まずは試しに行こう。
　恐る恐る一歩を踏み出して。
　この空に声を響かせてみよう。

　――――――――――――――――――

　すっかり慣れてきたなぁ、という感慨を得ながら、アムルイは石畳を歩く。
　荷物を小脇に抱えながら歩いているのは、城下町の大通りだ。
　アイサが得た情報によって、これから森に向かうことになっている。
　そのために不足している道具や食料の買い出しに来ているのだ。
　以前とは違い、もうどの店に行けば何があるか分かっている。
　店主との値段交渉だって、負け越しているができなくはない。
　もうちょっと知識を学べば、不自由なく街で暮らすこともできるだろう。

　そんな風に考えながら、アムルイは先日の出来事を思い出す。
　一揆が始まってから賑わいを増した城下町。
　情報収集を続けているが、やはり商取引は活発になっているそうだ。
　ただ、一揆に参加する勇士はさすがに減ってきたのだとか。
　そこでふと、彼女は考える。
　最終目的は一揆の成功であって、新王の討伐ではない。
　つまりまず、言葉を届けることが大切なのだ、というのは以前からの考えだ。
　その手段のひとつとして彼女は歌を考えた。
　だがそれだけに頼らず、演説のようなものも練習しておいた方がいいかもしれない。
　幸い、仲間と合流するまでまだ時間はある。
　少し広場で、一揆の参加者を募る演説でもしてみようか――――。
　そんな軽い気持ちで、彼女は中央広場へと足を向けたのだった。

　――――――――――――――――――

　整然と男達が立ち並んでいる。
　誰もが目に闘志を燃やし、呼気は抑え切れぬ殺気を孕んでいる。
　大気が陽炎のごとく揺らいで見えるのは、目の錯覚か否か。
　彼らを前にして、アムルイは凛とした声音で叫ぶ。


「野郎共！！　貴様らの特技は何だ！？」

『殺せ！　殺せ！　殺せ！』

「この一揆の目的は何だ！？」

『殺せ！　殺せ！　殺せ！』

「この国を愛しているか！？　世界を愛しているか！？」

『ガンホー！　ガンホー！　ガンホー！！』

「よし行くぞ！！」


　嗚呼、一揆が行く……。
　望まれることなく、浮き世から捨てられし彼らを動かすもの。
　それは、生きる意志を持つ者の意地に他ならない。

　――――――――――――――――――

　煽り過ぎた、と後にアムルイは述懐する。
　なお勢いだけの彼らは、例外なくラルフに蹴散らされたとか何とか。

一振りの大剣を暫し見つめる