Cross+Roseを介した通信。






赤い髪のこども。
作楽誘乃の友人。






かわいそうな、ヒト。













どうして。

どうして。どうして。どうして。どうして。

どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。

どうして？



どうして、苦しい只中に生きようとする？



だって。



冷たく寂しい世界から逃れて。
微睡みのなかで永劫傷つかないことは、今よりずっと幸せなはずでしょう？








黒い髪のこども。
作楽誘乃の友人。

人間ならぬ、白い鬼のヒト。








通信の履歴をなぞる。なぞる。


殺す、だなんて。










不可解を繰り返す。反芻する。








人間。人間ならざるもの。それが知る、それの全て。
在り合わせのヒトの心を継いで、接いで。
理屈を組み上げて、イコールで結ぶ。





……それとも。
ぼくの知る記憶や感情、そのいずれとも違ったとして。

　　　喰らった　　　
きみたちのことを知ったなら、全て解る？








未だ、わからないことばかりだ。

ヒトは、本当に興味深い。
ヒトは、脆いいきものの筈なのに。

故にこそ。








会いに行くよ。


そうしてぼくに。

きみのことを、教えてよ。

---

もし、間違っていたと糾弾されても。
もし、罪が赦されても。

もし、都合の良いまぼろしであっても。
もし、悔いることがあっても。

思いが存在した事実を、否定してはいけないと思う。





◇　◇　◇





彼が彼女への声掛けを欠かしたことは、殆ど見なかった気がする。


私が異能を手に入れたあの夜を過ぎても。
私がその本質を理解しても。ずっと。
私がそうする前から、変わらずにいたものがあった。


「ごめん」と。小さな声がする。
かげぼうしを映した写真立てへ。私に背を向けて。


私は決まって、見ないふりをした。
彼がどんな顔をしているか。彼がどんな心持ちでいるか。
或いは、彼がどんな目で私を見るか。
真っ直ぐに受け止めることができなかった。


彼もまた、見ないふりをした。
その時だけは、一瞥を向けるだけで。
心を荒げることなく、衝動は失われた。


こびりついたヤニのにおいが、行き場をなくして漂っている。

そんなものですら、私達を繋ぐ“えにし”のように思えた。

哀しみと、痛みが。
背を向け合う二人を、どうしようもなく歪に繋いでいる。



「ごめん」と。啜り哭く声がする。



私は、その背中を憎めない。

大切なものを欠いた今も、憎めないままでいる。





私にとっての救いで、呪いの時間。

こうして朝が来るたびに。
私達はまだ大丈夫なんだと安堵し、希望を見出す。

私達が背負った十字架を、何度でも思い出す。










事故だった。

世界のほんの隅、活字の切れ端。

誰かにとっては、なんでもないような。

なんでもないような人間のひとつぶ。それが。
誰かの日常の片隅で、消えていた。

それでもその矮小な事実は。
ほんのひとつまみだけ、日常の意味を変える力を持っていた。








もし、間違っていたと糾弾されても。
もし、罪が赦されても。

もし、都合の良いまぼろしであっても。
もし、悔いることがあっても。

思いが存在した事実を、否定してはいけないと思う。











「かあさん」




「ごめんなさい……」




誰かのせいで死んだ、誰かがいた。





贖罪と、憎しみを抱えて。
終わることもできないままで。

日常は、続いていた。

▲	ケイ 「……桜の木で、俺の事知ってるのは限られてる。 　最近見かけた桜になると、あの桜が頭から離れなかった。 　あとはただのカン、なんだけど……これは外れて欲しかった。」 淡々と言葉を並べながら胸がざわつく。 フードの襟を掴むようにして、落ち着かせようとしている。

	「そ、そうか。…この世界にいるのは、悪い知らせだ。 　でも、桜さんが守ってくれてるなら―。」 安心はできなかった。違和感の正体が掴めない。 しばらくじっと、考え込むように固まった。 ゆっくりと確かめるようにあなたの周りを見る。

	「おかしい、やっぱおかしいよ。 　なんであの子の姿や園長さんが見えない、のに、俺と話したがってるなんて分かるんだ。 　あっちではあの子は俺の大事な友達だ。なのに、なんで俺には分からない。」

	「…友達とは、いっぱい遊ぶのは当たり前だ。 　思い出、作りたい。そして忘れないようにしたい。」 イバラシティで過ごしたゆるやかな幸せな記憶が、 そして、温かくも安心が出来ない漠然とした恐怖が覆い被さって重い。 辛うじて出したこの言葉もひどく元気のない、 だが、願いを振り絞ったかのような声音だった。

▲	トキ 「……は」 トキ 「……はは、ははは。ズイブンさァ、ナメてくれるじゃん」 トキ 「聴こえてるんでしょ。 　分かったよ。そっちがその気なら、乗ってあげる」 トキ 「……汚しにいく。キミを、いつか。 　ボクはさァ……“千崎トキ”ほど、優しくないよ」 トキ 「……優しくなんか、」 　通信が切れる。

▲	命 「随分と、おれのこと、褒めてくれるんですね」 殊勝だと何度も口にしてくれるから、眉を落としながらも素直に受け取っては頬を掻いたけれど。

	命 「……………………」 見たくないものについて尋ねられると一度視線を逸らす。 それは、何を指しているのだろう。 今のこの現状？　それともこの瞳のこと？ 内心首を傾げては、言葉を返すまで少し。

	命 「……そうですね」 そうして口を開いて視線をあなたへと戻せば、頷いた。

	命 「本当は。 　見たくないものを見ることは、 　すっごく怖いときもあるし、気が狂いそうなときもある」

	命 「見えなかったらいいのに、夢だったらいいのにって思ったことは。 　一度や二度じゃありませんけれど……」

	命 「……ねえでも、おれが現実を見つめるからこそ。 　気付いてあげられる存在が、あるんですよ」 思い出したのは口に含んだいちごミルクの味と、舞い落ちる桃色の花弁。

	命 「そう思ったらおれ、悪くないなって思ってるんです、この現実も。 　だからおれは夢じゃなくて、おれが見てる現実を生きると思います。 　心配してくれているのに、ごめんなさい」

▲	「見事……そうだな。立派であった。双子は事情がありそうだったが。しかし、親近感？木が好き、ということか？」 感覚の違いは面白いが難しい。首については一旦諦めることになった。この世界では若い男とトラブルになる可能性もさほど高くないだろう、と。

	しばらくの時間がたって。 「……少々文が長すぎたようだ。失礼した。もちろん妻は好きだ。愛、という。しかし好きと愛の違いは俺にもよく判らない」 落ち着いたようだ。画面の前で反省している。頭を抱えて悶えているかもしれない。 「妻はこちらに来ていない。別の島……いや、世界にいてね。単身赴任というやつだ」

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