賞金首、桜を叩き伏せて報奨を受け取って宿屋。
薙疾とチカゲは、テーブルを挟んで向かい合っていた。

間に置かれているのは前回倒したナイトスピリットの残骸であるランタン。
これを使うことでチカゲが再構成を行う、と言う話であった。


再構成。
エンブリオが別のエンブリオを取り込むことで、姿形を変えること。

エンブリオ
　「胚」と言う単語から考えれば、エンブリオが混ざると言う事は形を変えると言うよりも。
存在そのものの合成、一言で言ってしまえば生まれ変わりに近いのだろう。


実際、ミニドラゴンからパロロコンへと姿を変えたミズチ。
彼は以前とは全てが変わっていた。
と言うよりも、薙疾を契約主として認識していること以外はほぼ共通項がない。


つまり──

チカゲが声を薙疾にかける。

自分でも、自分の行動を意外に思いながら。

それでも。
チカゲは自分の存在が別のモノに変貌したとしても、契約主である薙疾の力になりたい。
そう思って、話を持ちかけたのだ。

その覚悟は既に出来ていたのだが…
再構成を行う前に、薙疾に何か一声かけずにはいられなかった。

が、薙疾から返ってきたのは間の抜けた返答。

チカゲから見ても薙疾が元々賢いとは言えないとしても。
どちらにせよ、やることは変わらないとしても。

自分の存在を賭けた行動について、全く何も理解していないとしたら。

あまりにも…

なるほど、とチカゲは一人考える。

ふと頭をよぎった言葉から、先ほど意外だと感じた自らの行動が理解できた。

シェイドは、負の感情を扱うエンブリオ。
その自分がそのような感情を抱く事があるとは思ってもみなかった。

薙疾とのお別れは、自分にとってかなり大きなことになっているようだ。

そして、そのことを薙疾が理解していないのもまた「寂しい」のだろう。


チカゲがそう困惑しつつも納得しているところへ、薙疾は言葉を続ける。

チカゲが"寂しさ"について納得したところに、予想と全く逆の。

そして、チカゲと全く同じ気持ちである、との返答である。


チカゲが消えることは理解していて、寂しいが何も言わず。
しかしそれを「大丈夫か」と問われれば意外とはどういうことだろうか？

例えば彼女の仲間…アルヴィンたちを倒した盲目の賞金首、ヤールと相対した時。
薙疾は憎悪などの感情を相手に向けるのではなく、後悔の念を自分に向けていた。

そんな薙疾は、自分の変革…消滅については何も言わないのか？

……何も言ってくれないのか？


その問に、彼女は答える。

本当に、今日は何度驚かされるのだろうか。

エンブリオを道具として扱う者も、愛玩動物として扱う者もいる。
逆に、契約者よりも立場の大きなエンブリオもいる。

また、契約者が欠損した肉体の一部となったり、契約者に食されたモノすらいるそうだ。

そんな様々なエンブリオの在り方の中、エンブリオを「相棒」と呼ぶ契約者に恵まれたのはどれほどの幸運だろうか。




チカゲは数分、黙っていた。

薙疾はその間、待っていた。





そして、何かを決意したようにチカゲが語り出す。

割とあっさりと受け入れたが、その理由をもう問う必要はない。
彼女は、私の提案と決定を信じてくれているのだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　「「これからもよろしく、相棒」」

その日、アムルイは神妙な面持ちでソレを差し出した。

つまり自分の前には、こんなものが鎮座している。
たしかアムルイが契約しているエンブリオの筈だ。
どうしてこれを？　と疑問に思って目を向けると、アムルイは頷いて答えた。

食えるか。

いや、というか何故、そういう発想になったのか。
命を粗末にしない姿勢は確かに立派だ。素晴らしい。
だからといって、全ての命を食する必要もない。どこの魔王だ。

丁重にお断りすると、アムルイは肩を落として去って行った。
そして残された君は、ふと嫌な未来を想像した。

まさか今後、食えないエンブリオを持ち込んで来るのか……？

そんなまさか、という思いが半分。
でもやりかねないな、という思いが半分。
どうやら胃薬の準備だけは、しておいた方がよさそうである。

クリスと目を合わせたチハヤは、
敵意を持った魔力が自分の中に強く流れ込んでくるのを感じたが、
あえてそれに抵抗しようとしなかった。

目の前にいた少女の形をしていたモノは大小さまざまな図形に分解され――

――数字の集合体がそこに在った。
複雑に絡み合う緑は顕微鏡で覗き込むシャーレの中を醜く走り回る病原体を思わせる。

闘技大会。
そこでモクの様子を見たあなたは、グレンダとモクが無事に平原を抜けたことを察する。
伝言、とモクから渡された紙にはこう書いてあった。

いつもはファイがわからなかった言葉をすぐ説明するようせいだが、
今回はあなたに話しかけられたため、ファイの傍に行くことはなかった。

小声で話し終えたようせいは、ファイの方に向き直った。

小首を傾げたファイを見て、ようせいは微笑した。