
先生が珍しくよく寝ている間に、掃除機だと煩いのでフローリングワイパーで広い廊下を掃除する。
意外と掃除って体力使うよな、なんて思いながら隅っこの扉にワイパーの角が当たった瞬間。
「…………あれ」
開かない筈の扉が少し開いたものだから、おれは首を傾げてしまった。
Ⅸ. 拾い上げたピースが一つ
この家は間取りで言うなら4LDKだ。先生の部屋と、おれの部屋と、ピアノのある防音室。最後にずっと鍵が掛かった、謎の部屋。
防音室とは違って、その部屋は尋ねても先生は鍵を開けてくれなかった。内緒の部屋、と一言だけ。
まあ人の家に来て駄々をこねるわけにもいかないので聞いたのはそれっきりだし、開けようと思ったこともそれまであまり無かった。
無かったのだが。
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「…………」 |
鍵の掛け忘れだろうか。なぜか開く。どうせ開いたなら、中を覗くべきか否か。
親に隠れてこっそり悪いことをする、そんな子供の気分になったのは久々なことで、胸を覆うのは罪悪感と──やはり、少しだけ、抑えきれない好奇心。
(…………ちょっとだけ)
おれは心の中で唱えながら、結局湧き立ってしまった欲求に負けてゆっくりと部屋の扉を開けた。
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「…………ここ」 |
中は、なんてことない普通の部屋だった。
窓際にダブルベッド、壁際に机と椅子、大きな本棚と、それからドレッサー。
なんてことない普通の部屋だった。
なんてことない誰か……女性の。
(──彼女の)
部屋だ、と思ったのは、直感的に。
だってこの家で思い当たる人なんて、彼女以外居なかった。
つい部屋の中まで足を踏み入れて、家具を見渡す。どれもこれも綺麗だ。埃一つ積もっていない。
定期的に掃除されているのだと知る。誰がするかなんて、考えるまでもない。
机の上には一枚のファイルと、赤い表紙の日記帳が置いていた。
そのファイルの中に挟まっている紙には、見覚えがある。
死亡診断書。
誰かが亡くなったときに、その人はもう居ないのだと証明する紙切れ一枚。
おれもまだ持っている。あの人たちがもう居ないことを示すそれをずっと持っている。
心拍数が上がる。喉が急に乾いていく。手に汗が滲み出る。
だめだ、と思いながらも手にしてしまった。その紙に示された内容に目を通してしまった。
神園 あやめ 30歳
死因 不慮の外因死──交通事故
一瞬、息の仕方が分からなくなる。
この紙切れに書かれるその単語には、あまりにも見覚えがありすぎて。
(先生、も)
同じ、なのだと。
意識すれば頭を鈍器で殴られでもしたかのような感覚がして、忘れていた呼吸を思い出すように何度か深呼吸する。
この診断書から読み取れる情報としては、16年程前に事故があったこと、その時に先生と同じ苗字の彼女が亡くなっていること。
当時の先生は、今のおれと同じぐらいの歳で、彼女との歳の差は15もあること。
先生が、自らの口では語ってくれない過去がこの部屋には在る。
そのことを知ったおれは、気付けば横の日記帳にも手を出しかけて。
「──みーこと」
でも、そんなおれの手に重なる掌があった。
その瞬間とても変な声が出たし兎のように跳ねてしまったし、とにもかくにもみっともない姿を見せてから慌てて振り向いたら、想像通り寝起きの先生がそこに立っていた。
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「っご、……ごめんなさい、勝手に……!!」 |
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「いやまあ、私も入っちゃダメとは言わなかったから、怒れはしないけど」 |
言葉通り怒っている素振りはないが、触れた手がそれ以上は触らないでと訴えているのが分かる。
勝手に人の過去を覗き見しようとしてしまった罪悪感から、もう一度ごめんなさいと謝罪を口にした。
いいよって笑いながら先生が頭を撫でてくれる。撫でながら、おれの手にあるそれを引き抜いては、伏せて机に置いた。
許されたことに安堵を覚えながらもおれは先生の笑顔を見上げる。きっとこれ以上は何も言わない方がいいのは分かっていたくせに。
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「……一つだけ、聞いてもいいですか?」 |
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「なあに」 |
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「あの、……誰が、この部屋に住んでいたんですか?」 |
最後に一つ、どうしても。
気になることがあったから、問い掛けてしまった。
先生は目を細めた。なんだかちょっぴり、どこか痛そうだったから。結局それを聞いたことさえ後悔してしまったけれど。
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「……母親」 |
だけど、初めて、誤魔化さずに教えてくれた。
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「血は繋がってないけれど、5年間だけ一緒に暮らしたの」 |
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「5年……だけ?」 |
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「うん。10歳のときから、5年間だけ、この家で」 |
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「……それ以外は?」 |
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「一人だよ」 |
多分、あんまりうまく理解が出来ていない表情を浮かべてしまっていたのだと思う。
だから先生はぐしゃぐしゃと、さっきよりも少し乱暴におれの頭を撫でた。
気にするなとでも云うように。
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「変な家だから」 |
それだけ言って、あとはもうおしまい。
背を押されて一緒に部屋から出て、扉にはまた鍵がかけられる。
部屋の前では彼女が壁に凭れて、ただいつもみたいに笑っていた。

[816 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[370 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[367 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[104 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[147 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
チャット画面にふたりの姿が映る。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・怖いだろうがよ。」 |
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エディアン 「・・・勘弁してくれませんか。」 |
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白南海 「ナレハテってあの!アレだろォッ!!?ドッロドロしてんじゃねーっすか!! なんすかあれキッモいのッ!!うげぇぇぇぇうげえええぇぇぇ!!!!!!」 |
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エディアン 「私だって嫌ですよあんなの・・・・・ ・・・え、案内役って影響力どういう扱いに・・・??私達は関係ないですよね・・・????」 |
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白南海 「あんたアンジニティならそーゆーの平気じゃねーんすか? 何かアンジニティってそういう、変な、キモいの多いんじゃ?」 |
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エディアン 「こんな麗しき乙女を前に、ド偏見を撒き散らさないでくれます? 貴方こそ、アレな業界の人間なら似たようなの見慣れてるでしょうに。」 |
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白南海 「あいにくウチはキレイなお仕事しかしてないもんで。えぇ、本当にキレイなもんで。」 |
ドライバーさんから伝えられた内容に動揺している様子のふたり。
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白南海 「・・・っつーか、あれ本当にドライバーのオヤジっすか?何か雰囲気違くねぇ・・・??」 |
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エディアン 「まぁ別の何か、でしょうね。 雰囲気も言ってることも別人みたいでしたし。普通に、スワップ発動者さん?・・・うーん。」 |
ザザッ――
チャットに雑音が混じる・・・
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エディアン 「・・・・・?なんでしょう、何か変な雑音が。」 |
ザザッ――
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白南海 「ただの故障じゃねーっすか。」 |
ザザッ――
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声 「――・・・レーション、ヒノデコーポレーション。 襲撃に・・・・・・・・いる・・・ 大量・・・・・こ・・・・・・死体・・・・・・ゾ・・・・・・」 |
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声 「・・・・・ゾンビだッ!!!!助け――」 |
ザザッ――
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「ホラーはぁぁ――ッ!!!!
やぁぁめろォォ―――ッ!!!!」 |
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エディアン 「勘弁してください勘弁してくださいマジ勘弁してください。 ホラーはプレイしないんですコメ付き実況でしか見れないんですやめてください。」 |
チャットが閉じられる――