
ひとつの死体を見下ろしていた。
どろりとした紅の水溜まりに伏せるもの。
生死を直に確認したわけではないけれども、放っておけば同じことだった。
きっと何が起きたのかもわからぬ内に屠られたのだろう。抵抗する術もなく、戸惑う猶予も与えられずに。
それを。自分はただ、目を離すことなく、見下ろしていた。
なんて、哀れなのだろう。と──
ぐらりと揺れた視界が戻る。赤黒い空の荒廃した街並み。ハザマの世界。
「うさ子ちゃん、大丈夫?」
俺の手を引く莉稲が心配そうに振り返っていた。握られている感覚が戻ってくる。
不安定な船にでも揺られたように視界が回った。今、何かを見た途端。今、何を見ていた──?
認識しようとしたそれは揺れる意識の波に飲まれて流されていく。
「なァんかぼんやりしてたジョー、お前」
鰐淵さんが怪訝そうに声色を低くしていた。
しっかりしなければならない。こんな所で倒れる訳にはいかないのだから、
両手を頬のぱしんと打ち付ける。
「すみません! ちょっと、なンかくらついちゃって。でも大丈夫です!」
「疲れてるんじゃないかなあ……。無理しないで」
「はい、お気遣いありがとうございます!」
ピースサインを作って笑ってみせる。笑顔を作るのは慣れた方だ。
「向こう」の俺の記憶とも、違うなにか。夢のようなものを見ていた気がする。
既によく思い出せない。胸に突き刺さるような焦躁と嫌悪感のような感覚だけが残っている。
おぞましい話を聞いたばかりで影響を受けているのかもしれなかった。
“影響力が低い状態が続くと、形状に徐々に変化が現れる”──
とんでもない話を聞かされたものだ。変化の一例として挙げられたものが、最初に出会った血の色のバケモノなのだからなお後味が悪い。
「うさ子ちゃん」
莉稲が足を止め、俺の──否、因幡うさ子の名を呼んだ。
「無理しちゃだめ。心配することなんてないからね。りーねお姉ちゃんが守ってあげる」
そのまま彼女は因幡うさ子を強く抱き締める。
「へ」
脳裏で蠢いてた不快な揺れがすっと引いていく。
いつも華奢で小さく感じていた莉稲の体に、包み込まれるような錯覚を覚えた。きっと、因幡うさ子の方が小さいから。
「だ、大丈夫ですよ! 私、丈夫なんですから! これくらい平気です!」
我に返って腕から抜け出そうとすると、一際強く抱き竦められた。──うさ子の力なら、彼女を引き剥がすことも可能そうではあるのだが。切々と少女を想って、不安ごと抱かんとする莉稲を撥ねのけるのは野暮に思えて抵抗をやめる。
「嬢ちゃんはやっさしーナァ~~~~コレならうさ子もきっと落ち着くジョ~~~~~」
野暮全開の鰐淵さんを努めて無視しながら、俺は莉稲と暫く身を寄せ合っていた。

[816 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[370 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[367 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[104 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[147 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
チャット画面にふたりの姿が映る。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・怖いだろうがよ。」 |
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エディアン 「・・・勘弁してくれませんか。」 |
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白南海 「ナレハテってあの!アレだろォッ!!?ドッロドロしてんじゃねーっすか!! なんすかあれキッモいのッ!!うげぇぇぇぇうげえええぇぇぇ!!!!!!」 |
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エディアン 「私だって嫌ですよあんなの・・・・・ ・・・え、案内役って影響力どういう扱いに・・・??私達は関係ないですよね・・・????」 |
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白南海 「あんたアンジニティならそーゆーの平気じゃねーんすか? 何かアンジニティってそういう、変な、キモいの多いんじゃ?」 |
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エディアン 「こんな麗しき乙女を前に、ド偏見を撒き散らさないでくれます? 貴方こそ、アレな業界の人間なら似たようなの見慣れてるでしょうに。」 |
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白南海 「あいにくウチはキレイなお仕事しかしてないもんで。えぇ、本当にキレイなもんで。」 |
ドライバーさんから伝えられた内容に動揺している様子のふたり。
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白南海 「・・・っつーか、あれ本当にドライバーのオヤジっすか?何か雰囲気違くねぇ・・・??」 |
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エディアン 「まぁ別の何か、でしょうね。 雰囲気も言ってることも別人みたいでしたし。普通に、スワップ発動者さん?・・・うーん。」 |
ザザッ――
チャットに雑音が混じる・・・
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エディアン 「・・・・・?なんでしょう、何か変な雑音が。」 |
ザザッ――
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白南海 「ただの故障じゃねーっすか。」 |
ザザッ――
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声 「――・・・レーション、ヒノデコーポレーション。 襲撃に・・・・・・・・いる・・・ 大量・・・・・こ・・・・・・死体・・・・・・ゾ・・・・・・」 |
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声 「・・・・・ゾンビだッ!!!!助け――」 |
ザザッ――
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「ホラーはぁぁ――ッ!!!!
やぁぁめろォォ―――ッ!!!!」 |
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エディアン 「勘弁してください勘弁してくださいマジ勘弁してください。 ホラーはプレイしないんですコメ付き実況でしか見れないんですやめてください。」 |
チャットが閉じられる――