
「そうそう、君のアレ。結果出たよ」
安居酒屋の喧騒の中、薬科の女史が何の脈絡もなく唐突にそう言いだした。
「最後の唐揚げ貰うよ」と同じ感覚で自分の人生に関わることを言い出すのやめてもらいたい。
秋雨はそう思いながら遠慮の塊の唐揚げを口に入れた。
「異能だね」
「まあそうでしょうね」
半ば予想していたのか、秋雨は唐揚げを頬張りながらそう返した。
一方の女史はその返答に些か不満げな表情を浮かべている。
ことの発端は昨年の送別会でのことだ。
万年助手と言われていた先輩がついに助教として、戦場研究室から旅立つことになったのだ。
…事件はその送別会で起きた。
安めの居酒屋
生牡蠣
何も起きないわけがなく…
中ったのだ。
綺麗に、参加者全員。
翌日、皆が死んだ顔で病院に行く中、秋雨は一人だけケロッとしていた。否、エヘエヘしていた。
検査の結果、生牡蠣が原因のノロウイルスに送別会参加者全員が感染、秋雨も例外なく感染していた。
しかし何の症状もなく、ただただエヘエヘしていたのだ。
そのまま大学病院中を引き回され、検査検査の嵐。
その結果が女史の語ったそれだった。
「トキシン…生物毒をドーパミンに変換する異能みたい。
ドーパミン、つまり快楽物質、脳内麻薬。生物毒が体に入るだけでウフフ状態になるってことだね」
「地味にヤバいやつじゃないですか」
「派手にヤバいよ」
ボツリヌス菌も怖くない、そう言って女史はガッツポーズをした。
「トキシンだけなんですか?効果があるのは」
「うん。だから白い粉舐めて ペロ、これは青酸カリ とかやったら普通に死に至る。
あれはシアン化合物だからね」
「どこかの眼鏡の青ジャケットボーイじゃあるまいし…、そんなことしませんよ」
「素人が捌いたフグ食べられるからね、よかったね。って異能学の先生が言ってた」
よかったねじゃない、秋雨は心底思った。
「不満そうな顔してるね。異能じゃない方がよかった?」
「いや、そういうわけではなく…」
不満と言えば不満なのだ。
欲を言えばもっと格好いい、生活に役に立ちそうな異能が良かった。
この異能が役に立つ場所は一体どこにある?
…食中毒には強い、そう考えるとちょっと便利だ。
秋雨は何とも言えない顔になった。
「なんか…派手にヤバい割には地味だなと思って…」
これは本音だった。
まさかキめるためにそうとわかって賞味期限の切れた物を食べるほどアホではない。
それに味覚は正常だ、明らかに傷んでると判断した味の物は普通に不味い。
だからもう一回
「地味ですよね、この異能」
と念を押すように言ったのだった。
女史はそれに対して「まあね」と言うと首を傾げてにこやかにこう言った。
「だからね、名前だけは立派なのがいいと思ってね。
秘匿のミトリダティウム<シークレット ギフト>、そう呼ぼうか、その異能」

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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エディアン 「・・・おや。チェックポイントによる新たな影響があるようですねぇ。」 |
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エディアン 「今度のは・・・・・割と分かりやすい?そういうことよね、多分。」 |
映し出される言葉を見て、腕を組む。
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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エディアン 「あら!梅楽園の、カオリちゃんとカグハちゃん?いらっしゃい!」 |
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カグハ 「おじゃまさまー。」 |
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カオリ 「へぇー、アンジニティの案内人さんやっぱり美人さん!」 |
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エディアン 「あ、ありがとー。褒めても何も出ませんよー?」 |
少し照れ臭そうにするエディアン。
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エディアン 「間接的だけど、お団子見ましたよ。美味しそうねぇあれ!」 |
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カオリ 「あー、チャットじゃなくて持ってくれば良かったー!」 |
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カグハ 「でも、危ないから・・・」 |
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エディアン 「えぇ、危ないからいいですよ。私が今度お邪魔しますから!」 |
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エディアン 「お団子、どうやって作ってるんです?」 |
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カオリ 「異能だよー!!私があれをこうすると具を作れてー。」 |
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カグハ 「お団子は私。」 |
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カオリ 「サイキョーコンビなのですっ!!」 |
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カグハ 「なのです。」 |
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エディアン 「すごーい・・・・・料理系の異能って便利そうねぇ。」 |
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カオリ 「お姉さんはどんな能力なの?」 |
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エディアン 「私は・・・アンジニティにいるだけあって、結構危ない能力・・・・・かなー。」 |
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カグハ 「危ない・・・・・」 |
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カオリ 「そっか、お姉さんアンジニティだもんね。なんか、そんな感じしないけど。」 |
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エディアン 「こう見えて凶悪なんですよぉー??ゲヘヘヘヘ・・・」 |
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カオリ 「それじゃ!梅楽園で待ってるねー!!」 |
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カグハ 「お姉さん用のスペシャルお団子、用意しとく。」 |
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エディアン 「わぁうれしい!!絶対行きますねーっ!!!!」 |
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エディアン 「ここじゃ甘いものなんて滅多に食べれなさそうだものねっ」 |
チャットが閉じられる――