リリスのいう通り、見下ろした先は兵舎のように見えた。

行ってやってもいいんだが、と呟きつつも、足はすぐには向かわず。

どうしたものか、とぐるり見渡す。このまま水辺にいてもいいが、城周りで嗅ぎまわるのも何かあった時面倒だ。
また上流の砂地に戻るか、といったところ。

同じ水辺を探索する何人かから、闘技大会の噂を聞きつけた。
どうも、また一揆の参加者の力試しを行うらしい。

力試し、という言葉は単純に心躍る。
つまるところ手っ取り早い喧嘩だし、勝てばスカッとして負けてもリスクが少ない。
騒ぎに乗じて何をするでもあり……

……人が計画、じゃなかった、考え事をしている最中だというのに、肩がうるさい。
中で何かもめている様子だが、所詮マリオネット1体だ。何が起きているのか傍目にはわかりゃしない。
面倒事はこれ以上遠慮したいところだが、契約解除するのはさすがに惜しい。
ため息混じりに坂道を上流へと登る。
歩いた分と気候の変化に汗が滲みはじめたあたりで、黒い影を見た。

赤いリングを構えながら、にぃと笑った。

近付いて行った相手が背を見ず急に数歩後ろに下がると、
ぶつかりそうになった距離に慌てて一歩引く。
バランスを崩し、地面に音鳴らして尻餅ついたのはリリーベルの方で

シズの頭上を掠めた海象の牙にぎゅっと目を瞑り、
再び海象に挑んでいくシズの邪魔にならないよう尻餅姿のままずりずりと後ずさった。

ゴムのようだけれど、何なんだろう？
覗こうとして差し出された手に相手を見上げ

いいことを思いついた、といったように目を輝かせて
シズの手を両手でしっかりと握り、

そう言って立ちあがると、受付の方までシズを引っ張って行った(STR241)。

変な人って言ったのに、すごく笑われた。
やっぱり、かわったひと。

そう思ってたら……撫でられた、んだろうか。
ぽかんと見上げて、そろそろ視線を下した。
なんだろう。……　てれくさい。

ぴくり。
ぼくにみみがあったら、絶対動いてた。

見回す。見回すけど、
ぼくに、同行者は、いない。

じいっと、見上げる。じいっと。

だめでもともとだ。
ぼくらは、力を競い合う場面が、だいすきなんだ。