エンブリオの様相は実に多種多様だ。同一種であっても大きさや色、姿形がまるで異なる事も然程珍しくはない。
また、野生のものが人と契約を結ぶ事によって更にその姿を変える事がある。
その仕組みも原因も明らかにはなっておらず――とある研究者が唱えた説によれば魂の色であるとも言われているが、詳細は未だ不明である。


そもそも当の本人――エンブリオは人ではないが――ですらよくわかっていないのだろう。
少なくとも、宿営地の片隅で叫び声を上げた小さな竜にとっては未知の出来事だったようで――



「あああああ！？」
「何じゃリコリス、騒々しい」
「オレの自慢の鱗が、角が、何でしみったれの氷竜みてえに青くなってんだ？」
「知らぬ」
「おい」
「人と契約したエンブリオの中にはその姿を変えるものも居るとは聞いた事があるが、おんしのそれがわしと契約した事によるものかは知らぬ」
「もしかしなくてもお前のせいじゃねえか……ってあああああ炎まで青くなってやがる！？」


ぎゃいぎゃいと喚く小さな竜を片手でいなしながら朝の身支度をする。
雌だと言うのならもう少しばかり優雅な物言いをしてくれと思わないでもないが、強さが正義の竜族にあってはそのあたりはどうでも良いのだろう。

とは言え、淑女然とした雌の――雌と呼ぶのも失礼か――女性の竜族というものも多数存在しているし、幾度も顔を合わせた事もある。
リコリスと名付けたそいつは体格の小さな竜族なのかと思ったが、もしかすると単にまだまだ子供なのかもしれない。


「おんしはそう言うがの、炎は赤いものより青いものの方が温度が高いのじゃぞ？悪い事ではなかろうて」
「オンドが高い？オンドって何だ？」
「ふむ。わかりやすく言うならば温度が高い方が炎としては強いとも言えるのぅ」
「……強いのか？」
「うむ。温度の高い炎で無ければ溶かす事ができぬ金属やらもあるしの」
「そうか、強いのか……」


こうして簡単に丸め込まれ、所在なさげに小さな爪のついた手をにぎにぎしているあたりはやはり子供だったのだろうか。
此方としても嘘をついている訳ではないので良心を痛ませる必要は無い筈なのだが――
気を落としたような様子にはやはりいたたまれず、声をかけようとしたところで先を越された。それも、最悪の相手に。


「ギャハハハハ、ションボリオチビドラゴンチャン！マンマガコイシイデチュカー？」
「うるせえ、焼き鳥にすんぞこのクソインコ！」
「食える程度にとどめておくんじゃぞ？炭になっては食うに食えぬからの」
「ゲッ、ババァ！？……ジョウダンジャネエ、コンナトコロニイラレルカ、オレハヌケサセテモラウゼ！」
「待ちやがれ！」
「ヤナコッタ！」

小竜、リコリスも口が悪いが極彩色の翼をはためかせて現れた鸚哥――ストレリチアはもっと口が、更に言えば性格が悪かった。
どこか憎めないところはあるのだが、少なくとも今この小さき竜の逆鱗に触れるには充分であったらしい。
バサバサと騒々しい羽音をたてて飛び去る２匹の背中に向かって呼びかける。

「こりゃ悪餓鬼ども、飯までには帰ってくるんじゃぞ？」


――まあ、戻ってこなければあの２匹は飯抜きになるだけだが。

なんてな、とけらけら笑い飛ばすが。
人差し指で自分の頭をトントンと指して、にっと笑う。

（手袋を着用する

静かに恭しく一例。