［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

　七月と言えば、世間的には欠かせないイベントがいくつも存在する多重イベント月間として有名である。海を開いてみたり、潮を干狩ってみたり、短冊を吊るしてみたり……指折り数えてみたところ、そこまで多重でもないことに気づく。
　何せ、七月だ。夏本番を目前に、世間が沸き立つのも無理はない──高まる気温は、人の心まで熱するのだろうか。ならば温暖化が進めば世間はさらに熱狂するのか。脱炭素社会の実現は遠い。
　益体もないことを考えているのには理由があった。ふう、とため息を一つ。電子タバコの煙が扇風機の風で散らされるのをぼーっと眺める。

「……夏、か」

　夏だ。
　夏は嫌いだった。まず、暑い。暑いと汗をかく。それに日差しが暑い。日差しに熱されたすべてのものも。炎天下に駐車した車に乗り込む際の死すら予感させる熱気は、風物詩と呼んでありがたがるには度を過ぎているし、熱帯夜ともなればこの上なく寝苦しい。
　果たしてイバラシティの夏はどうだろうか。ここに来て初めての夏なのだから、それなりに有意義に過ごしたいとの思いもある。ならば、有意義とはなんだろうか──イベントを楽しむことだ。
　かくして、彼はずっと考えていた。近所でやっているイベントを調べてはしかめ面をし（暑そうだった）、近所のプールやら海を調べ、夏祭りだの花火だのの開催情報を眺めた結果、楽しい夏の思い出を作るためのイベントに一人で行くのはあまりにも寂しすぎることに気づき、恨めしく扇風機を眺めるに至る。

「参ったな……」

　休日の昼下がりということもあり、外からは学生たちの声がちらほらと聞こえてくる。部活に勉強に忙しいのだろう。思えば、学生の頃は楽しかった──具体的にどうとは思い出せないものの、楽しかったという漠然とした感情が呼び起こされる。劇的な出来事とは違い、なんでもないような日常は、思い出に残るようなものではない。日々の積み重ねは歳と共に陳腐化し、気づけば一年が終わっている無味乾燥とした生活を送る未来にたどり着くことに、彼らは微塵も気づかない。かつての自分もそうだったように。
　とまれ、どうあがこうと学生には戻れない。
　若さを取り戻すこと、若さをとどめることは為政者にとって永遠の命題だったとされる。それを聞いたのは歴史の授業だったはずで、逆説的に為政者たちは全員歴史の中に消えていったのだから、若返りが未だ果たされていないことの何よりの証明となっているのは皮肉だ。
　夏はノスタルジーの季節でもある。理由については諸説あり、夏は祭りや盆など非日常が多いこと[独自研究]が挙げられる。
　彼の考えは違っていた。夏の正体は匂いだ。記憶と結びつくのは視覚でも聴覚でもなく嗅覚であり、乾いた土の匂い、草いきれの匂い、夕立を予感させる砂埃の匂い──記憶を蘇らせるトリガーとして、生命が停滞する冬よりも夏は匂いが多い。だからこそ思い出に残りやすく、否、思い出しやすいのだろう。
　遠くから雷の音が迫ってくる。予報は晴れだが、一雨来るのだろう。窓を閉めて布団に寝転がる。窓から見える夏の空では、青空が入道雲に押しつぶされようとしていた。




「七月ってどうですか？」
「……どう、とは？」

　怪訝そうに眉をひそめながら、上司こと茅芽笹子がコーヒーが啜る。
　夏でもホットを好むのは、体を冷やさないためか。カップから立ち上る湯気越しの目は、こう訴えているように見えた──何を言ってるの？

「その、発言の意図が分からないのだけれど」
「七月じゃないですか。今日って。いや、今日だけが七月ってことじゃなくてですよ」

　時間は変わって、翌日のことである。特に急ぎの仕事もなく、昼食後の穏やかな昼下がりを満喫していた。
　前日降り注いだ夕立の最中、稲妻の如き直感に全身を貫かれ、これは七夕をやるしかないと思い立ち、そのまま雨の中エンジョイ何某まで足を運んで下準備までしてきたのだ。近くで落雷があったとか、暑くて気が狂ったとかではない。いたって冷静かつ情熱的に、説得を試みる。

「七月といえば、七夕じゃないですか」
「ええ。七夕ね。七月だもの」
「やりませんか？　七夕」
「え？」

　困惑をなんとか押しとどめていた顔が、訝しげな表情に染まっていくのが目に見えた。不思議と上司は乗り気ではないようだったが、七夕は人類が持つ普遍的な価値観の結晶だ。天の川は世界各地どこでも神話的伝承を持ち、文化と密接に関わっているのだから、断言してもいい。こういうのは気持ちの問題だ。
　話の全貌を杳としてつかめずにいる上司を前に、窓を指して続ける。都合よく今日は晴天だった。

「見てください。夏の空です。夏の空といえば、なんですか？」
「ええと。入道雲？」
「惜しい！　いや、でもいいですよ。その調子でいきましょう」
「……何となくわかったけれど、どうしてかしら。絶対に言いたくないのよね」
「絶対に言いたくないですか？　分かりました。では僕が言います。天の川です。七夕なので」
「たまに思う時があるのよ。本当にあなたを部下として採用した自分の判断が、本当に正しかったのか……って」

　頬に手を当て、呆れ返ったようにため息をつく。そのやる気をもっと別の方向に生かして欲しいわ、などと聞こえた気もするが、幻聴だろう。夏は人を狂わせる。蝉の声は耳を焼き、太陽が生み出す強烈な陰影は脳を焦がす。
　昨日用意した買い物袋から、ざらざらと中身を取り出す。筆ペンと、いくつかの無地の紙きれ、細いワイヤー。口では否定してみせたものの、上司はデスクの上に陣取ったモニタの横から身を乗り出し、興味ありげに成り行きを眺めていた。遮蔽物に身を隠し、警戒しながら状況を確認する軍人のようでもあるが。

「で、短冊買って来ました。そういうこともあるかなと思いまして」
「笹はどうするの？」
「かさばったのでやめました。裏にまだ門松が置きっぱなしなので、それで代用しましょう」
「季節感って知ってる？」
「だから七夕をやろうとしてるんじゃないですか」

　上司を連れて所在を確認しに向かう。昨年末に縁起物としてホームセンターから運ばれてきた門松は、その後早々に役目を終え、以降大家さんのご厚意により階段下の邪魔にならないスペースにブルーシートをかけたままの状態で鎮座していた。縁起物を勝手に処分する業者もいなければ、盗む者もいないだろうが。計画が頓挫するのを防いだ門松からは、縁起物としての風格を感じた。
　立派な竹が天を衝くそれは、立派なだけあって結構な重量がある。この暑い中を執務室まで運ぶのはぞっとしないので、短冊だけ書いて吊るすことを提案したところ、上司は終始苦笑いだったが──返ってきたのは一言だった。まあ、いいんじゃない？
　理解のある上司に恵まれたことは本当に喜ばしい。ひとまず執務室に戻ると、短冊を広げて筆ペンを構える。
　しばしの黙考。筆ペンを握る手にも力が入る。

「いや、いざ願い事を書くとなると気恥ずかしいですね。だってこれ、笹子さんに見られるじゃないですか。下手なこと書けないですよ」
「同感ね。でももっと早く気づけなかったのかしら」

　と、上司が本日初めて同意する。見れば、筆ペンではなくボールペンを片手に頬杖などつきながら短冊と向き合っていた。どんな願いを書くのか気にならないといえば嘘になるが、願い事を盗み見るのはマナー違反である。
　しょうもないボケを書くような歳でもなければ、切実な望みを書くほど困ってもいない。目下の願いは叶ってしまった。こうして二人で短冊を書いているのだから、これ以上何を望むというのだろう。

「かといって無難な無病息災とかっていうのも、なんか違う気がするんですよ」
「じゃあどうするのよ。折角ここまで御膳立てされたおかげで、ちょっと楽しくなってきたところなのに」
「うーん。願い事……あ、書かずに短冊だけ吊るすってどうですか？」

　意外な盲点だった。短冊を読んだ誰かが願いを叶えてくれるわけでもなし、何も文字に起こす必要はない。門松が共有スペースに置いてある以上、第三者の厳しい目が入ることも予想される。願いは各々が胸にしまっておくほうが美しいだろう。こうやって内部文書は秘匿され、組織は外部への情報開示に及び腰になっていく。

「それ、意味あるのかしら」
「こういうのは気持ちの問題ですよ。どうせ願いが叶うわけじゃないですし」
「……うん。うん？　間違ったことは言ってないだけにたちが悪いわね……」

　何故か頭を抱えている上司を尻目に、無地の短冊を細いワイヤーで括りつけていく。一人一枚というのも寂しいので、景気よく三枚ほど結び付けた。上司から受け取った分も加えると、赤、青、黄色とカラフルな短冊が目にも鮮やかな門松が完成した。何らかの宗教的な意味合いを持ちそうな、そんな姿である。

「これでよし、と。いいですね。かなり様に……なってる」
「そうね。竹に短冊を吊るした、という意味ではかなり七夕なんじゃないかしら」

　妥協案としては十分だろう。竹と短冊があれば、それなりに七夕を感じるオブジェクトに見えるものだ。土台に据えられた「寿」扇子は取り外しておいたので、ぬかりはない。竹が太くてワイヤーを不格好に巻き付けることになっている時点で、既にぬかっていると言えるかもしれないが。

「ちなみに、三枚のうち一枚は『大願成就』と書こうとしてました。あとの二枚は秘密です」
「あら、ずるいわよ。私を聞きっぱなしにさせるつもり？」
「え、いやそんなつもりは──」
「『これからも楽しい日々が続きますように』。まあ、似たようなものかしら」

　思わず目が合い、更にドキリとさせられる。
　不意に、こちらの弁明を遮るようにして。言葉一つ、タイミング一つで場の支配権を奪ってみせた。心掌握術に長けているとは言いづらいような気がしてならない上司だが、時折見せる一面はこの上なく強烈だ。
　動揺を悟られぬよう、そっと目線を上司から逸らしながら、

「これで一つやりたいことが終わりました。僕がやりたいことに付き合ってもらっちゃったので、今度は僕が笹子さんに付き合いますよ。何かありますか？　夏にやりたいこと」
「うーん……特に何も……」
「決まったらでいいので遠慮なく言ってくださいね。山はともかく、海でも星でも花火でも、僕が力になりますよ」

　正直なところ、海は嫌だったが。
　それでも、彼女が望めば、自分はそれを手伝うことになる。自らそれを望んでいるのだから。

　夏は嫌いだった。
　それでも、今年の夏は好きになれそうだ──いつになく、楽しい夏になりそうな予感。
　直感が、そう囁いていた。

ENo.831 Dr.笹子 とのやりとり

ItemNo.29 何か固い物体 を破棄しました。

ItemNo.14 雨後めく筍 を食べました！
　体調が 1 回復！（13⇒14）
　今回の全戦闘において 貫撃13 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

フィーコちゃん(132) から 40 PS 受け取りました。

Dr.笹子(831) に ItemNo.21 エナジー棒 を送付しました。

武術LV を 5 DOWN。（LV25⇒20、+5CP、-5FP）
百薬LV を 5 DOWN。（LV5⇒0、+5CP、-5FP）

変化LV を 15 UP！（LV0⇒15、-15CP）
合成LV を 5 UP！（LV25⇒30、-5CP）

フィーコちゃん(132) の持つ ItemNo.6 新緑の指輪 に ItemNo.17 浮草 を付加しました！

ヒメ(1050) とカードを交換しました！

すねこすりけだま （アディクティブチューン）


ボンバルディエ を研究しました！（深度0⇒1）
ミゼラブルメモリー を研究しました！（深度0⇒1）
デスブロウ を研究しました！（深度0⇒1）

カームソング を習得！
ディベスト を習得！
ガーディアンフォーム を習得！
リワインド を習得！
ディライト を習得！
上書き付加 を習得！
アブソーブ を習得！
血気 を習得！
インデュース を習得！
チキンハート を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

偽黒初(77) は 人形 を入手！
Dr.笹子(831) は ビニール袋 を入手！
偽黒初(77) は 何かの骨 を入手！
Dr.笹子(831) は 紅小石 を入手！

現在のパーティから離脱しました！

リュウジン区 B-3（草原）に移動！（体調14⇒13）
リュウジン区 C-3（草原）に移動！（体調13⇒12）
リュウジン区 D-3（道路）に移動！（体調12⇒11）
リュウジン区 D-4（沼地）に移動！（体調11⇒10）
リュウジン区 D-5（沼地）に移動！（体調10⇒9）

Dr.笹子(831) をパーティに勧誘しました！
麺屋の龍人(1595) をパーティに勧誘しました！
MISSION!!
リュウジン区 D-3：昇竜レジデンス が発生！
　　 - 偽黒初(77) が経由した リュウジン区 D-3：昇竜レジデンス
　　 - Dr.笹子(831) が経由した リュウジン区 D-3：昇竜レジデンス
　　 - 麺屋の龍人(1595) が経由した リュウジン区 D-3：昇竜レジデンス

［845 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［409 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［460 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［150 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［311 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［202 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［149 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［68 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　




　





不機嫌そうな表情。

　











首を傾げる白南海。

　





ポケットから黒いハンカチを取り出す。

それを手で握り、すぐ手を開く。

　

すると、ハンカチが可愛い黒兎の人形に変わっている。

　









眼鏡をクイッと少し押し上げる。






咄嗟に腕を組み、身構える。

　







そう言ってチャットから抜けるエディアン。

　




　

チャットが閉じられる――

聳え立つ巨大マンション、昇竜レジデンス。

　

その姿はハザマでも健在で、それを見上げると――

　




上空からふたつの巨体が迫り来る！




（初発生のイベント戦：異能FP+5！生産FP+5！）