するりと踵を返し、元々向かっていた道へと歩を向ける。

ア華ネは黒い鞄からタロットカードを取り出し、慣れた手つきでシャッフルを始めた。

両手を使って、テーブルの上にするーっとカードを広げた。

（タロットカードの引き方。　<・1D78><・1D2>　をコピペして、「・」を２個消す。）

呟かれた言葉も、その表情で何となく読み取れてしまった。

申し訳なさそうに謝罪をしてくる。

　懐から一つの、輝く金剛石を取り出す。一般的な物とは違い、黒に輝いているが。