
打てる手は全て打った。
頼れるものにはなんでも頼った。
だからあとは――信じるだけ、だった。
一度は離れ離れになった後輩。
約一時間ぶりに見たその表情は、まさしく普段通りの彼女のものだった。
怪人と巳羽、二人の姿を認めたさきは、笑顔で駆け寄ってくる。
「バツ君、みゅーちゃんっ」
けれど、その足は――半ばで止まってしまう。
「…………」
彼女は自分の手のひらを見つめ、それから二人へぽつりと尋ねた。
「……私、まだ、私だよね? ちゃんと私に、見えてるよね?」
少女の問いは、あまりにも唐突で――
けれど、そうしてしまうのも分かる程に、その憔悴具合が見て取れるものだった。
瞳にありありと浮かぶ、不安の色。繕ったような笑顔には、彼女の本来持つ柔和な雰囲気は無い。
そしてその変化には、心当たりがあった。
『まず、影響力の低い方々に向けて。影響力が低い状態が続きますと、皆さんの形状に徐々に変化が現れます』
『ナレハテ――最初に皆さんが戦った相手ですね。多くは最終的にはあのように、または別の形に変化する者もいるでしょう』
脳裏に想起される、タクシードライバーの言葉。
それが意味するところはつまり、
侵略戦争の終結を待たぬ脱落が起きうる、ということだった。
怪人がかける言葉を見つけられずにいた時、先に一歩踏み出したのは巳羽の方だった。
さきが詰めることの出来なかった分、代わりに彼女が歩みを進めると――
迷いなく、少女はさきの手を取っていた。
「大丈夫。さっちゃんは、さっちゃんのままだよ」
「私達は、ここの生き物とも戦っているから。全く影響力を稼げていないわけでは、無いと思う」
単純な世界影響力の数値という点に限って言えば、ベースキャンプに避難している戦えない人々と
ハザマ世界を探索するイデオローグたちの間には大きな開きがある。
少女の言葉は気休めとは言え、理には適っていた。
――けれども、言葉を紡ぎながらも、巳羽の表情には翳りが差す。
・・・・・・・・・・・
そう、状況が変わってしまったからだ。
自身の事実上の死を天秤にかけられてしまえば、動かざるを得ない者も多く出てくるだろう。
その時は今まで以上に熾烈な影響度の奪い合いが起きる筈なのだ。
アンジニティの世界を生きてきたイデオローグにとって、それは明白な事実だった。
だから。
――だからこそ、怪人は。
そんな不安など何処かへ吹き飛ばしてしまうような明るさで、大きな声を上げるのだ。
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イデオローグ 「巳羽のヤツの言う通りさ」 |
一歩遅れてやってきたイデオローグ。
彼は手のひらを重ねる少女を二人纏めて――頭を軽くはたくようにしてぽんぽんと撫でた。
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イデオローグ 「おれたちは誰かに任せず、自分の手でイバラシティを守る為に此処まで戦ってきたんだ。 アンジニティのヤツらに少しぐらい遅れを取ろうが……なーに、 おれたちはまだこうしてピンピンしてるんだ! まだまだ取り返しがつくハズだって」 |
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イデオローグ 「あそこの鬼教官がおれたちを見限っちゃいねーのが何よりの証拠だよ」 |
少し離れたところに立ったままのオニキスへ視線だけをやって、再び二人へ戻す。
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イデオローグ 「それにな、おれたち四人の中で、何より身体を張って戦ってくれてるのは…… さき、巳羽。おまえさんたちなんだぜ」 |
「アンジニティ相手には確かに負けてしまったけれど、でも数度は打ち合えた。
全く歯が立たないわけじゃないんだよ。わたし達はちゃんと、前に進めていけてる」
イデオローグの言葉に頷きながら。ひとつひとつ、確かめるように巳羽が続ける。
そこで漸く、さきは落ち着きを取り戻したようだった。
「――うん、うん」
影響力の低い状態が続けば、ナレハテへと変化する。
その言葉が意味するものは一つ。
「影響力、稼ごうね、頑張るから」
戦いを避ければ、残りの時間を生き延びることは出来ない。
どれほど傷を負おうとも、どれほど心が折れようと、侵略戦争に背を向けることは、許されないのだ。
言葉を尽くして取り繕っても、それは変わらない。
この侵略戦争が、自らの意志で臨むものではなく、
半ば強制的なものとなった瞬間だった。
「ちゃんと、戦って、帰ろうね」
さきの悲痛な言葉に、じくりと胸の奥が痛む。
思わず握り締めていた怪人の両の拳からは、血が滲んでいた。
「不安になった時は何度見つめてくれたって、声をかけてくれたって、こうして抱きしめてくれたって、良いよ。
わたしはこの先いつだって、さっちゃんの近くにいるから」
二人の少女は抱き合って、互いの不安を受け止めようと気丈に振る舞っている。
「今回みたいに不安な思いには、もう絶対にさせない。わたしも、もっと強くなるから。
無事に、一緒に帰りたい気持ちは、みんな一緒だよ」
最も幼い妹でさえ、覚悟を決めているというのに。
最もか弱い少女でさえ、覚悟を決めているというのに。
怪人は己の浅慮を恥じていた。
二人の少女が決意したというのなら、どうしてそこに水を差すことが出来るだろう。
だから怪人は、二人の少女を。
その無理やりに奮い起こした戦意を。
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イデオローグ 「……ああ、その意気だ」 |
肯定した。
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イデオローグ 「男、結城伐都。誓って約束してやるさ。 おれは、おまえさんたちを必ず帰す。
ビビっちまったらアゲてやる。 ブルっちまってもアゲてやる。
ハレ高のレジデント、結城伐都様がいる限り、二人を化け物なんかに変えさせはしねえ」 |
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イデオローグ 「そうさ。おれたちは、皆で一緒に前へ進むんだ」 |
一行は再び、ベースキャンプを後にする――

[822 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[375 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[396 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[117 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[185 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
アンドリュウ
紫の瞳、金髪ドレッドヘア。
体格の良い気さくなお兄さん。
料理好き、エプロン姿が何か似合っている。
ロジエッタ
水色の瞳、菫色の長髪。
大人しそうな小さな女の子。
黒いドレスを身につけ、男の子の人形を大事そうに抱えている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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アンドリュウ 「ヘーイ!皆さんオゲンキですかー!!」 |
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ロジエッタ 「チャット・・・・・できた。・・・ん、あれ・・・?」 |
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エディアン 「あらあら賑やかですねぇ!!」 |
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白南海 「・・・ンだこりゃ。既に退室してぇんだが、おい。」 |
チャット画面に映る、4人の姿。
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ロジエッタ 「ぁ・・・ぅ・・・・・初めまして。」 |
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アンドリュウ 「はーじめまして!!アンドウリュウいいまーすっ!!」 |
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エディアン 「はーじめまして!エディアンカーグいいまーすっ!!」 |
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白南海 「ロストのおふたりですか。いきなり何用です?」 |
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アンドリュウ 「用・・・用・・・・・そうですねー・・・」 |
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アンドリュウ 「・・・特にないでーす!!」 |
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ロジエッタ 「私も別に・・・・・ ・・・ ・・・暇だったから。」 |
少しの間、無音となる。
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エディアン 「えぇえぇ!暇ですよねー!!いいんですよーそれでー。」 |
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ロジエッタ 「・・・・・なんか、いい匂いする。」 |
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エディアン 「ん・・・?そういえばほんのりと甘い香りがしますねぇ。」 |
くんくんと匂いを嗅ぐふたり。
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アンドリュウ 「それはわたくしでございますなぁ! さっきまで少しCookingしていたのです!」 |
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エディアン 「・・・!!もしかして甘いものですかーっ!!?」 |
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アンドリュウ 「Yes!ほおぼねとろけるスイーツ!!」 |
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ロジエッタ 「貴方が・・・?美味しく作れるのかしら。」 |
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アンドリュウ 「自信はございまーす!お店、出したいくらいですよー?」 |
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ロジエッタ 「プロじゃないのね・・・素人の作るものなんて自己満足レベルでしょう?」 |
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アンドリュウ 「ムムム・・・・・厳しいおじょーさん。」 |
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アンドリュウ 「でしたら勝負でーすっ!! わたくしのスイーツ、食べ残せるものなら食べ残してごらんなさーい!」 |
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エディアン 「・・・・・!!」 |
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エディアン 「た、確かに疑わしい!素人ですものね!!!! それは私も審査しますよぉー!!・・・審査しないとですよッ!!」 |
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アンドリュウ 「かかってこいでーす! ・・・ともあれ材料集まんないとでーすねー!!」 |
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ロジエッタ 「大した自信ですね。私の舌を満足させるのは難しいですわよ。 何せ私の家で出されるデザートといえば――」 |
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エディアン 「皆さん急務ですよこれは!急務ですッ!! ハザマはスイーツ提供がやたらと期待できちゃいますねぇ!!」 |
3人の様子を遠目に眺める白南海。
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白南海 「まぁ甘いもんの話ばっか、飽きないっすねぇ。 ・・・そもそも毎時強制のわりに、案内することなんてそんな無ぇっつぅ・・・な。」 |
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白南海 「・・・・・物騒な情報はノーセンキューですがね。ほんと。」 |
チャットが閉じられる――