命令は下されぬまま、私達は森へ行きます。
度重なる塔へのアプローチを一旦は止めて、私達は新しい場所を目指しました。
森の中に王城への入り口があるという噂を、どこかで耳にしたのです。

鬱蒼と茂る木々に、湿った土。遠くから、塞がれて響く悲鳴。
交戦のあとが随所に見られて、血で汚れている場所は少なくありませんでした。
私は高鳴る鼓動を抑えきれずに、先陣を切ります。

　＊　＊　＊

それは、心の内側で成される声とのやり取りでした。
一人、暗い部屋のベッドの上で、膝を抱えながらの対話。
シャントリエリは、結局私の損なわれた記憶については一切語りはしませんでした。
ただ私がその言葉の中に感じられるのは、そのおぞましい、恐ろしい存在であるにも関わらず、
それは確かに愛情のような、優しさでした。

いつかの日に、ゆあちゃんが、私にそう言っているのを思い出しました。

シャントリエリは、私のことが好きなのかなと。

果たして、それが本当なのかはわかりません。（聞けるはずもありません）
けれど、私を散々に悩ましてきたシャントリエリは、人間に仇を為そうとも、
私を傷つけようと振る舞うわけではありませんでした。
シャントリエリは私に全てを教えるわけではなく、選ばれた言葉と解釈を、
慎重に私に与えられました。時折黙り、考え込んでから、その言葉を発しました。

どこか、腑に落ちないところはあります。
シャントリエリは、もっと恐ろしい、ただ恐ろしい怪物ではなかったのか。
人を憎み、傷つけ、喰らう、化け物ではなかったのか。
勿論、契約する際に、私はシャントリエリと言葉を交わしました。
シャントリエリの言葉を信じるならば、シャントリエリは確かにそうした性質を持っているそうです。

これで、辻褄が合っているのでしょうか。
どこか、決定的に何かが欠いているような、そんな気がして、しかたがありませんでした。

本当に遠慮なく差し出された腕を触り始める。獣毛の硬さを確かめるように撫で、果ては頬を当て始めるだろう。

現状で夢愛達は隠れるように山や森の中を進んでいるせいか、まだ賞金首について知らないようだ。