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金色の系譜 - 敗走編 - Chapter 3 地獄
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霊能装甲『カクジャック』
僕の生涯は、この装甲のためにある。
僕の絵描きとしての努力と技術は、弾丸として銃に込める。
あらゆる霊的存在を制するため、夜な夜な街を徘徊する。
僕は父さんの言いなりだ。
僕の父さんは普通の人よりも霊感が強い。同じ血をひく僕も、同様に霊感が強い。
でも、父さんは町工場の工場長だし、僕は絵描きのたまご。
霊感が強いとはいえ、日常を過ごす分にはそういったものには縁がないのだ。
……と、思いこんでいたのだけど、実のところ父さんはそうではなかった。
趣味で密かに妙な兵器を開発していたのだ。
家の町工場と、工場長という立場を隠れ蓑に、
母さんにも他の従業員にも知られないように、たったひとりで。
霊力や魂、怨念、それに類するものを原動力とする装甲兵器。
なぜそんなものを作るのか、尋ねればこう答えた。
父さんの自己満足・優越感のためだけに、
誰かを傷つけるためのものが生み出されている。
趣味でやって良いことではないことぐらい、僕にもはっきりとわかった。
僕が父さんの趣味を知ったのは、中学1年の12月29日。
父さんは、いつも僕に見向きもしない人だったから、
もちろん誕生日プレゼントなんてくれたことはなかった。
父さんからの、はじめての誕生日プレゼント。
このプレゼントこそ、父さんの趣味の要。僕がこの家に生まれた意味。
僕という名の『原動力』を、父が夢見る最高の武装に組み込むための機巧。
……『ジャックリスト』
この人に逆らってはいけない。
逆らえば、きっと酷いことが起きる。
僕はしばらくの間心を閉ざして、
母さんにも、工場の人にも、黙って隣で絵を描くだけの幼馴染にも、黙っていた。
唐突に肩に乗せられた大荷物を抱えながら、じっと耐えた。
でも、秘密というのは、ずっと胸に止めておくのは苦しい。
隠し事が重荷であればある程、苦しみから逃れたい。
誰かに話したい、助けてほしいという欲が生まれる。
それが例えば、僕に良くしてくれる人であればあるほど、
信頼できる人であればあるほど、油断が生まれる。
つい出来心がわいてしまう。
いくらなんでも父さんだって……
それ以降も不幸は続く。
僕に懐いた野良猫が、次の日死体で見つかった。
授業で育てた魚や植物は、順調に育ちはじめたところで急にだめになった。
僕が中学で『厄病神』と呼ばれ、避けられるようになっても
変わらず接してくれた優しい友達は、ある日突然高熱を出しながら生死をさまよった。
僕の周りで不幸に見舞われるのは、僕と親しく、寄り添ってくれる存在。
これらの事故が、誰によって引き起こされるものなのか、考えずともわかる。
なぜなら……
彼らが命を手放すたびに、
『カクジャック』が僕の体に、より馴染むようになるからだ。
この装甲には『僕に寄り添ってくれる魂』が組み込まれている。
僕に優しくしてくれる存在は皆、怨霊に取り憑かれたり、死の呪いをかけられて、
父さんの趣味の『素材』に使われる。
僕は、何もできなかった。
僕も霊の存在を感知できるから、霊をこの身に引き寄せるのは得意だから、
彼らに取り憑いた怨霊を引きはがして、僕に移すことを何度も試したけど、無理だった。
父さんが怨霊を彼らに貼り付ける力の方がずっと強固だったんだ。
これは余談だけど……
不幸が続く地獄のような中学時代でも、一切ぶれることのない人がいた。
そう、あの近郷瀬奈だ。
あの人はいくら隣にいたって僕に声もかけない。その意識は眼前の絵の先にしかない。寄り添いと程遠い。
だから、父さんにも狙われなかった。
僕が秘密さえやぶらなければ、安全が保証される唯一の人。
だから、彼女の隣で絵を描くことは、
中学生になった僕にとっても心の拠り所であることに変わりはなかった。
……例の高校入学の日から、妙なすれ違いが始まってしまったのは気がかりだけど、
もう中学の頃のように、父さんが凶行に走ることはなくなったのだから
彼女が危険な目にあうことはない。
不良御曹司もとい、セタリアだってそう。
普通に同級生として、友達として会話して、接することができる。
これからは、もっと普通の日常を——
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