
生活費のような表の金はまっとうに稼ぐようにしていた。裏では割とぎりぎりだ。
俺の所属する半グレ集団の上納金の他、詐欺師にも社会があり専門の道具屋や情報屋に協力してもらうための依頼料を捻出する必要があった。結局時々闇金に金を借りる程度にはギリギリだったのだが、なんとか返済日には返せていた。幸い利息含め返済額をちょろまかされることのない借入先だったので、俺は2、3度飛ぶことはあっても最後には返済する優良客として利用し続けていた。
俺の生活はもうまともとは言い難いものになっていた。であれば、まともでないなりに生きなければならない。
柄の悪い輩に絡まれることも少し増えたし、俺は裏稼業に手を出してからは莉稲の前から消えようと思っていた。彼女の傍に居ていい人間ではないし、このまま縁が薄れていけば互いに忘れられるだろう。
と、思うのは簡単だったのだが予定は狂うもので。街中で偶然彼女と目が合った。神は相当俺に試練を与える気らしい。
足の悪い彼女を置いて逃げることは容易だ。しかし足の悪い彼女に俺を追う労力を負わせることは、俺にとって容認し難いことだった。
覚悟の甘い俺らしい、馬鹿げた予定の狂い方。
「久しぶり、わーくん。どこに行くの」
「バイト。じゃな」
「待ってよ〜。久々なのに。急ぐの?」
「おう」
莉稲は朗らかに話しかける。一生懸命こちらを目指して歩く様が子犬みたいだった。
できるだけ素っ気なく、彼女のことを突き放そうとした。けど離れる度に彼女が俺の後を追ってしまう。なんとか、彼女から帰ってはくれないものか。
「何だよ」
「ちょっとだけ、お話できない?」
ここで拒否できなかったのが俺の敗因だ。
場所を街道沿いのベンチに移して、俺たちは横並びに座って話し始めた。街路樹の陰になったベンチから特に興味も目的もなく往来を一望する。
「わーくん、最近<ZOO>来なくなったから寂しいな」
「もうガキじゃねンだ」
「わたしはオトナコドモもいいと思うけどな」
「バイトも忙しいし」
「わーくん、バイト頑張ってるんだねえ。いつの間にか怪我してたりするし心配だよ」
ここで莉稲は一度、声のトーンを落とした。
「それは、お前には関係ないだろ」
心配なんてすることはない。そう安心させるには心許ない子どもじみた返しをしながら、いつもより少し真面目な莉稲に注意を払う。
「他の子とも会ってないんでしょ」
「そりゃ、<ZOO>に行ってないからな。誰と会おうが俺の勝手だろ」
「どうして一人になろうとするの」
息が詰まる。唐突に飛躍した質問に核心を突かれた気がして、答えることができなかった。行き交う通行人からそろりと視線をずらす。
「え」
横を見ると莉稲は泣いていた。
「莉稲……? どうした」
突然泣き顔を見せられたら、動揺もする。今のどこに泣く要素があった?
突き放す気でいたくせに、理由の見当がつかない上に泣かせた女子への対応もわからないとあって慌てる俺は相当ださいと思う。けれど、なにかが彼女の心を痛めてしまった事実がどうしても後ろ髪を引いた。
「わーくん、急に色んなものから遠ざかるようになって、勝手にどこか行きそうで。心配だよ」
歯痒かった。胸を押し潰される思いがした。
莉稲は、俺が思っているよりずっと俺のことを見ている。こんな男のことなど意に介すことはないのに、俺という存在は彼女に少なからず影響を与えてしまっていた。
揺らぐつもりはなかった。彼女と離れてしまえばそれきりになる。それこそが彼女のためになる。そうする気でいたのだから。
だから、今、こんな彼女を前にすることになってしまっているのがとてつもなく心苦しい。どうして、俺なんかを気にしてしまうのか。
「ンなのは気にし過ぎだ。俺は家出てからもフツーに毎日暮らしてるんだぞ?」
俺はどうにか場を明るくしようと、へらりと笑っておどけるように言った。莉稲は尚もぽろぽろと目から雫を落とす。
「じゃあ、わーくんの家遊びに行く」
「今すぐは駄目だって……俺にだって予定があンだ。心配すんなって、お前も見張れるようなトコに居る。だからもう少しだけ、待ってくれ。連絡先も教えるから。……待てるよな、莉稲」
往来で泣かれるまでされたものだから、振り切れなくて俺はそんな出任せを口にした。こんな自分の墓穴を掘るようなことを、わざわざ。
要は、仕事用の拠点とは別に家を探そうということだ。口に出してしまったことを真に変えるなら。
「待ったら、わーくんのところ遊び行ける?」
「おう、気が済むまで見張ってりゃ良い」
約束だよ、と莉稲が涙を拭った小指を差し出す。事も無げに現れた小指に流石に躊躇したが、この時だけは俺も子どもじみた誓いの立て方に寄り添うことにした。
口にした出任せも、嘘に変えないように。俺は、彼女に見張られて困らぬよう新しい住居を探し始めた。

[852 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[422 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[483 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[161 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[354 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[251 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[182 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[118 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[44 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[111 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
―― Cross+Roseに映し出される。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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エディアン 「・・・・・・・・・うわぁ。」 |
Cross+Rose越しにどこかの様子を見ているエディアン。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
ノウレット
ショートの金髪に橙色の瞳の少女。
ボクシンググローブを付け、カンガルー風の仮装をしている。やたらと動き、やたらと騒ぐ。
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ノウレット 「こんちゃーっすエディアンさん!お元気っすかー??」 |
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白南海 「・・・・・・チッ」 |
元気よくチャットに入り込むノウレットと、少し機嫌の悪そうな白南海。
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エディアン 「あ、えっと、どうしました?・・・突然。」 |
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白南海 「ん、取り込み中だったか。」 |
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エディアン 「いえいえいえいえいえー!!なーんでもないでーす!!!!」 |
見ていた何かをサッと消す。
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エディアン 「・・・・・それで、何の用です?」 |
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白南海 「ん・・・・・ぁー・・・・・クソ妖精がな・・・」 |
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ノウレット 「コイツがワカワカドコドコうるせぇんでワカなんていませんって教えたんすわ!」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・何かノウレットちゃん、様子おかしくないです?」 |
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白南海 「ちょいちょい話してたら・・・・・・何かこうなった。」 |
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エディアン 「え・・・・・口調を覚えたりしちゃうんですかこの子。てゆか、ちょいちょい話してたんですか。」 |
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ノウレット 「問い合わせ含め58回ってところっすね!!!!」 |
ノウレットにゲンコツする白南海。
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ノウレット 「ひいぅ!!」 |
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白南海 「いやそこはいいとしてだ・・・・・若がいねぇーっつーんだよこのクソ妖精がよぉ。」 |
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エディアン 「そんなこと、名前で検索すればわかるんじゃ?」 |
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白南海 「検索・・・・・そういうのあんのかやっぱ。教えてくれ。」 |
検索方法をエディアンに教わり、若を検索してみる。
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白南海 「――やっぱいねぇのかよ!」 |
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ノウレット 「ほらー!!言ったとおりじゃねーっすかー!!!!」 |
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白南海 「だぁーまぁー・・・れ。」 |
ノウレットにゲンコツ。
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ノウレット 「ひいぅぅ!!・・・・・また、なぐられた・・・・・うぅ・・・」 |
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エディアン 「システムだからっていじめないでくださいよぉ、かわいそうでしょ!!」 |
ノウレットの頭を優しく撫でるエディアン。
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エディアン 「ノウレットちゃんに聞いたんなら、結果はそりゃ一緒でしょうねぇ。 そもそも我々からの連絡を受けた者しかハザマには呼ばれないわけですし。」 |
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白南海 「・・・・・ぇ、そうなん・・・?」 |
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エディアン 「忘れたんです?貴方よくそれで案内役なんて・・・・・」 |
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エディアン 「あー、あと名前で引っ掛からないんなら、若さんアンジニティって可能性も?」 |
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エディアン 「そしたらこちらのお仲間ですねぇ!ザンネーン!!」 |
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白南海 「・・・・・ふざけたこと言ってんじゃねーぞ。」 |
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白南海 「まぁいねぇのは寂しいっすけどイバラシティで楽しくやってるってことっすねー!! それはそれで若が幸せってなもんで私も幸せってなもんで!」 |
こっそりと、Cross+Rose越しに再びどこかの様子を見るエディアン。
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エディアン 「さてあいつめ・・・・・どうしたものか。」 |
チャットが閉じられる――