
「……それで、私に話とは」
青斑巳波はじとりと訪問者に視線を向けた。
機嫌が悪くなくても目つきが悪いと言われるのは昔からだが、今日は一層眉間の皺が深くなっていた。
対する訪問者――黒峰総研製薬部門の営業と名乗る男は、掴みどころのない笑みを巳波に向けている。
大曲 晴人
黒峰総研製薬部門営業部。社畜。
異能:"未観測運命理論・不在の黒猫"
(シュレーディンガー・ブラックキャット)。
「はい。わたくしどもの製薬部では日々新商品の開発に勤しんでおりまして、青斑の方々に是非ご協力をお願いしたく参上した次第でございます」
青斑に、と聞いて巳波はぴくりと眉を上げた。ろくな話ではない予感がしたのだ。
「……私個人ではなく、青斑家に?」
眉間に寄った皺で凶悪な人相になりつつある巳波を気にする風もなく、男はにこやかに話を続ける。
「ええ。聞くところによると、青斑家では膨大な毒物のサンプルを管理しているとか。中には滅多に手に入らないような珍しいものもお持ちだそうで。単刀直入に申し上げますと、わたくしどもの開発チームにサンプルを提供していただきたいのです」
「……うちに何のメリットが?」
「共同開発ということにさせて頂ければ、完成した商品の権利はお互いが持つことになります。開発費は折半……いえ、わたくしどもが七割負担致しましょう。ああ、情報漏洩などのご心配でしたら、わたくしどもの社員は教育が行き届いておりますのでご安心ください」
貼り付けたような薄笑いでなめらかに語られる言葉。立て板に水を流すような語り口には、一方で横槍を入れる隙を与えない意図を感じる。
「それで、何を作るつもりなんだ? 解毒薬か?
滅多に症例のないような毒の解毒薬なんぞ、作ったところで売れないだろう」
男の言う『サンプル』がどれを差しているのか知らないが、珍しいものと言えば希少な動植物から採取したものになるだろうか。当然、そんな毒にやられる事例は極端に少ない。
巳波の指摘に、しかし男は笑みを崩さないまま肩を竦めた。
「いえいえ。おっしゃる通り、珍しい毒の解毒薬はニーズが限られています。ですが……"あらゆるものは毒である"と言いますし、毒を薬として用いることもあるでしょう。あなた方がお持ちの中にも、使いようによっては有益となるものがあるかもしれません……なんて、あなた方には釈迦に説法でしたね。
ともかく、わたくしどもはそういった"未開拓の可能性"を探しているのですよ」
そう言って話を締めくくり、こちらの反応を待つ様子の男を一瞥して、巳波は静かに息を吐いた。
なるほど、とひとつ頷く。
「君らの方針は理解した。だが、青斑は協力しない」
荒唐無稽な話だと思ったからではない。
青斑の長として、相手が信用できるかどうかは慎重に見極めなくてはならない。万が一提供したものが悪用されれば、青斑家にも調査が入るだろう。掘り返されたくないものは、まあいくつかある。
「…………」
男の目がすっと細くなる。
「そうですか。誠に残念ですが、あなたがそう仰るなら引き下がるしかありません。次の機会がありましたら、もっといい条件をご用意させていただきますので是非ご検討ください」
やけにあっさりと手を引く。何故断ったのか確認もしないのか、とも思ったが。
これ以上の面倒事を抱えるのはごめんだし、特に引き留める理由もない。
「それでは、失礼致します」
男が文句のつけようのない所作で一礼して出ていくのを見やる。
どうしてかその後ろ姿に言い知れぬ不安を覚えて、巳波はまた眉間を揉んだ。
今日は、どうやら厄日だ。
***
「……ええ、ええ、予想通りの反応でした。まあ、快諾されても困りますが」
失敗に終わった商談の後、大曲晴人は病院前のベンチから上司に連絡を入れていた。
「ともかくこれで筋は通しましたので、後は予定通り。ええ、心得ております」
やり取りというほどのこともない。予定がその通りに進んでいるというだけの報告をして、通話を切る。スーツに皺が寄っていないことを軽く確認して、男は立ち上がった。
「……ま、飼い主がダメなら直接サンプルの方に"お願い"するしかないわよね」
薄い唇を弧の形に引き上げて、病院の隣の敷地に目をやる。
広大な土地に点在する大学関連施設のひとつ、第二学群棟。
「さて、お仕事お仕事」
そう愉しげに呟いて。
行き交う人々の視線の死角、建物の柱の陰に入った瞬間。
その姿は忽然と掻き消えた。
→http://lisge.com/ib/talk.php?dt_p=5227&dt_s=0&dt_sno=22345023&dt_jn=1&dt_kz=12

[822 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[375 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[396 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[117 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[185 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
アンドリュウ
紫の瞳、金髪ドレッドヘア。
体格の良い気さくなお兄さん。
料理好き、エプロン姿が何か似合っている。
ロジエッタ
水色の瞳、菫色の長髪。
大人しそうな小さな女の子。
黒いドレスを身につけ、男の子の人形を大事そうに抱えている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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アンドリュウ 「ヘーイ!皆さんオゲンキですかー!!」 |
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ロジエッタ 「チャット・・・・・できた。・・・ん、あれ・・・?」 |
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エディアン 「あらあら賑やかですねぇ!!」 |
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白南海 「・・・ンだこりゃ。既に退室してぇんだが、おい。」 |
チャット画面に映る、4人の姿。
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ロジエッタ 「ぁ・・・ぅ・・・・・初めまして。」 |
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アンドリュウ 「はーじめまして!!アンドウリュウいいまーすっ!!」 |
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エディアン 「はーじめまして!エディアンカーグいいまーすっ!!」 |
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白南海 「ロストのおふたりですか。いきなり何用です?」 |
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アンドリュウ 「用・・・用・・・・・そうですねー・・・」 |
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アンドリュウ 「・・・特にないでーす!!」 |
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ロジエッタ 「私も別に・・・・・ ・・・ ・・・暇だったから。」 |
少しの間、無音となる。
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エディアン 「えぇえぇ!暇ですよねー!!いいんですよーそれでー。」 |
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ロジエッタ 「・・・・・なんか、いい匂いする。」 |
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エディアン 「ん・・・?そういえばほんのりと甘い香りがしますねぇ。」 |
くんくんと匂いを嗅ぐふたり。
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アンドリュウ 「それはわたくしでございますなぁ! さっきまで少しCookingしていたのです!」 |
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エディアン 「・・・!!もしかして甘いものですかーっ!!?」 |
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アンドリュウ 「Yes!ほおぼねとろけるスイーツ!!」 |
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ロジエッタ 「貴方が・・・?美味しく作れるのかしら。」 |
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アンドリュウ 「自信はございまーす!お店、出したいくらいですよー?」 |
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ロジエッタ 「プロじゃないのね・・・素人の作るものなんて自己満足レベルでしょう?」 |
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アンドリュウ 「ムムム・・・・・厳しいおじょーさん。」 |
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アンドリュウ 「でしたら勝負でーすっ!! わたくしのスイーツ、食べ残せるものなら食べ残してごらんなさーい!」 |
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エディアン 「・・・・・!!」 |
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エディアン 「た、確かに疑わしい!素人ですものね!!!! それは私も審査しますよぉー!!・・・審査しないとですよッ!!」 |
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アンドリュウ 「かかってこいでーす! ・・・ともあれ材料集まんないとでーすねー!!」 |
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ロジエッタ 「大した自信ですね。私の舌を満足させるのは難しいですわよ。 何せ私の家で出されるデザートといえば――」 |
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エディアン 「皆さん急務ですよこれは!急務ですッ!! ハザマはスイーツ提供がやたらと期待できちゃいますねぇ!!」 |
3人の様子を遠目に眺める白南海。
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白南海 「まぁ甘いもんの話ばっか、飽きないっすねぇ。 ・・・そもそも毎時強制のわりに、案内することなんてそんな無ぇっつぅ・・・な。」 |
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白南海 「・・・・・物騒な情報はノーセンキューですがね。ほんと。」 |
チャットが閉じられる――