
「熱、落ち着いたな」
「うん。体はまだビミョーにダルいところがあるけど、でもずっと楽だよ」
隣に座るウィルヘルムへと、言って笑うクリスは体温計を差し出した。確認した液晶の盤面には『36.9』の数字が覗く。元々の体温が少し低めなこの子供からすると微熱がほんのり残っている、という具合だろうか。それでも、一ヶ月以上悩まされていた高熱を思えばかなりの改善とはいえた。
体がダルいというのは、ずっと寝たり起きたりを繰り返した関係で体力が落ちているせいかもしれない。ウィルヘルムはよしよしと自分を見上げてくる子供の頭を無でた後で優しく声をかけた。
「週明けから、学校、行ってみるか? 高校生にはなってる訳だし」
「いいの……?」
「良いさ。一応、学校側に相談もしてみるよ。調子が悪くなったら直ぐに帰れる様に……とかな。俺が居なくても、少なくともイマさんが居てくれるから帰ってきても締め出されたりはしないだろうし」
「やった! 高校って、どんな感じなのかな……」
「中等部とそう変わらないだろうさ。まあ、校舎の中で通う部屋が変わってたり、勉強の中身が難しくなってるのはありそうだが」
「べ、勉強、ついてけるかな……」
「俺も家での予習復習とかを多少は手伝うよ。でもまぁ、まずは行ってみないとな」
「うん」
既に四月時点で高等部への進級そのものは出来ていたクリスだったが、自宅で寝込んでいる期間は随分と長かった。何せ、中等部の卒業式にも出られなかったぐらいである。その辺りは当人も随分と気にしていて、出てみたかったなぁと床の中でよくぼやいていたものだった。
そんな感じなので、もちろん入学式も参加は出来ていない。データや立場の上では確かに既にクリスは高校生ではあるのだが、実感がわかないのはクリスだけでなくウィルヘルムとしても同じではあった。
ふとカレンダーを見る。年末から調子を崩していた事を思えば、もう半年以上が経過している事に今更気付く。時の流れが早いのか、それとも忙しかったり精神的な余裕がなかったことがそう感じさせるのかはわからないが、それでももう夏なのかとウィルヘルムは思わず瞠目した。
この土地の夏は暑い。元々暮らしていた所が深く暗くそしてひんやりとした冷気の満ちた森であったからか、クリスは滅法暑さにには弱かった。このイバラシティの初めての夏も、体調を崩して寝込んでいたのもあって、本格的に夏の街に繰り出すのは今回が初という事になる。
大丈夫だろうか、と思わず考え込んでしまうウィルヘルムの指をクリスが引っ張った。
「みけんにシワ、だよ。ウィル」
「うっ」
「また難しいこと考えてる? それとも……心配かけてる?」
ちょっと責めるような、それでもどこか申し訳無さそうな顔でクリスが見上げてくる。思わず適当に誤魔化そうかとも思ったが、見つめてくる視線は強い。こういう時のクリスは、確実に嘘を見抜く。下手に誤魔化せば暫く拗ねて話しかけても反応してくれなかったりするのは経験則でよくよく知っていたウィルヘルムは、降参だとばかりに手を挙げて苦笑を返した。
「どっちも、だな。今年の夏も暑くなりそうだから、さ。暑いのが苦手なお前は大丈夫だろうか……と」
「あー……」
自覚があるのか気まずそうに視線がそらされる。
「だ、大丈夫だよ……クーラーとかあるし、この世界。便利だもん」
「でも夏場のアスファルトは照り返しもあるから暑いぞ? 土やタイルの地面とはまた違う感じで」
「うー……ちょっと心配になってきちゃったじゃん……」
「すまんすまん」
まぁ、とウィルヘルムは続けた。
「お前が通学する熾盛天晴学園まで、外を歩く距離そのものは少ないからその辺りは何とかなるかな……とも思ってるよ。この店からリュウジン駅まで行ってしまえば、カスミ駅までは電車だし向こうの駅から学校までバスも通ってるわけだからな」
「また定期買っとかなくちゃだね」
「電車とバスの分は用意しておいてやるよ。とりあえず、週明けまで安静に……だな」
「熱が出たら延期……?」
「そうだな……今ぐらいなら良いが、さすがに37度超えしたらちょっと様子見になると思う。周りも心配するしな」
「じゃあ、ちゃんと寝なくちゃ」
「そういう事だ」
布団の側に用意しておいた卓袱台の上の水差しからコップに水を注ぎつつ、ウィルヘルムは頷いた。クリスへとコップを差し出せば、何も言わずとも受け取ってぐいと飲み干す。前はこの程度の事すらも気怠げにちびちびと飲んでいたのだから、改善してきているのは確かだった。
空になったコップを卓袱台に置いて、クリスはまた布団の中へと戻っていく。布団脇に置いてあった丸っこい金竜のぬいぐるみを抱き枕に、大きく息をつく様子を見守ったウィルヘルムは、クリスの頭を軽く撫でた。
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ。ウィル」
そんなやり取りを最後に、静かにウィルヘルムは部屋を退出しようとして立ち止まった。
肩越しに振り返る先には、不思議そうな顔をしたクリスの眼差しがある。
「そういえば、前から聞こうと思って忘れてたんだが」
「? 何を?」
「いや……お前の、さ。正式な名前を、俺は知らないなと思って」
既に一緒に行動するようになって数年以上の月日が経っている。しかし、ウィルヘルムは前々から、ヴィーズィーやクリスの本来の名前を知らなかった。勿論、彼らが偽名で活動しているというのを知った上での話である。
まぁ別段必要がない上に、普段呼ぶ名前がありさえすれば問題はないという思考から、聞いたことのなかった問いでもある。実際、今後も知る必要は本当なら無いのだろう。
それでも、ふと、思い出したのだ。
あの工房で何故協力してくれるのかと問うた時に言われた、クライカリオスの言葉を。
『帰って、その子供に「名前」を聞いてみな。……そうすりゃ判るさ』
アレは一体、どういう意味だったのだろうか。そんな想いから投げた言葉に対して、クリスはと言えば、驚いたように目を丸くしていた様だった。何度か瞬けば、おずおずと口を開く。
「何で……?」
まあ、訝るのも当然だろうとウィルヘルムは苦笑を返す。
「深い意味じゃないんだ。ただ、今までの旅をふと思い出して……何となく、ずっと聞きそびれてたなと思っただけなんだよ。お前が言いたくないなら、別に今の質問は忘れてくれていい」
「そっか」
曖昧な笑みを浮かべて、クリスはポツリと呟く。
「…………リオス」
「ん?」
よく聞こえなかったのでウィルヘルムが聞き返せば、何だか気恥ずかしげに瞼を伏せるクリス。
「クライカリオス、だよ。ボクの、名前。……クライカリオス・D・ユルング」
聞こえた名前は、ウィルヘルムにとってあまりにも想定外のものであった。

[842 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[382 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[420 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[127 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[233 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[43 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[27 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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白南海 「・・・・・おや、どうしました?まだ恐怖心が拭えねぇんすか?」 |
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エディアン 「・・・何を澄ました顔で。窓に勧誘したの、貴方ですよね。」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!! 俺これ嫌っすよぉぉ!!最初は世界を救うカッケー役割とか思ってたっすけどッ!!」 |
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エディアン 「わかわかわかわか・・・・・何を今更なっさけない。 そんなにワカが恋しいんです?そんなに頼もしいんです?」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。
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白南海 「それはもう!若はとんでもねぇ器の持ち主でねぇッ!!」 |
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エディアン 「突然元気になった・・・・・」 |
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白南海 「俺が頼んだラーメンに若は、若のチャーシューメンのチャーシューを1枚分けてくれたんすよッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・。・・・・他には?」 |
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白南海 「俺が501円のを1000円で買おうとしたとき、そっと1円足してくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・あとは?」 |
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白南海 「俺が車道側歩いてたら、そっと車道側と代わってくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・うーん。他の、あります?」 |
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白南海 「俺がアイスをシングルかダブルかで悩ん――」 |
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エディアン 「――あー、もういいです。いいでーす。」 |
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白南海 「・・・お分かりいただけましたか?若の素晴らしさ。」 |
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エディアン 「えぇぇーとってもーーー。」 |
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白南海 「いやー若の話をすると気分が良くなりますァ!」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!!!!!!」 |
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エディアン 「・・・あーうるさい。帰りますよ?帰りますからねー。」 |
チャットが閉じられる――