作楽誘乃なんて。どこにもいなかった。
けれどそれは、単なる辻褄合わせだったのだろうか。


本当に？

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【201X.XX.XX】



その晩は雨が降っていた。
傘も差せない己を、冷たい雫が何度も穿つ。
大降りでもないのに、細く鋭い粒が肌に刺さっては砕ける。
その痛みは、夢見心地とは言い難く。現実を証明する楔のようだ。

辛うじて手の内にある懐中電灯を取り落とさないようにしながら、泥濘みかけの土を踏む。
目的地はそう遠くはないのに、背に負ぶう重みの分だけずっと、辿り着けない場所に向かっているような気さえする。


辿り着けなければどうなるのだろうか、と思う。
辿り着けなければいいのに、とも思う。
みんな腕に抱えて、或いはみんな取り落として。逃げてしまえばいいのに、とも思う。
……そして結局、そう夢想するだけで。
己の意思なんて微塵にもないのだろうと思う。


だからこうして、辿り着いてしまう。


その木の根元に、背のそれを下ろす。
使い古されたシーツが緩んだ泥に汚れて、雨降りの中洗濯物を落としてしまったいつかを思い出した。







……脇に抱えていたスコップを地面に突き刺して、その柄を握りしめる。痛いほどに。
横たわる塊が、まるで物みたいだったから。
そうして早鐘のような胸を誤魔化しながら掘る土は随分と湿っていたから、都合の良いように呆気なく口を空けた。







身体が冷えて空気の温度も分からなくなった頃、布の塊を抱え上げる。
物みたいに無機質なそれは、雨を吸って殊更重くなっている気がした。
引き結んだ唇が嗚咽しそうになるのを、肌を刺す痛みが引き止めた。


穴は小さい。ずっと、ずっと小さい。
己ひとりに掘れる穴なぞ、高が知れている。

……こんなにも小さいのに。
その塊は、恙無く収まった。



「う、み……」

私の、弟は。




こんなにも、小さくて。

こんなにも小さいのに。




もう二度と、動くことはない。




どうしてこんなことになってしまったのだろう。

どうして己は息をしているのだろう。

涙も出ない。

親に似て薄情なのかもしれない。




でも、何も考えたくない。

何も考えたくない。

何も、何も。



己が成してしまったことなんて。

もしも。私に意思があったなら。
助けられたかもしれない、なんて。
こんなことにならなかったかもしれない、なんて。

そんな都合の良い話は。
思うだけ、苦しくなるだけだから。



＊＊＊



あの人の待つ場所に帰る前に。
桜の木の下で、ひとつ願ったことがある。



海が。

私の心が。



だれにも、見つかりませんように。







その日“作楽誘乃”は、全てを桜の下に埋めた。

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あの街に生まれたぼくには。








（心を殺したかった。）
http://lisge.com/ib/k/8/r147.html



父がいて。弟がいて。



（許されたかった。）
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友達がいて。……異能があって。



（綻びを繋ぎ止めたかった。）
http://lisge.com/ib/k/17/r147.html




確かに、思い出していく。

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【201X.XX.XX】




「昼間、電話があった」







「お前が……」


「お前が全部洩らしたんだろ？」




「いい気分か？　親を裏切って──親を見下して！！」




「……っその目」

「その目だ」

「その目を俺に向けるんじゃねえ」




「気持ち悪いんだよ……ッ！！」




「、………………」




「……化け物が」




「二度と、俺に逆らうな」

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（そうして。）



（それはふつりと、呆気なく千切れた。）

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【201X.XX.XX】



「……そうだよ」




「怖いんだよ。未来が」

「みんな、希望なんて語るけどさ。　　　　　　　　　　
　それが本当に用意されているのか、誰にも分からない。
　　　　　　分からないのに、当たり前みたいに口にする」





「ある意味では普通で、ある意味ではバカみたいだって言える」

「あるかないかも分からないものを勘定に入れるのは、そういうことだよ」





「……別に非難したいわけじゃない」

「誰だって幸せになりたいよ。幸せになりたくない人なんていないと思う」





「でもね。幸せを期待して、まっすぐ進んだ先に。　
　なにもなかったら、どうしようって……そう思う」

「自分を酷く傷つけるものが待っていたら、どうしようって思う」

「冷たい不安が足下に、ずっと付き纏って離れない」

「期待した分だけ──苦しいんだ」





「──っ、苦しかったんだ、」





「かあさんが目を覚まして、また笑ってくれるんだって思ってた」

「あの人は、いつか“とうさん”に戻ってくれるんだと思ってた」

「三人で、普通の家族になれると思ってた」

「友達も。友達なら、ぼくのことを分かってくれるんだって思ってた、」

「…………この力は、みんなを救えるものなんだって思ってた」





「思ってたよ」





「そうやって期待したものは、今のどこにもないのにね」

「ひとりぼっちで。裏切られた気持ちだけ、取り残されてしまった」






「……だからもう、諦めてるんだよ。希望なんか、持つだけ辛いだけだから」

「明日なんて。来なければいいのに」

「進むのをやめて。目を、耳を塞いで。息を潜めて。
　　　そうすれば、もう辛い思いはしなくていいから」





「……そうすることは間違ってるんだって、知ってるよ。
　　　　手を伸ばさなければ、欲しいものは手に入らない」

「みんなそう言う」

「でもさ。もういいんだ。もう十分だ」





「…………何もかも間違いだったって。もう、知りたくないんだ」

「今までも、これからも」

「誰も、間違いを許してくれるはずがない」

「…………許せるはずがない」







「……もしもさ。ぼくが居なくなったら……どうなるのかな」

「とうさんは捕まるかな」

「海も見つかるかな」

「…………見つけてくれるかな」

「…………」







「間違い続けて生きるのは、とても……とても、苦しいことだから」

「だから」





「心を」





「ぼくの全部をあげるよ」





「正しくないぼくなんて」

「もう、要らないから」










「ヨシノ」

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思い出した。

ぼくはあの街で生きて。





そしてあの街で、「ヨシノ」に出会った。



ぼくは「ヨシノ」じゃない。

初めから、ヨシノじゃなかったんだ。
























優しい手のひらがひとひらを拾い上げ、そっと包む。




優しい眼差しに見下ろされる。




優しい声で、全てが上塗りにされる。




そうだ。

緩やかに、世界が死んでいって。
愛したものを、欠いていって。

みんな失い、ひとりきりになったぼくにできた。
優しい、最期のともだち。





あの街で人を食らい、そして。
ぼくを最期に、世界に否定され、堕とされた。
優しい桜のこども。



……意識が薄れていく。

優しい夢に、溺れていく。

















これがこの地での、確かな現実だ。

▲	真柄 「…………あぁ、なるほど！　なるほどな？ 　そういうことか。ようやく理解した。 　あのツインテール達も、ヨシノも含め、 　アンジニティであるお前の心の分け身であると…… 　そうか、道理でなにか不思議な雰囲気がすると思った」

	真柄 「そう、おまえは最初から不思議な雰囲気じゃった。 　ヨシノと同じ人格かと思えば、包み込むような優しさがあるというか…… 　端的に言うとお前にバブみを感じていた。 　ある意味この感覚は間違ってなかった訳じゃな。 　だってお前ママだったわけじゃし。ヨシノママ……」

	真柄 「もっと厳密に言うとママであり子供達でもある訳じゃから、 　一人まほら園と言ったところか……　賑やかそうでいいな。 　今まで何百年もあんな否定の地で暮らしてて 　寂しくないかと思ったが、そうでもなかったと思ってもええのか？」

▲	鈴の転がるような笑い声。造花のような貌。 　それに翻る言の葉や激情は、遂に無かった。 　それでも声は届いている。座標は届き続けている。

	そうだ。分かっている。 　きっときっと、よく分かっている。 　なのに『もう要らない』と宣言したのは、そうだ。 　打ち明けたに、他ならない。 　──あの幻想に寄り添い続ける、 　おろかな道化の姿を。

	トキ 「……ああ、分かっているさ。 　だからこその、このザマだ。 　嗤うがいい。それとも貴様は、受け容れるのか。 　諂うような笑顔で、 　隙間に満遍なく染み込む泥のような態度で」 トキ 「……構わない、構わない。 　いつかすべてを引っ括めて、 　この爪で、この牙で、一切を斬り棄てる」 「……その時に、漸くボクは」 　……あなたの座標は。 　拒否設定されることなく、送信され続けている。

▲	空 「……こんなこと言われたって、関係ない上に迷惑だってことは分かっているのだけど。 あなたを見てると、どことなく弟のことを思い出すのよ。 私が今まさに、この場やあの街で探している──和装の少年を」

	どこかバツが悪そうに苦笑する。 「まぁつまり、何となく面影があるあなたと話すことで……私の記憶戻ったりしないかな。 みたいな藁にも縋る想いってことなんだけど。 にしても、あなた人外の類だったの……。 不思議な雰囲気こそあるけど、見た目は全然そう見えないのだけどね」

	苦笑はやがて、自嘲を帯びたような笑みへと変わり。 「こういうのも、ある種の『神頼み』って言うのかしら。 それで、えぇと……あなたのことは、何て呼べば？ 化け物とか神様って呼ぶのはしっくり来ないし……何か、便宜上の名前でもあるなら」 口調も探り探りといった様子で、どことなくぎこちなさを感じ取れるかもしれない。

▲	語られる言の葉が意味する事柄に、はたりと何度か瞬く。 小さく口にしたのは。

	命 「…………世界って、」

	命 「……勝手なんですね」

	それだけだ。 すぐに笑って、あなたの問いに答えるために唇を動かした。

	命 「そんなにたくさんおれのことを知りたいって思ってくれるのは、嬉しいです。 　そうですね、えっと、はっきり答えられることから順番になりますけれど……」

	命 「──母さんは、事故で亡くなりました。 　交通事故で、父さんと一緒に。だから居ません」

	命 「おれだけが生き残りました。 　それで、どう思って生きているかは……いつもはっきりとしています。 　……二人が生きた証を、注いだ愛を。 　無くしたくないと思って生きている」

	命 「それで最後、おれでもよく分かってないのは先生のこと。 　父親ではないです。 　……親を亡くしたおれを、あの人は急に引き取った。 　おれも不思議にはずっと、思っていて」

	命 「……そろそろ、はっきりさせるべきなのかも……」

	命 「……すみません、こちらの話。 　ふふ、こうして話してみると、おれって意外と何も言えてないんだな。 　気になること、まだありますか？」

▲	「……花の精だけに天然だなこりゃ。まあ互いに顔が見えた方が良いとは思うがな。個々の事情ってヤツだ」 これは話が永遠にループしかねない。項垂れては文字を打ち込む。そのうち注意する気もなくなりそうな予感を覚えつつ。

	「妻も似たようなことを言っていたな。『貴方に似てほしい』って。互いにそう思える相手だからこそ夫婦となれたのかもな」 言ってから自分の頭をクシャクシャと撫でまわした。この送信履歴は後で消さねばなどと独り呟き。 「……樹木、いや木の精か、そこに番という概念はあるのか？植物は受粉して実をつけ種となる、というのが一般的だが。どの個体が人気なのか、なんて話があれば面白そうだ」

	「間違って枯らしました、という訳にはいかないからな。出来れば水が多い少ないだの暑い寒いだのを意思表示してもらえると助かる」 「壺の中の骨では声を拾うにもさぞ苦労しそうだ。お迎えが来るなら嬉しいものだが。何せ死神よりは優しいだろうからな。しかし、桜の樹の精の言う"ともだち"については詳しく聞かせて貰いたいものだな？」

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誘う夢見草 ENo.147 ヨシノ

ハザマに生きるもの 陸鮎

誘う夢見草 ENo.147 ヨシノ

TeamNo.116 ENo.116 『柊葉名』

カミセイ区 B-19：ゆ～ぱらだいす

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15人の声が響いています。

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112

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対戦相手が見つけられなかった！

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TeamNo.1713 ENo.1713 -

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134

552

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立ちはだかるもの 狐面の男 狐面の女

265

313