全てが済めば、惨憺たる光景だけが残されました。
ラケルトと呼ばれる男は立ち去り、私達と、敵兵の亡骸だけが残されました。

血、肉の焦げた匂い。
喧騒は失われ、息づかいと、戦利品を漁る物音だけがそこにはありました。

私は黙々とその作業をしました。もはやこの場において、私が人間であるかどうか、
殺すべきか殺すべきでないかという問いはなく、ただただ、これは戦争なのだと。
人と人の殺し合う狂気が常であり、略奪は許されている。
自らの生死を目前として、剣を抜き放つ余地はなく、ただ生きるために必要なプロセスとしてそれはある。
戦争とは、そういうものなのだと。一切の静寂、無常を感じながら、私は作業をします。

……それはとても楽なことでした。
その正しさに委ねることは、その当然さに委ねていられることは、楽なことでした。
確かにそれは、平和な日常とは遠ざかった何かであるのは確かです。
穏やかにお菓子でも食べながら、くだらない話をしているような、そんな平穏とはかけ離れたものです。
けれど、この瞬間もまたそれと同様に、何かを問いただされはしない。
私は誰か、私は何をすべきで、何をすべきではなく、どうあるべきで、どうあるべきではないのかを、
問われたりはしない。

この心に、体に、考えること。
それに、抗うことに。

それでも、これだけは、

血のにおいを振りまいて、白猫が一匹、フィリーの視界へ転がり込む。
僅かに乱れた息、どこへと向かうかも定まらぬままに歩いていたのだろう、フィリーの姿を見、そのいでたちが人でありながら人ならざることを認めると、僅かにその表情から緊張を抜いてその場に座り込んだ。

白猫は左腕をかばいながら、無言でフィリーを見つめる。「取って喰うか」と、そう尋ねるかのように。

　　

　

思考が冷めていく。
だけれど、感情は爆ぜる。
人の命を平然を奪える集団に対しての怒り。
一揆の邪魔をされている事への怒り。

…後は行った先でウンディーネが時間を稼いでくれるはずだ。
幼い子がこの場に居合わせるのは、まずい。

まあいい。今はそんなことを言っている場合じゃない。
気づかれているかもしれないが、この方が相手も都合がいいだろう。

振り返り、向き直る。