神の存在を信じたことはない。その存在を気にかけたこともない。
だって本当に居るのだとしたら、彼等はとっくに救われているはずで、救済者など求める筈もない。
彼等が救われていたのなら、俺たちなんて価値もなく必要とされなかった。
だから、この世に神など居ないのだ。
この世にはただ、尽きぬ強欲と狂気が蔓延っている。
XV. 水底の記憶
物を知らない赤子に等しいこどもにも、生きている限り生理的欲求というものは存在する。
空腹となれば食事を求め、喉が乾けば水分を欲し、身体機能を維持するため睡眠という休息を取る。
寧ろ無知であればある程に、湧き上がる欲求には従順に従うだろう。
赤子は些細な事でよく泣き喚き、欲しいものが手に入らない子供が癇癪を起すことは珍しくもない。
それが彼等には都合が良かった。
苦しみを感じれば取り除くために行動を起こせること。
痛みを与えられれば死にたくないと本能的に望むこと。
最初に彼等が求めていたのは、たったそれだけ。
だからうまれてはじめて感じたのは恐怖だったと思うし、あの十年の間にそれを消すことだけは時間がかかった。
でも最終的にはそんなものが無くとも応えることができてしまったから、多分どこかおかしくなってしまった。
幾つのときから彼等に手を引かれていたのかは知らないけれど、壊れてしまうには十分すぎる年月だった。
歳を重ねる程、朧気に曖昧になる記憶の中で。
今でもずっと、覚えていることは。
■を■められると苦しいことと。
■が■■を裂いて■■を貫けば痛かったことと。
すぐ傍でこちらを見つめる濡れた瞳と。
部屋の外から自分たちに注がれる数多の視線と。
与えられるありとあらゆる■の■■と。
あとは、
彼等が 何度も 口にしていた
" 我等の悲願はひとつだけ
この手に神を 我等の神を
理想郷へと 導く神を "
そんなものが免罪符になり得るわけがないのだと。
気が付いたとして、掌から零れ落ちたものは二度と還らない。
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『ねえ、斎、"わるいこと" だけは絶対しちゃだめだよ』 |
──ごめんなさい、
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『君はどうか、思いやりのある、やさしい子に育ってね』 |
──ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ
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「かわいそうな人」 |
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「あの女が間違えたから」 |
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「偽り続けるしかないんだわ、あなた」 |
だって
いたいのも くるしいのも いやだった
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「──体調は」
ぼんやりと遠くに追いやっていた思考を、投げかけられた言葉でこちら側に引き戻す。
ああ、答えなければ。彼に無為に時間を使わせてはいけない。
「…………変わりません」
片側の視界が暗闇に閉ざされているのは数年前から同じ。けれどそれ以上はまだない。
彼は返事もせずに空になったシートを黒い箱に収めた。
「子供の様子は」
「……変わりません」
ちょっとしたことであの子がすぐに風邪を引くのも数年前から同じ。けれどそれ以上もまだない。
彼は返事もせずに黒い箱を鞄の中へと収めた。
「他に変わったことは」
他。
頭の中で繰り返す。他といってしまえばここ最近、変わったことばかりしかない。
環境も、心境も、生き方も、何もかも。
けれどそれを目の前の彼に伝えたところで何になるだろう。
呆れられる? 怒られる? 咎められる? 多分、どれも当て嵌まらない。
好きの反対は嫌いなどではなく無関心とはよく言ったものだ。だって正しくその通りなのだから。
ここにあるものは好意などとは程遠い。
「……ありません」
それでも伝わって不都合があると認識されてしまっては面倒だから、全て伏せてしまう。
虚言を吐くのには慣れている。心まで読み取られなければわからない筈だろうと。
「なら、次は二か月後に、何かあれば連絡を」
吐き出された言葉は淡々と事務的に紡がれ、それ以上の色は一切見えない。
ずっとそう。初めて会った日も、あの人が居なくなった日も、今に至るまで、そして恐らくこれからも。
仕方がないのだろう。恨まれてもおかしくはないのに責め立てられないだけ、まだ。
それでもいっそ詰ってお前のせいだと怒ってくれたら、少しは、と。
思考を止める。願ったところで何も向けられないなら、考えない方がずっといい。
「──はい、先生」
一度も父と呼んだことのないその人と視線が交わることは、今日も無かった。
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彼が玄関扉を閉めてすぐに、トイレへと駆け込む。
指を口の中に突っ込んで、舌の奥を無理矢理に刺激した。
胸を覆う不快感、喉が灼ける感覚、胃液の酸味。
単純な嘔吐反射。
便利なものだなと頭の隅で考えながら、胃の中の物を全て吐き出してしまえばおしまい。
先程飲み込んだばかりのカプセルは、まだ外郭を残したまま水面に浮いている。
こんなこと、今まで考えもしなかったけれど。
" ──勝手に終わらせちゃ、だめだよ "
取るべき掌はあなたたちのものではなく、何よりも守るべきなのはたった一人との約束。
そのためならば欺くことに躊躇はない。
後は、そう。
それが壊れていることを、決して忘れないように。

[852 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[422 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[483 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[161 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[354 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[251 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[182 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[118 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[44 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[111 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
―― Cross+Roseに映し出される。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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エディアン 「・・・・・・・・・うわぁ。」 |
Cross+Rose越しにどこかの様子を見ているエディアン。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
ノウレット
ショートの金髪に橙色の瞳の少女。
ボクシンググローブを付け、カンガルー風の仮装をしている。やたらと動き、やたらと騒ぐ。
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ノウレット 「こんちゃーっすエディアンさん!お元気っすかー??」 |
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白南海 「・・・・・・チッ」 |
元気よくチャットに入り込むノウレットと、少し機嫌の悪そうな白南海。
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エディアン 「あ、えっと、どうしました?・・・突然。」 |
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白南海 「ん、取り込み中だったか。」 |
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エディアン 「いえいえいえいえいえー!!なーんでもないでーす!!!!」 |
見ていた何かをサッと消す。
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エディアン 「・・・・・それで、何の用です?」 |
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白南海 「ん・・・・・ぁー・・・・・クソ妖精がな・・・」 |
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ノウレット 「コイツがワカワカドコドコうるせぇんでワカなんていませんって教えたんすわ!」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・何かノウレットちゃん、様子おかしくないです?」 |
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白南海 「ちょいちょい話してたら・・・・・・何かこうなった。」 |
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エディアン 「え・・・・・口調を覚えたりしちゃうんですかこの子。てゆか、ちょいちょい話してたんですか。」 |
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ノウレット 「問い合わせ含め58回ってところっすね!!!!」 |
ノウレットにゲンコツする白南海。
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ノウレット 「ひいぅ!!」 |
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白南海 「いやそこはいいとしてだ・・・・・若がいねぇーっつーんだよこのクソ妖精がよぉ。」 |
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エディアン 「そんなこと、名前で検索すればわかるんじゃ?」 |
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白南海 「検索・・・・・そういうのあんのかやっぱ。教えてくれ。」 |
検索方法をエディアンに教わり、若を検索してみる。
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白南海 「――やっぱいねぇのかよ!」 |
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ノウレット 「ほらー!!言ったとおりじゃねーっすかー!!!!」 |
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白南海 「だぁーまぁー・・・れ。」 |
ノウレットにゲンコツ。
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ノウレット 「ひいぅぅ!!・・・・・また、なぐられた・・・・・うぅ・・・」 |
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エディアン 「システムだからっていじめないでくださいよぉ、かわいそうでしょ!!」 |
ノウレットの頭を優しく撫でるエディアン。
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エディアン 「ノウレットちゃんに聞いたんなら、結果はそりゃ一緒でしょうねぇ。 そもそも我々からの連絡を受けた者しかハザマには呼ばれないわけですし。」 |
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白南海 「・・・・・ぇ、そうなん・・・?」 |
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エディアン 「忘れたんです?貴方よくそれで案内役なんて・・・・・」 |
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エディアン 「あー、あと名前で引っ掛からないんなら、若さんアンジニティって可能性も?」 |
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エディアン 「そしたらこちらのお仲間ですねぇ!ザンネーン!!」 |
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白南海 「・・・・・ふざけたこと言ってんじゃねーぞ。」 |
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白南海 「まぁいねぇのは寂しいっすけどイバラシティで楽しくやってるってことっすねー!! それはそれで若が幸せってなもんで私も幸せってなもんで!」 |
こっそりと、Cross+Rose越しに再びどこかの様子を見るエディアン。
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エディアン 「さてあいつめ・・・・・どうしたものか。」 |
チャットが閉じられる――