最近は、色々と考えさせられることが多い。引き籠りを治すために突撃することになったこととか、
旅の同行者であるクロウさんの様子がおかしかったこととか、テオさんがどこか遠い目をしていたこととか、
それからリシュレナさんが言っていた、強制エンブリオの話から思い浮かんだ僕の魔術書のこととか。

……特に、魔術書のことは自分でもあまり気にしていなかったけれど、考えてみればおかしな話ではある。
地球では動くどころか書いてあることさえ嘘っぱちではないかと思えたものが、
メルンテーゼに来て突如力を持って動き始めたのだ。
原因がこの世界にある何かであると考えるのは、ごくごく自然なことだろう。

そして、この世界でもっとも原因として挙げやすいものといえば、
エンブリオと契約する為の―――そして彼らの力の源であるネクターだ。
僕の魔術書、“大いなる神秘の鍵”、そして“高等魔術の教理と祭儀”はエンブリオだとでもいうのだろうか。

……背中からの声に、なんとなく想像がつきながらも振り返る。

そんな罵り方初めて聞いた。

そう答えて、僕は“大いなる神秘の鍵”を懐から取り出す。
近くに敵も契約できるエンブリオもいないからか、魔術書は沈黙を保っている。

本当に、祖父は何を考えてこんな本を書き上げたのだろうか。
子供だった僕の目から見ても奇人だった大エリファス・レヴィ―――アルフォンス・ルイ・コンスタン。
彼のことを思い出すたびに蘇るのは、歳をとって小さくなった背中と、口癖のように言っていた言葉だ。

『私の理論の正しさはいずれ証明される』
『それはアルフレッド。お前によるものだとしても、エリファス・レヴィ・ベート―――第二（ベート）の私によるものとなるのだ』

信仰者として、そして社会主義者として闘い敗れたアルフォンス・ルイ・コンスタンは、
何故エリファス・レヴィとして異端であるオカルティズムへ傾倒したのか公式に発言したことはなく、孫の僕にも決して語ろうとはしなかった。
だから、僕は自分なりの祖父観で、魔術という側面からかつてのアルフォンスの正しさを証明しようとした（エリファス・レヴィとしての理論は否定されるどころか、オカルティズムの同志には称賛の声を受けていたようだから）とか、
オカルトという新たなステージで自らの存在価値を証明しようとしていた……などと考えていたけれど。
肝心の、何の理論を、どのような方法で正しさを証明するのかは、最期まで一言も口にしなかった。
祖父が僕に残したのは自らの考案した魔術の知識と、この魔術書を常に持っていろという言葉だけ。

まさか、何もせずにいつか誰かが「やはりアルフォンス・ルイは正しかったのだ」なんて言ってくれるのを期待していたわけでもないだろう。
……それじゃあまるで、突撃メッセ委員会で書き込んでおけば誰かが来てくれる、なんて思っていた僕と同じだ。
なんていうと、少しおかしくなる。祖父もアンリエットにさんざん罵られる姿を想像すると思わず笑いがこみあげてきそうだ。

その言葉で、意識が現実に帰ってくる。どうやら、顔に出ていたらしい。
その侮蔑の表情で思い出したが、疑問と言えば彼女の存在もその一つと言えるだろう。

ドールのエンブリオ、アンリエット。彼女は僕の持つ魔術書の力に目をつけやってきたと言っているけれど……
それならば彼女はさっさと魔術書を奪って僕の元から去ればいいだけの話なのだ。
力があるのは魔術書。契約をするのも魔術書で、僕なんて魔術書を扱う為の運転手程度でしかないのだから。

……それに、時にアンリエットは僕でさえも眼をみはるような魔術書の使い方を行うことができる。
時折、僕は別に必要ないんじゃないかとさえ思う時だってあるぐらいだ。

けれど、彼女はこんな僕にわざわざ引きこもりを解消させようと、
こんなことさえ（無理やり）提案してくるのだ。不思議で仕方がない。

何故……彼女は僕と契約したのだろう？

ほんと、なんで契約したの？
……まさか僕を虐げるのが楽しいからとかいう理由じゃないよね。
否定できないのが怖い。


＜エンブリオたち　〜アンリエットとジョニー２〜＞ ikki 9th-2

　和やかだった茶会の雰囲気が一変する。疑念と、警戒のものへと。

　ジョニーは口調こそ穏やかだが、傷の走っている左眼はまるで笑っていない。
　それ故に、アンリエットは否が応でも理解せざるを得ないだろう。この狼は、自分に疑念を持っているのだと。

エリファス・レヴィ・ベートは自他共に認めるであろう頼りない男だ。
ましてや魔術書に絶対必要である者ですらなく。効率の面から言えば、彼の育成なんてまどろっこしい真似をせず、
魔術書の扱い方を聞き出した後、奪ってしまえばいい。

しかしその手があったか！　という反応をされるよりは遥かにマシかと自分を無理やり納得させるかのように頭を振り、
ジョニーは言葉を続ける。

徐々に、アンリエットの言葉と表情に険が籠っていく。ジョニーの発言を不快に思っているのは間違いないだろう。

少女人形は口を逆月のように歪めて笑う。
そこにはただただ冷酷さしか存在せず、ジョニーが引かぬとあらば自らの宣言した手段を躊躇なく実行すると思わせるものがある。
果たしてジョニーは、

アンリエットが呆然とするほどに、あっさりと引き下がった。

ジョニーは先ほどの詰問が嘘のように、丁重に謝罪してその場を去ろうとする。
当然のことながら彼女は釈然としない表情を浮かべ、呼び止めようとして……結局、声をかけられずに伸ばした手を下ろす。

そうして、彼が居間から完全に去る寸前。

そんな言葉を残して、もう振り返ることはなく自分に宛がわれた部屋に戻っていった。

―――現在時刻、一揆開始から九日目の昼。未だエンブリオは契約上限に至らず、
解約以前に、主もエンブリオも魔術を習熟しなければならない段階である。
そんな中で、エンブリオに苦痛を与えた上で契約を解除するなどという方法を覚えたというのは、
あまりにも不条理であり、仮に実際に覚えたのだとしてもどのような用途に使われるのかという疑問が残るだろう。

少女人形は己の敗北に、華奢な拳を握りしめた。

仲間と離れた場所で、エルは独り考え事をしている。

―森から僅かに逸れた街道―

その時、僅かにパーティを組む者達から距離が離れていた。
視界には今誰も見えはしない。しかし、駆け出せば直ぐに合流できるだろう。


天候は快晴。
雲ひとつ無い地平線の先、燃える様な夕日がゆっくりと落ちていくのが良く見えた。

突然、後方から声を掛けられる。

声のする方へ視線を向ければ、
赤い上着を羽織った女性が煙草を咥えながらこちらを見ている。

忠告の後、去るつもりだったのだろうか。
足を半歩戻したところで止まり、問いを投げかける。

　足元にゴロゴロ転がってきてピタッと停止した謎の物体を見て、思わず声をあげた。
　その寸前、もの凄い角度で地面にぶつかっていたように見えたが、……大丈夫なのだろうか。

　平然と立ち上がる青年を見て、内心にどっと冷や汗を掻く。

　横文字は苦手で、馴れるのに時間がかかる。
　発音はこれで正しいかえ、と小首を傾げて尋ねながら。

　くすくすと笑みながら、尻尾をゆらす。離れた場所にいる少女に、小さくウィンクを送り。

　さて？　と。とぼけた表情で、軽く問いを投げかける。
　どうやら彼は誰かと話すことに馴れていないようだ。この受け答えで緊張が解ければよいのだが。

リシュはどういうことなのか彼女なりに考えこんでいる

うんうんと時間をかけてまとめてからリシュは結論をだす

お気楽な魔法少女は自分なりの返答を出し

ほら完璧っ！とばかりにニコニコしている…

　

　※褒めてるつもりです

そこでふと、尻尾につられそうになってエルに捕まった妖精に気づく

あなたの噛まれたところを撫でようとして、ファイは手を止めた。

どちらが正しいのか、ファイはわからなくなってしまったようだ。

背の高い少年は戸惑いの表情であなたを見下ろした。
少年の傍にいた水をまとった女性――エンブリオは、胡散臭げな顔をしている。

あなたの姿を見て、自分より背が低いけど年上みたいだな、などと失礼なことを考える。

視線を感じて、なんとなく自身の右腕をさすっている。
さすりながら、あなたの側にいるエンブリオに少しばかり目を見張った。

そのまま笑いつつ、あなたに遠慮がちに近づく。

屈託のない笑顔で、あなたに軽く頭を下げる。

ちょっと悩む素振りを見せたあと、まあいっか、という言葉と共に、右腕からアームブレードが飛び出す。

どうでしょう、と顔をぽりぽりとかきながら、なんというか、申し訳なさそうにしている。