Vanetta's Diary - Page.11

ついに城内への進入路を確保した11日目。ただし突入予定はまだ無い。
だってねえ、ほら。さすがに城内と言えば人工地形だし。つまり誰かが作った場所。
そしてその誰かと言えば、該当するのは現王勢力以外にありえない。
すなわち城内に突入するという事は敵の本陣に突入する、まさにその通り。
森林や山岳の原生生物に比べればまだ甘い、なんて話は聞くけど、それでもそれらと比較できる程度には厳しいって事でしょう。
山岳地帯には足を踏み入れた事もあるし、割と無事に戻ってはこれたけど、
人、知性あるものが相手の場合、単純な強さだけで危険度を判断するのは危険だと、そう思う。

今もまだ、揃えられる準備を十全に整えたとはとても言えない状態。
無理に急ぐ事はないし──情報があるという事は、きっと他の一揆参加者が既に突入済みでしょうから──
そう突出した強さを持つ訳ではないから、可能な限りの準備はしてから行きたいところ。

正直、この世界に来てから新調した私の武具は、現状の周辺戦力を見るに既に「型落ち」と呼べるレベルでしょう。
日一日と、私達も、他の一揆参加者も、原生生物も、そして多分現王側の手勢も、恐ろしい速度で成長している。
これらが全てエンブリオによるものだとしたら。……いえ、恐らく、間違いなくエンブリオがもたらしたもの。
他者に力を与えるという点に関して、エンブリオは多数の分割世界を見渡してなお異常と言っていい存在。

ただ、疑問もある。
エンブリオがメルンテーゼ現住の存在にも影響を及ぼす。これは確実。
そして短期間に信じられない速度で他者を成長させるのも事実。

……であれば、この一揆が発生する前、当然のように年単位でエンブリオと契約していたメルンテーゼ住人は、
今の私達など到底及びもつかないほど成長していても全く不思議じゃない。
でも、そこまで圧倒的な強さを持つ存在を、私が今の所聞いた事が無い。

この一揆の開始が、
或いは異世界から大量の存在がメルンテーゼに移動してきた事が引き金になってエンブリオの超成長力が目覚めた？
もしくは現王がネクターを、エンブリオにとっての重要なそれを独占した事がきっかけで？
全ては仮説。だけど仮説が立てられる程度の材料はある。揃ってしまっている。

悩まないとは決めたけど、思考の落とし穴に落ちない範囲で考える事は止めないでおこうと思う。
事実と想像を混ぜて考えるのは、未知に挑むのと同じぐらい楽しいもの。
当たってても間違ってても、真実を知った時の楽しさが増えるし、ね。

貴女の歌声が力強く響けば、詩人は演奏の手を止めました。
貴女の決意を感じ取ったかのように、静かに頷いて、

静寂の中にそうとだけ歌って、詩人は口を閉じました。