一時的に協力体制を組んでいた沙雪とは別れ、入れ違うようにミクネが戻ってきた。
　アイツは自分が手に入れたいエンブリオの為に縁ぽ樹に出ていたのだが、どうも見事に逃しちまったらしいが……災難なもんだな。まあ元気を出せ、まだ他にもお前と相性のいいエンブリオもいるさきっと……とフォローしてやれば、あっという間にケロッとしているのだからさすがの切り替えの速さといった所だな。まあそれがミクネの長所のひとつなんだろうが。


　そんな訳で俺達はまた同じ面子で水辺の散策を続けていたのが今日の昼間の話だ。
　途中で素材なんぞをチラホラ拾いつつ、ふと変な物音がしたので見てみれば……。

　デカいイカが居たのだから世の中訳が分からねぇ。
　まあ水辺だから水棲生物なんだし居てもおかしくはないんだろうがよ……それにしたってオカシイ気がするのは俺の気のせいか……？　それともメルンテーゼの自然環境っつーのはこういう無茶苦茶も平気で許容する懐の広いカオスな環境なのか？
　何にせよ頭が痛いことに違いはないんだが。

　そのイカに眠りを邪魔されたとかで変な魔女がぷんぷん怒りつつ俺達に強力を迫ったり、うやむやのうちに一緒に戦うことになったりもしたが……ま、こういう事もあるさと諦めておくのが肝心かもしれねぇな。
　やれやれ……珍妙なことに巻き込まれたもんだぜ本当。


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悪いことをしているとは知っている。
きっと知ればアイツ等は何故そんな事をと俺を責めるかも知れない。
軽蔑するかもしれない。

とはいえ、これは必要なことだ。
たとえ罪悪感がこの身を焼こうとも、止めるつもりは欠片もない。
そうしなければ俺はこの世界をすら出ることが出来ないのだから。


恩返しも確かに目的の一つではあったし、妹探しも本当の事。
……けれど、たったその2つだけで俺はこの戦いに参戦するほど善人じゃないんでね。
俺には、俺の目的が在る。
その目的はもう少しもすれば果たせるだろう。

もう少しもすれば全部が金に染まる。
そうすれば……。


日記はこのへんまでにして、そろそろ俺も寝よう。
次はまた厄介な山岳に足を伸ばさないと行けないみたいだしな。
体力は温存しておくに限るってやつさ。






　その日見た夢は、たいそう悪いものだった。
　やれやれ……災難だな。

民衆の勝利を願うクライを眺め、少しばかり考えた後、おずおずと口を開く。

とは思ったが、口に出さないではおく。

活躍のほどは耳にしていますよ、と楽しげな様子を見せた。

男は両の手を掲げ、丸腰の体で近づいて行く。

青年は痛々しげな目線を意にも介さない様子で続ける。

馬鹿馬鹿しく思うだろうが、と小さく付け加えてから、青年は大真面目な顔で尋ねた。

　安定した暮らしをしたいだけ。
　確かにそれだけを望んでいたはずだった、とトカゲは薄く目を細めた。

　自分の責任では無い。が、こちらのゴタゴタに手を貸してくれている者が狩られてしまっては、気の毒に思わずにはいられない。

　話している間。知らぬうちにゼゼの手は硬く拳を作っていた。
　許さないと断言するゼゼの目には、さきほどまでの会話とは少々違う色が見えたかもしれない。

　

　

　言葉の最後に特に体格差は、と小さく付け加える。
　故郷で言えば顰蹙を買いそうな発言だったが、日頃そう考える故郷のオス達も少なくはないだろう。

　案外。世界を渡るという技術や能力はありふれたものなのかもしれない、と考えつつ。

　先程から抜けた発言が多いが、それだけ気を許しているのかもしれない……同じような境遇を経験しているからだろうか。

　そして薬を飲み干し目にうっすらと涙を浮かべる竜殿を前にして。

　竜殿を思っての発想ではあったが、その処方の仕方は薬を飲めない子供への対策でもある。その無礼に気付かぬトカゲであった。

ハロウィンの夜が明けて、何日か経った頃、人の往来に見覚えのある尾を見つけた。
龍は、それをしばし見つめたのち

と叫びながら手を上げて近づいていく。
青年の目前に躍り出た龍は彼の顔を見上げるように見据えていった。

俺は今全力で謝っている。

なぜなら、荷台に載せたクラカリ君が俺のスピード(150km/h)に耐えられなかったのか荷台から転げ落ちてしまったからだ。

ヴァルハラ(神の国)行きの素晴らしい感覚を感じてもらおうと思ったのが裏目に出たようだ。

気づいたときには鈍い音がして、クラカリ君が地面を転がっていた。

その後、ベルの逆鱗にふれボコボコにされたのはどうでもよい話である。

俺は腰に下げた小物入れから包帯と薬草を取り出した。
テキパキと包帯をクラカリ君の頭部に巻きつける。

クライがそういう職に携っているのだと聞いたとたんに、目を輝かせて相手を見つめる。

紫のゴシックロリータ服を着た子供が、あなたに近づいて来る。

子供はそう言い、服の裾をつまみながらお辞儀をしようとして――
思いっきり転んだ。
腰を折り曲げすぎたせいで、バランスを保てなくなったのだ。
少し間が空いてから、子供はゆっくりと立ち上がる。

子供はまるで、自分が女性ではないような言い方をした。

小首をかしげながら、少年はあなたに尋ねる。

青年はため息と共にそんな呟きをこぼす。
かと思えば、その長身痩躯がユラリと幻の如く霞み消えた。
入れ替わる様に出現したのはヒトよりも遥かに巨大な金の竜である。

バサリと翼をひと打ちしてそういえば、咆哮を上げるのだった。

魔異を遠目に観察する青年のその隣。
一人、気炎を上げる者が居た。コカトリスのステファニーである。
彼女は憤懣やるかたないといった表情でぼやいていた。

そんなやり取りにぎょっとしたのは青年である。

止まる気皆無の様子に盛大なため息。

少女なりに、付いて行けない流れに付いて行こうと、努力したらしい。
耳を傾け、首を傾け、ゆっくり吟味するように閉じ、開いた目。

特に理由のない曲解と誤解が、ツッコミ役を襲う。